「元EXILE」から「唄い屋」へーー清木場俊介、ソロシンガー10年の歩み

3月5日に「唄い屋・BEST Vol.1」をリリースした清木場俊介

 元EXILEのリードボーカル。今や国民的人気を誇るグループでボーカルを担っていたという事実が、まるで十字架のように長いこと彼の背中にのしかかっていた。グループを人気絶頂の最中に脱退、単身でソロ活動をはじめた彼は常に「元EXILE」という目で見られ、至るところで比較され続けた。それでも彼は唄うことを止めない。転がるような道を「ひたすら前だけ見つめて今、ここまできた」−そんな10年間だった。

 男の名は清木場俊介。幼い頃から長渕剛や尾崎豊の音楽に触れ親しんで育った清木場は、中学生の頃からアコースティックギターを手に弾き語りやバンド活動をスタートさせる。高校中退後は自身で建築関係の会社を設立、仕事が終わると夜な夜な路上へ繰り出し書き溜めた歌の弾き語りを続けた。そんな彼に転機が訪れたのは2001年。地元テレビ局のボーカルオーディションで優勝した清木場の姿が偶然その場に居合わせたavex社員の目にとまりEXILEのレコーディングに参加することに。そして21歳の夏にシングル「Your eyes only 〜曖昧なぼくの輪郭〜」でEXILEのボーカルSHUNとしてデビューすることとなる。まさにシンデレラ・ストーリーのようなキャリアのスタートであった。

 EXILEの活動は順調だった。グループの知名度は早々に広まり、リリースする曲すべてがランキングで上位に入るなどセールスもデビュー当初から好調であった。グループ内の人気はツインボーカルのATSUSHIとSHUNで二分され、彼は紛れも無くEXILEの顔であった。そんな誰もが羨むような状況の中でただ一人、清木場俊介本人だけが自身の描く「唄い屋」像とのギャップに苦しんでいた。EXILEとしての活動が成功し取り巻く環境が変化するなか、与えられた役と持って生まれた性が乖離し折り合いがつかなくなっていく。そこで彼は大きな決断をくだす。まずは2004年春に「清木場俊介」の封印を解除。24歳でソロ活動をスタートさせ、翌年「いつか…」でソロデビュー。そして2006年3月29日にEXILEを正式に脱退し、音楽活動をソロへ専念する道を選んだ。

「唄い屋・BEST Vol.1」はそんな清木場俊介のソロ活動10周年を記念した初のベスト盤。デビュー曲「いつか…」から昨年リリースされたアルバム「FIGHTING MEN」収録の「ROLLING MY WAY」まで、計14曲をリアレンジ・再収録したものである。本作を聴くと改めて清木場俊介というシンガーの凄み、そして懐の深さに気付かされる。彼の唄をどのように形容すればいいだろうか。そこにはフォークの持つメッセージ性とロックの持つ力強さが同居し、なにがしのジャンルに括られることを拒む強烈な個性が感じられる。収録された楽曲はブルースからジャズ・フュージョン、はたまたオリエンタルなテイストのものまで様々だが、それでいてアルバム全体に一貫性を感じられるのは清木場の唄に対する真摯な向き合い、一寸のブレも見せない正直さと繊細な感覚ゆえだろう。「僕は僕の唄いたい唄を唄う。誰かがどう心で笑っても」と気丈に唄う彼の姿は、紛れも無く「唄い屋」そのもののように感じられた。

 10年間、自身の「唄」一本で戦ってきた清木場俊介。その集大成である「唄い屋・BEST Vol.1」を聴いていると、もうこれまでのような「元EXILEの…」といった枕詞は全く意味を成さないなと思う。清木場俊介という唯一無二の唄い屋として次なるステージへと進んだ。そう確信させる、彼の生き様が刻まれたアルバムだった。またCDのラストを飾る「羽1/2」では8年ぶりとなるATSUSHIとの共演も実現。この曲はEXILE時代に作詞を手掛け、ソロになってからも唄い続けてきた「唯一過去の自分とつなぎ合わせてくれていたもの」。清木場をして「世界で一番のボーカリスト」と言わしめるかつての盟友、ATSUSHIを相手に堂々と渡り合う姿からは、10年の歳月を経て確立した己のスタイルへの自信が感じられた。

 希代の唄い屋が歩んできた10年の軌跡が余すことなく収録された「唄い屋・BEST Vol.1」。どうかEXILEのSHUN時代を知る方や古くからのファンだけでなく、これまで清木場俊介を聴いたことのない人も含め多くの方の耳に届いて欲しい。そう思わずにはいられない一枚である。
(文=北濱信哉)

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