TOKYO No.1 SOUL SETが新作 『try∴angle』を語る(前編)

TOKYO No.1 SOUL SETにはなぜ後継者がいない? その特異な創作スタイルに迫る

12月4日にアルバム『try∴angle』をリリースするTOKYO No.1 SOUL SET。

 TOKYO No.1 SOUL SETの活動ペースが上がっている。2005年の活動再開以降は3年に1枚のアルバム制作ペースだったが、ここにきて前作から約1年半のインターバルで新作『try∴angle』が完成。前作のバンド的音作りを引き継ぎつつも、新作は往年のフィル・スペクターなどにも通じる研ぎ澄まされたポップ感覚が伝わる力作に仕上がった。BIKKE(Vo)、渡辺俊美(Vo&G)、川辺ヒロシ(DJ)という異なった個性を持つ3人のぶつかり合いが彼らのダイナミックな作品世界の源であるが、今作では「ソウルセットミュージック」とも呼ぶべき一つの個性が生まれつつあるようにも見える。デビューから20年以上にわたって独自の道を歩んできた3人に、創作において変わらないもの、変わったものを聞いた。

――早いペースでリリースされるニューアルバム『try∴angle』ですが、混沌としたバンドアンサンブルを引き継ぎつつも、歌をじっくりと楽しめる作品になっていますね。制作時期はいつくらいからでしたか?

川辺:前作が終わってからすぐです。制作の勢いをそのまま利用して。

――前作『Grinding Sound』で掴んだものが何かあったのでしょうか?

川辺:前作で上田偵というマルチプレイヤーと一緒にやったんですが、それがすごくよかったんです。今回も一緒にやろうと思い、彼と一緒に入ってぽつぽつやり始めました。彼は弦も得意でオーケストラの譜面も書けます。

――俊美さんはどのあたりから入りましたか。

渡辺:わりと最初から入ってました。ヒロシ君がサンプリングでネタを作り始めたあたりから一緒に考えて、そのあとで上田さんと構成を考えて、という感じです。最初からメロディを作るのではなく、今回は構成から考えて、そこにラップの入る位置を決めて、という順番で作っていきました。ラップとトラックだけでHip Hopとして成立する楽曲を作って、僕の歌はプラスアルファ、というスタンスは意外と原点で、「Triple Barrel」もそう作りました。そういう風に作った方がいい、というのは僕の勝手な判断です。まずBIKKEの世界観が出ることがSOUL SETらしさで、単純にBIKKEの歌詞が聴きたいと思ったんです。リクエストがあってからメロディを書く、というようにしていました。

――今回のBIKKEさんの言葉は、全体的にシリアスな印象を受けました。絶望的なようであり、明るいようであり。今回創作に入る段階で詞の方向性のようなものは考えていましたか?

BIKKE:事前に考えることは全くなくて、トラックを聴いて浮かんだものから構築という感じです。あまり「この時代は…」とかも考えたことはないですね。生きているから自然と出るのかもしれないけれど、それを意識して書いたことはないですね。浮かんだ言葉はよほどのことがない限り直さないことにしているので…。

――俊美さんは先程「BIKKEさんの世界観がSOUL SETらしさ」とお話になりましたが、その点については?

BIKKE:僕はそうも考えていない。どちらかというとトラックかな、と思います。何と比べると、という話になってしまいますけれど、まぁ、何も深くは考えていない(笑)。

――長年SOUL SETを聴いてきた立場でいうと、個性の違う3人から生まれる化学反応、というものが作品の軸となってきたと感じます。今でもそういう部分はありながらも、TOKYO No.1 SOUL SETという一つの世界観ができつつあるのでは?

川辺:できつつあると思います。それもいいなと。前はセッションというか出し合いというか、まとめることは考えずにやっていました。まとめ方を知らなかったと言った方がいいかもしれない。でも今は20年もやって、ただぶつけるだけじゃなく、それをどう昇華させるか、ということに興味が出てきたと思います。

――昔はもっと作業の時間も長かったということですか?

川辺:昔は単純に経験不足(笑)。今は詞もメロディも早く出てくるから、その後の、詞とメロディとトラックをまとめる作業がメインで、詞が出てくるのをずっと待っているようなことはなくなりました。

BIKKE:昔は時間がかかったね(笑)。もともと音楽始めた理由が不純ですから。こうなろうとしていたわけではなくて、いい感じに転がって今に至る、という感じです。歌詞を書く人にはそれぞれに思いがあって、もっと自発的にやっているのかもしれないけれど、僕は長くやってるわりにずっと受け身でやってきたので。今はどうすればいいかやっとわかってきた。以前は「これでいいのかな? どうかな?」と考えてしまったところを、最近は、思いついちゃったからしょうがない、という姿勢でやっています。

――そういうやり方に変化したのはいつですか。

BIKKE:わりと最近なのかな。きっかけはわかりませんが、音楽ってもっと原始的なものなんじゃないか、と思い始めました。聴く人にとってわかりやすいかどうかはわかりませんけど、前の方が僕の中では「きっちり書いている」という感覚でした。今はそういうことがどうでもよくなっちゃった。しっかり伝えたいときにはそういう手段を取ることもありますけど、こういう生き方、こういう考え、こういう気持ち、を「こうだからこうなります」と作っていくと、だいたいみんな同じように考えていて、同じようなものになってしまう。でも、そうじゃないと思えば、ただそう書けばいいし、そんなにしっかりと意味がわからなくてもいいのかな、と思います。大ヒットした映画でも音楽でも、それをいいと思わない人はいるわけで――。

――あえて感覚的な部分を残す、ということですね。俊美さんはご自身の創作スタンスをどう捉えていますか?

渡辺:ヒロシ君はやっぱり洋楽なんですよね。BIKKEは英語使うわけでもないので和風。僕は二人の洋風と和風に挟まれて、洋風に作ったつもりが演歌調になったり、和風に作ったつもりが洋風になったり、そういう変化が楽しいですね。BIKKEは僕のメロディに歌詞を作るときに、歌いやすいように言葉を選んでいると思うんですけど、でも前の、歌いにくいくらいの方が独特な響き方だったなぁ、とも思います。それも楽しいですね。自分で歌詞を書くとどうしても歌いやすいように作っちゃうから。

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