DREAM BABY DREAMが語る、“生成AIでしか作れないMV”に全振りする理由
AI生成された映像がSNSに溢れ、現実と見分けがつかない時代になっている。その一方で「AIで作った」と表明するだけで批判を浴びるのもまた現実だ。
そんななか、チャンネル登録者数21万人、総再生回数1500万回を記録したYouTubeチャンネルがBANされても生成AIを使ったMVを発表し続けるレーベルがDREAM BABY DREAMだ。
25歳のクリエイター・THIRD PILLが主宰する同レーベルの、4chan発の都市伝説「バックルームズ」をモチーフにしたMV「リミナルスペース」は海外でバズを起こし、1000件を超えるアンチコメントを集めたという。
アンダーグラウンドなアイドルシーンへのある違和感から始まった活動は、なぜ世界のAI論争の最前線にまでたどり着いたのか。THIRD PILLに話を聞いた。(小池直也)
数百件のオファーに返信は1件、「MVはいらない」地下アイドルシーン

――DREAM BABY DREAMは音楽レーベルとのことですが、ステートメントには「私たち」とあります。個人運営でしょうか?
THIRD PILL:僕がオーナーの個人レーベルです。僕とAIでやっているので、「私たち」という意味合いを持たせています。
――失礼ですが、THIRD PILLさんは20代なんですね?
THIRD PILL:はい、現在25歳です。
――もともとクリエイターだったのですか?
THIRD PILL:アイドルグループやアーティストのMVなどを作っていました。その前は写真も撮ったり、グラビアのカメラマンもやったり。「なんか変な若いのがいるぞ」という感じで声をかけてもらっていた感じです。
それから、1年半から2年ほど前から動画生成AIの環境が出てきたタイミングで、AIでの制作活動に全振りしました。
――菊地成孔さんともXで会話をされていましたね。
THIRD PILL:何百とメンションして、あらゆる人たちにプレスリリースを送ったりしたんですけど、そのなかで唯一、菊地先生だけがXで僕らのことをちゃんと文章をつけて紹介して、プチフックアップしてくださいました。
その後お話をさせていただいたら、菊地先生が考えていらっしゃるのも、AIでやるんだったら「サード・サマー・オブ・ラブ」ということで。次の創作を考えたら、映像においても音楽においても必然的にAIを使わなければいけない。その理由は80年代末のイギリスで起きた「セカンド・サマー・オブ・ラブ」のような編集度の高さゆえです。僕らが考えていることは全然間違ってないんだと思いました。
@SHIN_ON_GAK
新音楽制作工房様、そして菊地成孔先生へ。突然のメンション、何卒お許しください。
今年3月、新音楽制作工房様宛に、私たちDREAM BABY DREAMの活動についてプレスリリースを送付させていただきました。
その後、遅ればせながらWIREDでの菊地先生の「AI ×… pic.twitter.com/7dXApbOyxQ
— DREAM BABY DREAM (@fukaborichannel) September 13, 2026
――DREAM BABY DREAMが標榜している「プリンセスポップ」とは何でしょう?
THIRD PILL:最初に「プリンセスポップ」と名乗ったのは、もともとアイドルの方のライブ映像やMV、YouTube用のちょっとしたクリップを撮っていたからなんです。
そんなこともあり、DREAM BABY DREAMをローンチしてから、数百件ぐらいのアイドル運営の方々に「無料でMVを作りますよ」とアプローチしました。でも返信は1件だけ。返信をくれた方と話したら「今、MVは要らないんだよね」と。
マネタイズに必要なチェキやライブ動画、ライブに来てくれた人たちとの関係性を強めることが重要視される界隈があるようです。
――推し活に最適化されているということですね。
THIRD PILL:そういうことだと思います。「広く広げるより、狭く深いことが正しいエコノミーシステムだ」ということでしょう。正直、悲しかったですね。僕は「可愛い女の子」という存在が人類史上一番すごいものだと思っているので。それを一番表すのがMVじゃないですか。
魔法や夢の世界にいるという感覚がすごく大事だったのに、今はそうではないのかと。でも直近70年ぐらいのポップミュージックの歴史を改めて考えると、それは正しくない方向性だと思っているんです。
――どういうことでしょう?
