宇野維正が今年のグラミー賞授賞式を分析

ダフト・パンクのグラミー賞パフォーマンスは、なぜ“歴史的事件”だったのか

今年のグラミー賞で4部門を制覇したダフト・パンク。

 今年のグラミー賞で、なんといっても最大の話題を集めたのはダフト・パンクだろう。もちろん主要2部門含む5部門制覇という受賞結果も快挙だが、音楽ファンにとってその何倍ものインパクトと感動を与えてくれたのが、当日の彼らのライブパフォーマンスだった。そもそも、ダフト・パンクがテレビに出演するのはこれが6年ぶり(2008年、同じくグラミー賞でカニエ・ウェストのパフォーマンス中にサプライズ出演して以来)。ライブ自体も、4年前に盟友フェニックスのニューヨークでのライブにサプライズ出演したのが最後。昨年も、『ランダム・アクセス・メモリーズ』リリース直前に開催されたアメリカのコーチェラフェスティバルや、何故かオーストラリアの田舎町で行われた世界最速リスニングパーティーに姿を現すのではないかという噂が世界中で飛び交ったが、結局現れることはなかった(なのに、同時期に開催されていたF1のモナコ・グランプリのピットに突然現れるという神出鬼没ぶり)。したがって、今回のグラミー賞でパフォーマンスを行うことが事前に発表された時点で、それは既に「事件」だった。

ナイル・ロジャースやスティーヴィー・ワンダーといった面々と共演。© 2014 WireImage

 そして当日、その「事件」はただの「事件」ではなく、「歴史的事件」となった。ステージ上に立ったのは、ファレル・ウィリアムス(ボーカル)、ナイル・ロジャース(ギター)、ネイサン・イースト(ベース)、オマー・ハキム(ドラム)、ポール・ジャクソンJr.(ギター)、クリス・キャスウェル(キーボード)という『ランダム・アクセス・メモリーズ』参加ミュージシャンにして、ソウル、AOR、フュージョン系の音楽に少しでも造詣がある人ならおしっこをチビっちゃうような超ゴージャスなメンバー。さらに、そこにゲストとしてスティーヴィー・ワンダーがジョイント。もう、その7人が並んで演奏をしている画を見ただけで嬉しくて涙が出てくるのだが、さらに泣けてきたのは、そのステージセットが往年のアナログレコーディングのスタジオを模したものだったこと。『ランダム・アクセス・メモリーズ』という作品は、ダフト・パンクの2人が少年時代に夢中になっていたミュージシャンを実際にスタジオに招集して、このデジタルの時代にほぼ100%アナログの手法で作り上げてしまった、2人にとって非常にパーソナルな夢のアルバムだった。彼らは、そんな自分たちだけが目撃した夢の風景を、世界中で数千万人が同時に視聴している音楽界最大のショーの中で再現してみせたのだ。

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