ターボ向後のマニアック音楽シーン探訪

鬼才MV監督カニンガムや俳優マイク・マイヤーズの作品も 注目の洋楽ドキュメンタリー4選

YouTubeにて全編無料公開中、BlurのD.アルバーンやD.バーンらが「神」とあがめる

謎のファンクマスター、William Onyeaborのドキュメンタリー『FANTASTIC MAN』

 洋楽のドキュメンタリーでは、関係者やその主人公をリスペクトする人々によるインタビューによって作品を構成する、いわゆる「TALKING HEAD」と呼ばれる手法が良く使われる。その中で注目したいのは、70年代に彗星のように現れ、中古盤市場ではその作品がウン万円で取引されていたナイジェリアのFUNKミュージシャンWilliam Onyeaborを題材にした『FANTASTIC MAN』だ。

 同作は、以前よりそのコズミックでアウトサイドな変態的ファンクサウンドに魅せられていた元トーキングヘッズのD.バーンが、自らのレーベルLUAKA POPから究極のコンピレーション『WHO IS William Onyeabor』をリリースするのに合わせて制作されたもので、VICE MAGAZINEのYouTubeチャンネルで全編公開されている。

'Fantastic Man' (Full Length) - A Film About William Onyeabor

 BlurのD.アルバーンらが嬉々として語る、危険なまでの「中毒性」を帯びたサウンドは、発売から40年近く経った今も魅惑的。EDM系のデジタルサウンドとは真逆ともいえる、生々しいグルーヴの危うさを見る者に突き付けている。

世紀の変わり目に鳴り響いた「美しいノイズ」の意味とは?

オルタナからシューゲイザーまでを総括する叙事詩的作品『BEAUTIFUL NOISE』

 没後20年という節目で、先月もその死をめぐって様々な憶測が流れたカート・コバーンのNIRVANAに代表されるグランジや、いまだに新しいフォローワーを生み出しているシューゲイザームーブメントなど、1990年代に生まれたいわゆる「オルタナティブミュージック」。"オルタナ"がロック史に投げかけたのはノイズの意味、ちょうど画家のクリムトがやはり世紀の変わり目にキャンバスを金箔で塗りつぶしたように、様々な優れたバンドがその音楽に美しいノイズを導入し、新しいサウンドを模索した時代だった。そんな特異な季節に活躍した様々なバンドの「音の秘密」に肉薄しようと試みた作品、それが『BEAYTIFUL NOISE』である。

Beautiful Noise - Trailer

 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザスアンドメリーチェイン、ライド、コクトーツインズ、ナインインチネイルズ、スマッシングパンプキンズ、プライマルスクリーム、フレーミングリップス……。ノイズとポップスの融合に没頭した音の冒険者たちが、自らのサウンドについて振り返る壮大なドキュメンタリー。構想から4年、先日ついにシアトルフィルムフェスティバルにて初上映となったこの作品は、音楽ファン必見のドキュメンタリーである。

 有名な坂本龍一氏の「エナジーフロー」の逸話に顕著だが、音楽の現場においてはその「偶然性」が優れたポップミュージックを生むように、音楽ドキュメンタリーにおいても決定的な奇跡の一瞬を捉えるには、撮る側にも撮られる側にも、カメラの存在を特別視しない音楽と映像のフラットな関係性が不可欠である。

 YouTubeやUstreem、ニコニコ動画、ツイキャス、そしてインスタグラム、VINEといったSNS系動画サービスの普及により「動画と音楽」を同じ次元で捉えることができる環境が整い、その事に意識的なミュージシャンが増加している昨今、洋楽と同じように邦楽においても今後、様々な優れた音楽ドキュメンタリーが作られていくに違いない。

■ターボ向後
AVメーカーとして史上初「映像作家100人 2014」に選出された『性格良し子ちゃん』を率いる。PUNPEEや禁断の多数決といったミュージシャンのMVも手がけ、音楽業界からも注目を集めている。公式Twitter

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