THIRD PILL:MVって映画的に見ると、すごく特殊なもの。劇映画でもないし、ストーリーにも依らないし、アートでもないし、ポップでもない。ものすごく中間的で、編集力が高いものですよね。
僕は「編集力を高めることが新しいブレイクスルーを生む」という、コンテンツのありかたを信じています。昔はゴダールやウォン・カーウァイが「MV的だ」と言われましたが、ああいう素晴らしい映像表現を作ることで色々な人に届くはずなんです。
この10年で一番優れたポップミュージックのMVを作ったのはK-POPだと思います。ファンダムの外にいる人に聴いてもらうという方向性でお金をかけて作った、一番極端な例がK-POPだったわけで。
Seedanceは“映像のサンプラー”、300万円のMVが3000円に

――映像制作についても聞きたいです。最初に使った映像生成AIは何でしたか?
THIRD PILL:最初は動画生成を早くから実装していたGeminiを使いました。ただ2年ぐらい前に立ち上がった数々のAI動画サービスは、正直どれも現実的ではなかったですね。今で言う「AIスロップ」とか「ブレインロット」と呼ばれるような、いかにも生成AIで作りましたというものしか作れなかったです。
でも僕らはそれが嫌だったんです。ゲームチェンジャーになったのは、今年2月にリリースされたSeedance 2.0でした。過去の映画作品やMVとか、これまで見てきた映像の歴史をプロンプトに全部ぶち込んで試していたら、もうネクストレベルの仕上がりで。
――もう少し詳しく聞かせてもらえますか。
THIRD PILL:特にすごいのは、音楽トラックを作るように映像を作れるところ。DAWで音楽トラックを作るのは先ほどの“編集”そのものじゃないですか。サンプラーのように素材を組み合わせると、そこに偶然性が出る。だからSeedanceはすごく音楽的。そこが他のあらゆるAI動画サービスとまったく違うんです。
そのインパクトがすごすぎて、3月にDREAM BABY DREAMをローンチしました。6月にリリースされたSeedance 2.5もまた全然ネクストレベルで、ビット数が上がったような感じ。優れた音楽的なツールが登場して、映像の作り方が根本から変わっているのが今ですね。
それを一番活かせるのがMVなんです。Hugging Faceもポータルで色々と試せるんですけど、本当に突き詰めていると自負する僕からすると、今の段階ではSeedance 2.5しかないかなと。
――そんなにAIを使い倒しているということは、相当に課金されてます?
THIRD PILL:プロンプトや何回生成するかにもよりますが、自分のMVで一番長いもの、1分半ぐらいのMV的な動画で3000円くらい。僕らの映像はK-POP的なMVやハリウッド的、映画的なものをリファレンスにしているので、手持ちカメラで撮ったインディペンデントなものとは違います。これをそのままリアルな撮影で作ろうと思ったら、何百万円もかかるはずなんですよ。
だから300万円で作れるものが3000円で作れるし、プロンプトを突き詰めれば3000万円や3億円のクオリティにもなります。運営上、お金がなくて撮影ができないなら、AIでMVを作ればいいんです。
「リミナルスペース」に届いた1000件超のアンチコメント

――THIRD PILLさんの周りのクリエイターたちのAIに対する反応は?
