被災地・大船渡でライブ 高橋優が今、自分の声を上げる理由

 

 そして、本編最後に演奏されたのは、震災後、高橋がリスナーからの声を聞いて作られたという楽曲「卒業」。「ここでこういう時間を過ごせて、本当に嬉しかった。一生歌っていこうと作ったときに決めた曲です。“どんな昨日さえもあってよかった”という歌詞があって、そんなこと言われたくねえよって思う人もここにはいると思うけど、どうしても歌いたかった」というメッセージとともに熱唱した。このライブハウスのシチュエーションを考えると、観客の感情を気遣い、言葉や表現の選択に慎重になるアーティストもいるかもしれない。でも、高橋はいつも通り、剥き出しの本心で観客にぶつかった。

 以前インタビューした際に高橋は、震災後活動を続けるうち、「自分は何か特別な人間ではなくて、ただの一人の人間だということを思ったら、ちっぽけであると同時になんでも出来る、なんでもやらなきゃいけないと思うようになった」のだと語ってくれた。時代の風景を鋭く描くことで、“若者の代弁者”とも表される高橋だが、彼の音楽は自身が感じたことを何よりも重視する、とてもパーソナルな表現だ。オーディエンスに寄り添うだけではなく、自らが思うことをより正直に歌っていくーーこの日のライブは全編を通して、その想いが結実したライブであったように感じる。高橋のこの日の言葉を借りれば、「つらいこともたくさんあったけれど、今こんなに幸せな空間を共有できているという希望」を、想いそのままに観客に伝えたステージだった。

 鳴り止まないアンコールに応え、アンコール1曲目では「陽はまた昇る」を披露。合唱が止まらない観客に「すごい歌うね」とまたも嬉しそうな顔を見せた高橋にとっても、今回のライブは「まさかこんな感じになると思ってなかった(笑)」と想像以上の盛り上がりだったようだ。最後のMCでは「みんながそれぞれ抱えてる悲しみを分かち合うためにも、1回来てわかったような口を利きたくない。何があっても、這ってでもまた大船渡にやってきます」と宣言し、会場は大きく沸いた。その後「シーユーアゲイン」で観客との再会を約束し、名残惜しそうにライブを終演させたが、それでも鳴り止まない手拍子に急遽再度登場。「お客さんのところライト照らしてくれますかー」と照明を上げさせ、オーディエンス皆の笑顔を見つめながら「福笑い」を披露して、この日のステージは終了した。

 この日の舞台となったLIVEHOUSE FREAKSは、津波対策のための街の嵩上げ計画により、近日中に解体となることが決まっているが、今後も営業を継続するため、少しずつ移転計画が進んでいる。その話をLIVEHOUSE FREAKSの店長から聞いた高橋は胸が熱くなったといい、また必ず来たいという想いを新たにしたそう。終演後は高橋自身も参加した、運営費の募金協力となる“木札作戦”(募金者が名前を木札に書き、その木札でライブハウス内の壁を作っていくという試み)に参加するため、オーディエンスが長い列を作っていた。高橋優のメッセージが詰まった今回の公演はこの日限りで終わることなく、この先へと気持ちを繋いでいくものになるだろう。
(文=岡野里衣子)

●高橋優オフィシャルホームページ 
http://www.takahashiyu.com

●大船渡LIVEHOUSE FREAKS オフィシャルホームページ 
http://www.go-freaks.com

関連記事