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『没頭力』刊行記念インタビュー

吉田尚記、“明るい未来”を語る(後編)「脳に負荷をかけることがどんどん楽しくなる」

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 2月に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)を上梓したニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏に、音楽ジャーナリストの柴那典氏が迫る本インタビュー。後編は、吉田氏が現在「おもしろい」と考えているもの、音楽・映像コンテンツの現在地から“明るい未来像”まで、縦横無尽に話が展開された。吉田氏が「未来は明るい」と言い切る、その理由とは……?(編集部)
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「ハイレゾ」はなぜおもしろいか

柴:前編では『没頭力』の話から吉田尚記さんの好きなものを突き詰めていくと、それは仮説であるというお話を伺いました。実際、テクノロジーや社会を前に進めるのも、やっぱり仮説ですよね。

吉田:そうなんですよね。

柴:なので、ここからは本の話を離れてざっくばらんにお伺いしたいと思うんですが、ここ最近で、吉田さんが「これはおもしろい」と思った仮説はありますか?

吉田:いっぱいありますね 。最近は『コマーシャル・フォト』でいろんな科学者の方に会いにいってるんですけれども。誰に話を聞いてもおもしろいんですよ。その中でも、ハイレゾの話がすごくおもしろかったです。放送大学の仁科エミ教授に、「そもそもハイレゾの何がいいんですか?」って話を聞きにいったら、最終的に熱帯雨林に住んでいる虫の話から公衆衛生の話にまで行き着いたので。

柴:それはめちゃくちゃおもしろいですね。どういうことなんですか?

吉田:芸能山城組という、『AKIRA』のサントラを作ったグループがあって。仁科先生は、その芸能山城組の山城祥二先生のお弟子さんなんです。なぜハイレゾがそういう話になったかというと、芸能山城組がかつて『AKIRA』のサントラを作った時に『交響組曲 AKIRA』というCDを出したんですけれど、それがあまりにもアナログレコードに比べると悪い音でがっかりしたんですって。でも当時は計測機器がなくて、可聴域で出ている音は変わらないし、問題ないと言われていた。科学的な検証ができなかったんです。でも、近年になって人間の脳を計測する方法が進歩して、ハイレゾを聞いたときの脳の反応を、従来のCD音質の音を聞いたときの脳の反応と比べることができるようになった。で、ちゃんと調べてみたら、ハイレゾの音とCDの音とで、脳の反応部位が違ったんですって。もっと言うと、ヘッドホンじゃなくてスピーカーから聴いたほうがいい。可聴域を超える周波数の音を皮膚でも聞くと、身体にいい効果が強く出るというんです。それをハイパーソニック・エフェクトと言うんですけれど、それをちゃんと計測している。

柴:なるほど。

吉田:現代人が普段聴いている音楽には、ほとんどそのハイパーソニック・エフェクトが出るような音は含まれていないんですって。特にCDの音質には収録できていない。ただ、和楽器だったりとかガムランだったりっていうのは、ハイパーソニック・エフェクトを生む周波数成分とかがめちゃくちゃ入ってるんですって。で、音楽以外でそういう周波数成分があるのって、熱帯雨林で、その源は熱帯雨林の虫たちの出す鳴き声なんですって。そういう話を聞いて「すげえ! おもしろい!」って思ってます。事実、ハイレゾのガムランの音とか買って聞いたりしていますが、すごく気持ちいいです。

柴:その話を聞いて思い浮かんだんですけれど、先日このサイトで音楽家のseihoさんの取材をしたんです。未来の音楽はどうなっていくかという話をした時に、彼は「脳波のようなものをモニタリングして人の感情のログを直接とれるようになるんじゃないか」と言うんです。そうなった時に音楽にすごく強みがある、と。というのは、絵画やマンガは10分で読むこともできるし、1時間で読むこともできる。かけた時間で感動が違うわけです。だけど、音楽は時間に紐づいている芸術である。だから、それを通じてデータが取れるようになったら、人の快楽や感情をそこから再構成できるようになるかもしれない。

吉田:なるほど。音楽というのはコンテンツだと思っている人の方が圧倒的だけれど、音楽を記録手法として捉えているということなんだ。音楽が流れた瞬間の感情をスクリーンショットするんですよね。カメラ側だという。