THIRD PILL:もともと友達が少ないんですけど(笑)、周りの若いクリエイターも声高には絶対言わないですね。YouTubeを見ていても、ビジネスやテック系のチャンネルで「AIがあるとこんなに便利になりますよ」という情報が多い。あとは政治や防衛、軍備の話題。
「便利になる」「ヤバい」という面しか語られないから、「楽をするツール」という情報ばかりが拡散されている印象ですね。ポップ側の人間としてはそう見られたくない。そういう感情から声高に言わない人たちが多い気がします。
――海外の掲示板サイト・4chanで広まった都市伝説「バックルームズ」をテーマにした、「リミナルスペース」のMVも賛否があったとか。それについても教えてもらえますか。
THIRD PILL:映画『Backrooms』をリファレンスしたとタグとともに明示して載せたら、たくさんの人にリーチしましたね。視聴者の80〜90%がアメリカ人でした。
あのMVを公開したタイミングは4月で、ニューヨーク拠点の独立系映画スタジオ・A24が21歳のケイン・パーソンズを監督に『Backrooms』として映画化すると発表したのが3月です。あの都市伝説って日本ではあまり知られていなかったですけど、僕もトレーラーが出て衝撃を受けましたね。あとは非常にAI的な映像だなと。
だから、この世界観を取り込もうと思ったんです。生成AIでこれをやっている人はまだ誰もいません。「こんなことが可能なんだ」という反応もあったし、「おいおい、これはBlenderやCGで作るべきものなのに、なぜ生成AIで作ってるんだよ」という意見もめちゃくちゃ来ました。
――集まったコメントは全部で2000件以上だったとか。
THIRD PILL:1000件以上がアンチでしたよ(笑)。主な批判は「〇〇をサンプリングしてるだろ」とか「AIに学習させているだろ」という著作権の文脈でした。「こんなものはアートじゃない、ポップじゃない」とかもありましたし、 あとは「撮影をすれば多くの人たちを巻き込めるのに」という労働問題の突っ込みもありました。
でもスルーせず全部に「あなたのおっしゃっていることはこうだけど」と答えていたところ、おもしろいことに5月ぐらいからガラッと潮目が変わるんです。今の攻撃の文脈はデータセンターの水の問題や環境汚染なんですよ。環境問題を盾に「生成AIで作っている」ということが、正しくないんだと言われるようになっていて。よく調べるとSeedanceを運営する中国・ByteDanceは、マレーシア政府と、環境に負荷がない形でパワープラントを作ろうとしているんですけどね。
――なるほど。
THIRD PILL:そこと対峙していかなきゃと考えながら、ガンガン映像を作っていたら、いつの間にか作品数が約90本になっていました。
最初はアイドルのMVを作ればいいやと思っていたんですけど、AIを使ってポップコンテンツを作ること自体が、今の風潮へのカウンターになってしまっているという感覚です。
アイドルにもハイパーポップにも「別の回路」を
――日本のアイドル界隈に対する問題意識から始まり、世界のAI論争の本当の最前線までたどり着いたということですね。それを踏まえて、感じたことはあります?
THIRD PILL:僕らが「リミナルスペース」で打ち出した生成AI的な世界観が世界に届いたわけですよね。「生成AI」というツールを使って新しいものを作れば、これだけリーチするということがわかりました。
だから日本のアイドル界隈で、このような別の回路を作ればいいと思ってます。アニメ的な二次元のテクスチャーとはまったく違うし、実写的なテクスチャーとも違う。明らかに次のツールとして生成AIを使うことは有効ですし、これをポップのフィールドに持ち込むべきです。
――アイドルシーン以外だとどうですか?
THIRD PILL:今日本で流行っているハイパーポップの文脈でいうと、Lost Frog Productionsというレーベルの音楽が個人的に好きなんです。サンプルを過剰に切り刻んだ、ノイジーで編集性の高い音楽。でもそのシーンの現場に行くと、映し出される映像はアニメベースだったり、二次元ベースのものばかりなんですよ。
僕の感覚だと、どう考えても生成AIで作った映像が合うんです。音楽の方が生成AIを使うのが早かったから、音先行で進んでいるシーンなのかもしれませんが、もう映像もキャッチアップしています。でもそんなものを作っているのは日本で僕らしかいない。一番日本の先端のポップミュージックのシーンにも生成AI的な映像がない。なんでないんだ? と(笑)。絶対に作らせてくれと思うし、言ってくれればもう死ぬほど作ります。
――YouTubeのアカウントがBANされてしまったとのことですが、レーベルは今後どう進めていきますか?
THIRD PILL:避難用に一応TikTokのアカウントも作っているんですけど、よくわからない理由でBANされて悔しすぎるので、新しいYouTubeチャンネルを立ち上げました。そしてXも動かして――。もちろん今もこれからも楽しいから生成するのですが、同時に生成AIをテック系や政治的文脈からポップフィールドに「奪い返したい」ですね。
生成AIはポップカルチャーがカウンターカルチャーとしての力を取り戻すための最後の武器だと思うので、とにかく全方位でリーチする方向にいろいろ展開できればと。
もしちょっとでも興味を持っていただけたら、僕らは無料で作るので、アイドルの運営の方でも、ハイパーポップをやっているような方でも、レーベルの方でもいいので声をかけてもらいたいです。


















