Base Ball Bear小出祐介×agehasprings玉井健二対談“師弟”が再びタッグを組んだ理由は?

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 Base Ball Bearが2015年第一弾シングル「それって、for 誰?」 part.1を完成させた。ディスコティックな曲調と毒を込めた歌詞の言葉が印象的なこの曲を皮切りに、彼らは3カ月連続でシングルをリリース。現在次なるアルバムも制作中だという。

 今回はバンドの司令塔である小出祐介(Vo/G)、そして今作のプロデュースを手掛けたagehasprings代表・玉井健二による対談を行った。小出が自らの「師匠」と位置づける玉井との関係性、新曲の狙いからBase Ball Bearというバンドの価値観まで、語り合ってもらった。(柴 那典)

「会った時のこいちゃんは、素手でキャンプに来てる人みたいな感じ(笑)」(玉井)

――Base Ball Bearは2ndアルバム『十七歳』の時に玉井健二さんのプロデュースで楽曲を制作していますよね。

小出:1stアルバムが完成したのが2006年の夏のことだったんですけれど、そのすぐ後に「次作のプロデューサーはこの人がいいんじゃないか」ということで、マネージャーの紹介でお会いしたんです。で、最初に玉井さんと作った『抱きしめたい』が出たのが2007年の4月なんですけれど、その前の2006年の夏から年明けくらいまでの半年間は、玉井さんに徹底的に「曲作りとは」ということを教わっていた。今思うと、めちゃめちゃ贅沢な時間でした。

――どんな感じでやっていたんですか?

小出:半日ぐらいスタジオに入って鍵盤で曲作りのコツを教わったり、玉井さんに課題を出されてたくさんアイディアを考えたりしてました。当時使っていたMDレコーダーで何百トラックも録音して、それを全部聴いてもらって「どれがよかった」「これをふくらませてみよう」という話をして。僕はそれまで、なんとなくの感覚で曲を作っていたんです。そこに理屈をはめ込んでくれた。本当に重要な時間だったと思います。そこで知ったこと、吸収したことが今のバンドの土台になっている。

――玉井さんは小出祐介という作り手をどう見ていましたか?

玉井:まず、持って生まれたものがあるっていうことはすぐにわかりましたね。話しているうちに「この人はおかしな人だ」ってことがわかってきた。つまり、それはすごく才能があるということなんです。たとえばタイトルの言葉の選び方が面白かったり、メロディやフレーズにしても「そこをそうするんだ!?」みたいなセンスがあったりする。でも、その反面「こんなに便利なものがあるのに知らないんだ」みたいな状態でもあったんですね。素手でキャンプに来てる人みたいな感じ(笑)。「いきなり木を切り倒すところから始めるんだ」みたいな。そういうところに僕はキャンプ用品を持ってきて「そこは固形燃料を使えばいいよ」みたいなことをひたすらやっていた(笑)。

小出:本当に感覚で全部やっていたんです。それまでは完全に自給自足だった。俺が気持ちいいと思うのはこっちだ、だから「たぶんこうなんだろう」って判断していたという。その場で木を倒して、それでいかだ作ったり、やぐら組んでみたりして、どうにか魚を釣って焼いて調理するようなことをやってたんで。便利な道具がなかったんですよね。でも「こういうものがあるんだ」ってわかってから、倒した木を削って彫刻を彫ったり、いろんなことができるようになった。そういう風に武器や道具の使い方を覚えていったのが、玉井さんとの時間だったと思いますね。

――かなり濃密に曲作りについて教わった2年間だったんですね。

小出:玉井さんのボーカルディレクションも相当すごかったんです。特に「ドラマチック」と「抱きしめたい」をレコーディングしている時は、ほとんどボイトレの延長だった。「歌とは?」みたいなことを実戦で教わりながら、パーツを作っていくみたいな歌録りだった。練習しながら本番になっていくみたいな感じだったんで、僕としてはかなり辛かったですね。

――ボーカルのレコーディングはどんな感じだったんですか?