柴:そうですね。たとえば脳のモニタリングをしないまでも、Soundcloudの音楽の見せ方や共有の仕方はそれに近いところがあって。あれは楽曲が波形で表示されて、みんながそこの気に入った瞬間に「いいね」ボタンを押したり、コメントを書き込んでいたりする。

圧縮された情報を短時間で受け取ることの快楽

吉田:なるほど。実はそれと似たことを、今、やってるんですよ。声優の中村繪里子さんと一緒にイベントやってるんですけど、それは面白そうな学者さんを招いて3人で喋るんです。普通のトークイベントで終わらせたくないと思ったので、最近、お客さんにポストイットを配ってるんですよ。そのポストイットにお客さんにおもしろいと思った名言を書いてもらって、回収して時系列で貼り付けるんです。そうすると、面白かった瞬間はグラフがバーっと上がっていて、サッカーでゴールをあげたシーンみたいに、一番おもしろかった瞬間っていうのがわかる。

柴:そうやって可視化されると、いろんなことが明確になっていきますよね。それをもとにPDCAを回せば、トークだったら盛り上がるところだけを抽出できるし、音楽だったら本能的な快楽性を持った展開だけを抽出できる。少なくとも、今のエンターテインメントはそういう形で進化しうる。僕の仮説では、今のポップミュージックは時間あたりの情報量がどんどん多くなって、どんどん高密度になってきていると思うんですけど。

吉田:そうですよね。最近ときどきアニソンのクラブでDJをさせてもらってるんですが、アニソンのクラブって、今、面白いことの最先端な気がするんです。みんなが知ってる曲は盛り上がるし、知らない曲があっても次の曲に1分半で変わるので多少飽きても聞いていられる。さらにアンセムがあって、コール&レスポンスもある。で、CESでZEDDのDJを見せてもらったら、ちょっとびっくりするぐらい、アニソンクラブのDJの第一人者がやっていることとそっくりだったんですよ。

柴:まさにそうですね。去年にサマソニで見たカルヴィン・ハリスのDJもそうでした。もちろんアニソンはかけないけれど、1分半で切り替わっていくという構造はまさしく同じである。

吉田:そうなんですよ。あれが時代の最先端だと思うんです。EDMとアニソンクラブが同じような現場になっている。ということは、文化がどうとかお金がどうとか言うことじゃなくて、人間の生理的な快楽がこうなっているという最先端を見た気がして。

柴:まさに同意です。しかも、いろんなジャンルで同じことが起こっていると思うんです。たとえば料理動画も同じような流れにあると思っているんです。昔は『きょうの料理』のように、ゆっくりしたやり取りで丁寧にレシピと工程を見せて料理番組を作ってたんですよ。でも今はその内容がもっと凝縮された数十秒の動画になってSNSのタイムラインに回ってくる。

吉田:たしかに。動画はどんどん早回しになっていってますよね。

柴:そうなんです。「tastemade」というMCN(マルチチャンネルネットワーク)がその潮流の発端になったんですけれども。昔に『きょうの料理』とか『キューピー3分クッキング』でやっていた内容が、今、数十秒で見れるんですよね。この流れと、今話したEDMとアニソンを重ね合わせることができると僕は考えているんです。つまり、圧縮された情報を短時間で受け取ることの快楽が生まれている。

吉田:なるほど。それをさっきの中村繪里子さんとの話にからめると、2人で2017年になって今更Podcastを始めたんです。3分という枠組みをガッチリ決めて、すごい早口の人間2人で話すということを毎日やってるんです。3分というのが、今後、ラジオのモジュールとしてアリなんじゃないかなと思ってるからなんですよね。プロの喋り手というのは、マカロニグラタンの作り方でも、イラン・イラク戦争のあらましでも、どんな話であっても3分に圧縮して喋ることができるという仕事だと思うんです。それをモジュール化してストックしていくと、音声コンテンツとしてすごく隆盛するんじゃないかと思っていて。それはポジショントークも含めて思うんですよ3分のトークのストックを沢山増やしておけば、たとえばスマートスピーカーの音声検索で「OK Google、マカロニグラタンの作り方教えて」って言ったら、それを再生してくれるようなもの。それがあらゆるテーマにあったら、素晴らしくいいですよね。

      

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