中森明夫が『あまちゃん』と能年玲奈を語る(第1回)

中森明夫が『あまちゃん』を徹底解説 NHK朝ドラ初のアイドルドラマはなぜ大成功したのか?

能年玲奈の魅力を熱く語る中森明夫氏

中森:まず非常に面白いと思ったのは、小泉今日子・薬師丸ひろ子という80年代を代表する2大アイドルの初共演。そして、いま一番フレッシュなアイドル女優である能年玲奈・橋本愛と、「2世代のアイドル」が出演し、幅広い層に訴えたことです。「なんてったってアイドル」でアイドルの代名詞になった小泉今日子が、“アイドルになれなかった主婦(天野アキの母、春子)”としてキャスティングされているのも面白い。「なぜ彼女がアイドルになれなかったのか」という謎が物語を引っ張っていく。薬師丸ひろ子が演じる鈴鹿ひろ美の影武者歌手だったというのが分かってきて、それがアキの出生にもつながっているという構造も秀逸です。

 もうひとつ大きいのは、春子の若いころのエピソードです。有村架純ちゃんが演じていて、これがかつてのキョンキョンにそっくり。彼女は影武者ではなく「潮騒のメモリー」を自分名義で出させてほしいと願い出るが、結局は挫折し、アイドルへの夢を完全に絶たれてしまう。そして、その回が放送された日に、現実に天野春子名義で、小泉今日子が歌う『潮騒のメモリー』がリリースされるという発表がありました。ドラマの中で叶わなかった彼女の夢が、現実で実現する。この曲は着うた配信で多くのアイドルをおさえて2週連続1位になったし、作中に出てくるGMT47の『暦の上ではディセンバー』はベイビーレイズが“影武者”として歌ってヒット。これらの曲を収録した『あまちゃん歌のアルバム』は、NHK朝ドラ関連のアルバムとして初めて、オリコン週間ランキングで1位になりました。アイドルをテーマにしたドラマからフェイクアイドルが次々と登場し、現実でヒットを飛ばす――ここが一番画期的なところでした。

――これまでも、ドラマの役名でCDがリリースされることはありました。

中森:菅野美穂が蓮井朱夏名義でリリースした「ZOO ~愛をください~」(フジテレビ系ドラマ『愛をください』)、沢尻エリカがKaoru Amane名義でリリースした「タイヨウのうた」(TBS系ドラマ『タイヨウのうた』)などがそうですね。ただ、ひとつのドラマからこれだけ多くの曲が生まれて、紅白歌合戦の1コーナーができてしまいそうなほどのムーブメントを起こしたのは『あまちゃん』だけです。ドラマから生まれたフェイクアイドルの曲を普通に街の女の子たちが歌っているというのは、スゴいことですよ。

――そもそも、アイドルをテーマにしたドラマでヒットしたものは、これまでにあったとお考えですか?

中森:中山美穂主演の『ママはアイドル』(1987年、TBS系)は変則的な内容だし、平山あやが主演した深夜ドラマ『はるか17』(テレビ朝日系、2005年)は、原作のコミックで描かれている枕営業みたいな裏の部分を描き切れず、リアリティがなかった。『IDOLM@STER』をはじめ、アニメやゲームではヒット作があるものの、実写ドラマの成功例はなかったんです。それが、NHKの朝ドラでこれだけ大成功するというのは、単純に驚きです。

――『あまちゃん』のヒットを受けて、これから類似した作品も出て来るかもしれません。

中森:アイドルシーンの盛り上がりにもつながるでしょうし、僕は大歓迎ですね。僕にもアイドル小説を書きませんか、という依頼が来ているし、『桐島部活やめるってよ』の朝井リョウさんは実際に執筆中だそう。『あまちゃん』がアイドルコンテンツの幅を広げる作品になったことは間違いありません。

――あらためて『あまちゃん』がここまで成功した理由を分析すると、どうなりますか?

中森:ひとつ言えるのは、アイドルドラマというジャンルとして“機が熟していた”ということがあると思います。アイドルにはさまざまな定義がありますが、70年代の南沙織から始まったと考えると、40年という歴史の厚みができている。実際、僕らのように70年代のアイドルを見てきた世代は50代になり、社会の中核層になっています。そう考えると、朝ドラでテーマになってもおかしくない。

――なるほど。『あまちゃん』では、さらに多くの世代が楽しめるように3世代にわたる物語にするという工夫も見られますね。

中森:また、このドラマでは1984年という年がキーになっています。オープニングで春子がアイドルになるために家出をした年で、84年で時間が止まった春子の部屋に、アキが住むことになる。そこには松田聖子や吉川晃司のポスター、なめ猫なんかも飾ってある。まさに宮藤さんの青春時代で、同時を見てきた世代からすると本当に懐かしく思えます。アイドル史に位置づけるなら、その後の90年代はまさに冬の時代で、モーニング娘。が登場するまではアイドルシーンはパッとしなかった。そのモー娘。が失速し、ゼロ年代の終わりにAKB48やPerfume、ももいろクローバーが出てきて、再び盛り上がり始めたという流れです。

 アキちゃんやユイちゃんがどうやってアイドルになっていくかというと、鉄道オタク・アイドルオタクが彼女たちを発見し、インターネットに発表することから始まります。ローカルアイドルがネットでファンを獲得していくというのは、実際に90年代の半ばくらいからあって、ここ10年くらいの“地元アイドルブーム”をリアルに落としこんでいる。もちろん、岩手県の「かわいすぎる海女」として、大向美咲さんが地元アイドル的にブレイクしたことも踏まえています。歌謡番組全盛の80年代から、インターネットで地方も巻き込んだ現在のアイドルブームまで、この30年くらいの動きをすべて取り込んでいるのは、たいしたものです。宮藤さんは2年前までAKBのメンバーをひとりも知らなかったという人だから、アイドルについて相当勉強したんだと思います。

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