万博で話題となったパビリオンが横浜で”生まれ変わる” null²ⁿ オープニング記念セレモニー・内覧会に落合陽一が登壇

2025年の大阪・関西万博で一際話題となり予約困難と言われていたパビリオンが、落合陽一氏が手がけたシグネチャーパビリオン「null²(ヌルヌル)」だ。万博が終わり一度は取り壊されたnull²が生まれ変わり、常設シアター「null²ⁿ(ヌルヌルネクサス)」として10月14日に横浜・みなとみらいのランドマークプラザ5階にオープンする。開業に先立ち10月9日に行われたオープニング記念セレモニーと報道向け内覧会に落合陽一氏が登壇した。
◾️落合陽一が明かした、プロジェクトに込めた意図や特異性
オープニング記念セレモニーではプロデューサーの落合陽一氏のほか、横浜市副市長の平原敏英氏からの祝辞や、大阪府知事の吉村洋文氏らによるビデオメッセージも紹介された。また、大阪・関西万博公式キャラクターとして人気となった「ミャクミャク」と横浜園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)公式マスコットキャラクターの「トゥンクトゥンク」もテープカットセレモニーに駆けつけ、華を添えた。

落合氏はオープニングセレモニーにて、「AIの登場により人間は道具を自分で作るということから卒業しそうになっている中で、人間の考え方や自然との向き合い方、コミュニケーションの取り方も変わってくると思います。そういったことを体験的に理解できて、かつ芸術的に感じられるような施設を作ろうというのが大きな意図です」と今回のプロジェクトの根底にある想いを語った。

null²ⁿの位置付けとしては、大阪・関西万博の「null²」と、来年のGREEN×EXPO 2027で展開予定の「null⁴(テトラヌル)」の中間に位置する常設シアターとして設計されている。落合氏は「ネクサスという名前が示すように、ここに人が集うとか、ここがハブになるという意味を込めています」と説明する。
従来の建築や展示は、綿密な設計図に基づいて作られる「ウォーターフォール型」が一般的とした上で、null²ⁿは鉄骨以外の膜構造やLED映像、音声に至るまで、運用しながら作り変えていく「アジャイル型」のプロセスを採用している。落合氏はこの常設シアターの特異性を「オープン時に来た人とオープンから半年後に来た人で体験できる演出や映像が違ったりする。実にソフトウェア的な構造で、それこそがこの施設の楽しみ方だと思います」と語っている。こうした柔軟なアップデートを可能にしているのが、劇的に進化したAIと計算機資源であり、リアルタイムで処理するためになんと大阪万博時の5倍ほどのコンピューターが稼働していると明かした。

今回のオープンに向けては「大阪・関西万博で作ったnull²というパビリオンを商業施設内に持ってくるので、非常にいろいろな苦難がありました」と、日常的な商業施設にヌルの森を作り出すことの難しさを回顧した。しかし、商業施設ゆえに天井高が低いという物理的な問題以外に特にやりきれなかったところはなかったと続け、「建屋の制約の中で一体何が作れるかを考えながら作ったのが大きかった」と自信をのぞかせた。制約の中でも万博ではやりきれなかったいくつかの作品構想を新たに表現し、さらなる進化を遂げているようだ。
◾️6つの空間で体感する”ヌルの世界”
オープニング記念セレモニーと合わせて行われた内覧会ではひと足さきに「null²ⁿ」を体験してきた。「null²ⁿ」は6つのエリアで構成されており、約60分に渡って落合陽一が描く世界観を巡っていく。また、館内の床や壁に使われている素材を傷つけないようにシューズカバーを着用して入場する形となっている。

1つ目は「門 震える 皆空鏡門」と呼ばれるエリア。外からも見える入り口エリアで、万博時の外装膜と同じ素材で構成されている。印象的でどこか不気味なビジュアルと、微かに感じる低周波音が、これから始まる不思議で不穏な“ヌルの世界”を予感させる。

皆空鏡門(mirror portal of null²)震える TREMBLE ―「ここから先は、ヌルの中。」
2つ目は「壱の間 戸惑う さよならホモサピエンス」というエリア。その名の通り戸惑わせるための空間であり、最初は綺麗な映像だと思っていたが、次第にわけがわからなくなっていく。情報として入ってきているのに処理が圧倒的に追いつかないという初体験を味わえる。落合氏は「大阪万博のミラーシアターを横浜用にリバイバルした作品となっています。LEDの数が5面に増えているので、非常に大きいというところが特徴です」と解説していた。

戸惑う BEWILDER ―「意味が分からないまま、何かを置いていく。」



3つ目は「弐の間 整う 無眼界の夢」というエリア。ここでは完全な暗闇と無響の中で、どこかで聞いたことのあるような音に包まれていく。筆者はサウナが好きなのだが、整っている時の感覚に近いと感じた一方で、生死の縁を彷徨っている走馬灯の音verのような気もした。ここまで真っ暗な空間は日常ではほとんどなく、目を開けていても閉じていても変わらないほど。部屋の広さがわからなくなり、どこまでも広がる亜空間にいるような錯覚に陥ることができた。大阪万博の時にやりきれなかった作品構想の一つとして無響室を落合氏はあげており、その点に置いてこのエリアは万博からのアップデート部分と言える。

整う ATTUNE ―「目を閉じても、閉じなくても、同じ。」
4つ目は「参の間 驚く 質量への憧憬」というエリア。人類の発明品が約170点展示されており、懐かしい製品や品物がたくさん並んでいるので、博物館感覚で楽しめる。ただ、この空間も四方八方が鏡となっているため、空間としての奥行きが感じられ「精神世界」のような感想を抱くエリアだった。

驚く WONDER ―「人類がつくってきたものが、全部ある。」

5つ目は「肆の間 トぶ 潜在空間の夢」というエリア。壱の間と似たような部屋だが「コンピューターが中で見ているような、もしくは中のAIが学習していくステップ自体を可視化したような空間になっている」とのこと。「五感で人間と計算と自然の関係を捉え直すというところがポイントになっていて、インタラクティブに動くところがあるので、いろんな人が楽しめるかなと思っています」と落合氏はコメントしている。

トぶ TRIP


6つ目は「橋 また来る 記号の彼岸」というエリア。さっきまでいた参の間が見える仕掛けになっており、このエリアを最後に記号の世界へ帰っていく。まだ夢の中(参の間)にいる人を外から見ることできる構造にしているのが心にくい演出だ。

また来る RETURN ―「いってらっしゃい、と、もう一度。」
また、入り口付近には物販コーナーもあり、ヨウジヤマモトが展開するジェンダーレスブランド「Ground Y」とのコラボレーションによる「Ground Y×null2n Tシャツ」などが販売されている。


約60分間の体験を通じて感じたのは、これまでのLEDやプロジェクションマッピングによる空間演出のような「綺麗さや美しさ」をメインにしたものではないということだ。「映え」を求めて来場する人にとって楽しい体験になるかというと必ずしもそうではないように感じられた。この常設展は体全体で現世から遠く離れた浮世のようなヌルの森に飛び込む体験型の施設だ。特に壱の間と肆の間は、音や視覚の情報が凄まじいスピードで飛び込んできており、さながら呪術廻戦の無量空処のよう。「いつまでも情報が完結しない」状態や圧倒的な非日常を味わいたい人にこそおすすめしたい。