小出:その場で玉井さんに指示されたことが、もともと僕の歌い方や発声になくて、初めて知ることだったんで、とにかくやってみないとわかんなかったんですよね。だから、がむしゃらに「こういう風に歌ってみて」「はい!」みたいにするしかない。歌録りが異常に長かった。

玉井:長かったね。

――玉井さんとしてはどんな歌のディレクションをしたんですか?

玉井:当時僕の中で一貫して考えていたことは、やっぱりBase Ball Bearは長く世に愛されるバンドであるべきだっていうことなんです。そう考えた時に、やっぱり軸になるのは歌だろうと思った。なので、言葉でいろんな表現をできているように、曲を書いたりギターを弾いたりしてることと同じ、もしくはそれ以上のレベルで歌を操れるようになってほしかった。そしてそのためには構造をわかってもらうっていうのがいいんじゃないかなって思った。

――構造をわかってもらうというと?

玉井:よくあるボイトレの「遠くに届くように歌って」とか「目を見開いて歌ってみて」みたいな、そういう精神論みたいなことより「歌とはこういうもの」という構造を教えるのが、こいちゃんにとっては一番いいと思ったんです。感覚的でありつつも、いろんなことを構築しながら作っていく人だから。構造を理解したらそれを勝手に活かしてくれるだろうなと思って。

小出:それと、玉井さんに紹介されたボイトレの先生が、まさに「声を出すっていうことは物理的にどういうことなのか」という理屈を授けてくれる人だったんです。声というのは声帯に息があたって振動することによって出ているんだよ、ということを最初に言われて。歌ってみたら「お前は首のこの辺が全然鳴ってない」とか言われて。身体がこういう動きをすればこういう発声になるとか、こういうブレスの仕方をすればこれくらいの声量が出るとか、理屈を身体で覚えて体得していくような感じだった。

――なるほど。歌うということの構造を教えてもらった。

小出:歌だけじゃなくて、僕は玉井さんに楽曲の構造の話を教えてもらったと思います。ポップスの構造はこうなってる、ブラックミュージックだったらこういう構造になってるとか。そういう構造の話を断片的に聞いて、そこから自分なりにいろんな音楽の構造を分析して理解するっていうことを始めた。それが、 今の僕のベースになっている。音楽だけじゃなく、映画を観るにしても小説を読むにしても、構造自体に目がいくようになっちゃって。

――音楽以外にも広がっていったんだ。

小出:最近も朝井リョウさんの『武道館』という小説について、自分の連載で対談したんです。それにあたって、小説を読みながら「ここはこういう場面」というのを全部シーンで区切ってプロットを書き出して。それをもとに「なるほど、こういう話なんだ」って思って朝井さんと話したら「初めてこんなに理解している人に会いました」みたいに言われたりして。そんな風に、小説にしても映画にしても、その構造がすごく気になる。完全に構造フェチになっちゃいました(笑)。

――単にプロデューサーとアーティストというだけでなく、深いレベルで価値観を共有した関係だったんですね。

小出:僕は玉井さんのことを師匠だと思ってますからね。他の人とはなかなかこういう関係性になることもないと思います。玉井さんの師匠は木崎賢治さんというBUMP OF CHICKENやTRICERATOPSのプロデュースをされた方ですけど、玉井さんが木崎さんに師事したように、プロデューサー同士での師匠と弟子みたいな関係性は他にもあるかもしれない。けれど、アーティストとプロデューサーでこういう関係性になるのはあんまりないと思う。

玉井:それは小出祐介という人がとてつもなく特殊な人だということなんですよね。表に出る人なのに、裏側のマインドも持ってる。構造フェチというのも、もともとそういう資質を持ってたんだろうと思います。ただ、裏側のマインド持ってる人って、僕がそうだったみたいに、大抵売れないんですよね。でもBase Ball Bearにはちゃんとファンがいて、支持してくれる人がたくさんいる。そういう人は、他にはほとんどいないんじゃないかな。

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