『ロットバルトバロンの氷河期』インタビュー

期待の新鋭、ROTH BART BARON登場「過去から学んだことは教師でもあり反面教師でもある」

「大人が組み上げてきたものを、良い意味で倒していかなければならない」

――今作の音に関しては、フォークミュージックという聴き方も出来ますが、ノイズの要素も強いですね。

三船:僕は面白い音が入ってるレコードを探すのが好きで。中後期のビートルズみたいに、普通の人が「ん?」って思うようなアイデアを入れたかったんです。だからホーローのカップを沢山集めて使ったり、コンピュータでディレイとリバーブをいっぱい掛けてからあえてタイトにしてみたり、シンセサイザーとピアノも1台だけじゃなくて5,6台ずつ使ったりとか。あとは、ミュージカルソーという、弓でのこぎりを弾く楽器を使ったりしますし、ボーカルもiPhoneで録ると、昔のリボンマイクみたいな音が出るんです。それが気に入ってしまって、録音の時には多用してます。

――これからどんな音を取り入れてみたいですか?

三船:ロックバンドっぽい音ですかね。このアルバムもそんな感じにしようと最初は思ってたんですが、出来てみるとそんなことはなくて。だから次もパワフルな音にはならないんだと思いますけど(笑)。

――アルバム冒頭の3曲と、アルバムタイトルに「氷河期」という文字が入っていますね。

三船:前のアルバムを作った直後から「氷河期」という言葉に面白さを感じていて。セッションで曲を作るときに、「この曲は氷河期っぽい感じで」とか、「犬ぞりに乗ってる感じ」とか。そういうイメージをバンドに伝えるんですけど、そこに氷河期のイメージが多くなってきて。

中原:彼が元々持ってるビジョンっていうのは、毎回文字にしてもらうとわかりやすくて。「この曲はこういうイメージだ!」とか。

三船:「凄い寒いところにいて、手がかじかんじゃって、ストーブに手を当てて『あー、ちょっと変な感じ』みたいなやつをやりたい」とかそういう感じで伝えてますね(笑)。

――今はデータのやり取りで録音するバンドが多いけど、顔を合わせて作ることが多いと。

三船:両方ですね。データのやり取りが便利な時もありますし。録音することが好きな連中だから、プリプロの段階で入念に作りこんじゃうんですよ。でもあまりやりすぎると、本番のレコーディングの時に新鮮さが無くなってしまうので、そこは気を付けてます。各々が家で作りこんできたものを実際にプレイしてみて、ダメならまた持ち帰って練り直して貰ったり。そういう両方のプロセスを踏んで、完成している音だと思います。

――最近は過去の優れた音楽がネットなどで手軽に聴けるようになりましたが、お二人は過去のアーカイブに対してどのような接し方をしていますか。

三船:過去の音楽に対するリスペクトはありますけど、それを壊していかないといけないとも思います。ロックミュージックの歴史って、いわゆるキッズたちのものだと思うので、大人が組み上げてきたものを、良い意味で倒していかなければならないというのは、礼儀としてあるのかなと。でも、結局その考え方自体も古いから、「過去の音楽と戦わない」っていうやり方が増えてるのかもしれませんね。でも、その歴史に触れあえたらやっぱり嬉しいですよね。今回の作品をレコーディングをしたスタジオは、トーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』とか、マドンナのファーストを録ったコンソールなんですけど、「初めてロックヒストリーに触れられた!」ってテンションが上がりました。過去から学んだことは教師でもあり反面教師でもあるので、そこは上手く対峙していきたいですね。

――「ぶっ壊してやろう」みたいなスピリットはある?

三船:そうですね。壊した後のことを考えると、やるべきタイミングは重要だと思います……革命を成し遂げた人のその後は大変なことになりますから(笑)。もしかしたら壊さない方が幸せかもしれないですし。

――なるほど。壊すのは難しい面があるからこそ、過去のアーカイブをパッチワークしたり、戯れたりする作品も増えてきているのかもしれません。

三船:僕らはもう少しシリアスなのかもしれないですね。上澄みの部分だけ掬った「一泊二日のバスツアー」みたいなことが出来ないというか。ドカドカと人の土地に土足で入ってきて、街を見た気になってお土産を買って、写真を撮って、奪ったようにして帰っていく……みたいなことは絶対したくないですし、そういう風には生きれないなと思いますね。

中原:音を作っていく中で「これはやり尽くされている音じゃん」というものは必然的に出てくると思うんですけど、レコーディングした録音物は自分たちの個性がパッケージングされて、絶対同じものにはならないと思います。自分の知識で分かるレベルで「これをやったらまったく一緒になってしまう」というラインはありますが、そこに対して「こうやったら楽しくなる」と思えるような、今まで知識の中になかったものを取り入れることで新たな音を作っています。

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