吉田夜世が語る、ボカロPの「作曲とイベント出演のバランス」 大ヒット以降の活動と現在の悩み、目標、心境を聞いた

ことし7月、オーストラリア・シドニーでアニメ・マンガイベント『SMASH!』が開催された。国内最大規模のイベントとして知られ、オーストラリアの公共放送局・SBSによれば5万人以上を動員したという。
そんな『SMASH!』に、日本からボカロPの吉田夜世が出演し、DJパフォーマンスを披露した。「オーバーライド」などの代表曲で知られ、日本でもさまざまなイベントに出演・登壇をしている吉田は、現地ファンを大いに沸かせ、会場を盛り上げた。
今回、リアルサウンドテックでは吉田夜世にインタビューをおこなった。『SMASH!』に参加した感想から、ボカロDJとしての遠征・出演とボカロPとしての作曲活動におけるバランス、「オーバーライド」を経た現在の目標やモチベーション、ボカロPとしての悩みや今後の展望まで、吉田夜世の現在を探る貴重な機会となった。(三沢光汰)
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オーストラリアは“すごく誇張した北海道”? 吉田が抱く親近感
——吉田さんは、ことし7月に開催された『SMASH!』に参加し、ボカロPとしてDJパフォーマンスを披露されました。出演してみた率直な感想を教えてください。
吉田夜世:行く前は、どれくらい盛り上がっているのかが分からないのでややドキドキしながらの遠征でした。たとえば東南アジアであれば、「日本文化への熱量が高い」という情報が結構入ってきますよね。中国や韓国なんかは物理的にも距離が近かったり、ボカロP仲間でもタイやインドネシアなど、東南アジアに行く人が多かったりするので。ただ、これがオーストラリアになると意外にも情報が入ってこないんですね。
実際に行ってみた感想としては、日本やほかのアジア圏の国々と比べても遜色ないぐらい、日本のポップカルチャーで盛り上がっていたなと思います。特に、アニメコンテンツからの影響はすごく大きいんだな、とあらためて感じました。アニメキャラのコスプレをしている人が会場にすごく多くて、そこから派生してアニソンやボカロなど、日本の音楽にも興味を伸ばしてくれている人がたくさんいるのだと思います。
そのおかげもあって、すごく楽しくDJもやれましたし、日本を含めた他の国と良い意味で変わらず盛り上げることができたんじゃないかなと思います。
——オーストラリアにはもともとどんなイメージを持っていらっしゃいましたか?
吉田夜世:僕、北海道出身なんですけど、オーストラリアは“すごく誇張した北海道”みたいなイメージを持っていて。オーストラリア大陸というぐらいだから、国土がめちゃくちゃ広いんですよ。それもあってか、人があまり密集しすぎていない。シドニーは大都市ですけれど、人口密度に差があるので、東京と比べてかなりギャップを感じますね。大らかな人が多いという印象を持っています。みんな優しいですし。
——じつはオーストラリアへの留学経験もおありだとか。
吉田夜世:短期のホームステイなので、留学というほど大げさなものでもないんですけどね(笑)。シドニーの郊外でホームステイをしたのですが、当時はオーストラリアの文化を取り入れる機会として行ったので、逆に「オーストラリアにおける日本のサブカルチャー」に触れる機会がなく、そういう意味でも手探りでドキドキの遠征でした。
——初日はアニソン系の楽曲が多めで、2日目は完全にボカロ中心というセットリストだったかと思います。かなり毛色が違いましたが、ある種探りを入れていたような形?
吉田夜世:そうですね、完全にその表れです(笑)。前日に会場の下見をして、アニメコンテンツならまず外さないだろう、という確信を持っていたので、まずはアニソンメインに組み立てて、そこにボカロを混ぜながら反応を探っていきました。ボカロPとして参加しているのもありますし、「ボカロオンリーにしてもいける!」という手応えをしっかり感じられたので、2日目はボカロ中心に切り替えました。
——現場での選曲はどのような形でされましたか?
吉田夜世:ボカロに寄せるとはいいつつ、マニアックな曲を流しすぎても、それは手応えを感じた部分とは別の話になってくるので、有名曲をあらかじめいっぱい入れたプレイリストを作っておきました。そして、その場でお客さんの反応を見ながら選曲していったので、そういう意味ではしっかりとDJらしいパフォーマンスができたかなと思います。
——ボカロ楽曲に寄せても、しっかりお客さんが盛り上がって反応していましたね。ちゃんと知っている人たちのリアクションだったように思います。「この曲でも盛り上がってくれるのか」という、良い意味での裏切りもありましたか?
吉田夜世:僕も同じ印象を持っていて、驚きの連続でした。選曲している時の心境としては、「この曲もいけるんだ、じゃあこの辺いけるかな? あ、いけるんだ」の繰り返しでした。ある意味で、オーストラリアのボカロリスナーたちの知識を試すような、掛け合いのような場になっていたのかなと。
——オーストラリアのリスナーへの印象は変わりましたか?
吉田夜世:そうですね。無視できない市場なんだなという風にあらためて感じました。もともと、YouTubeのアナリティクスなどを見ていてオーストラリアからの視聴が一定数あることは知っていて、「オーストラリアにもオタクいるんだ」という知識はあったんですけど、それを実感する機会になりました。
——夜世さんの最近のTwitterとか見てると、DJ出演やイベント登壇の告知が多いように感じるのですが、積極的に出演するように心がけていたりするんでしょうか?
吉田夜世:そうですね。1億回再生された楽曲を持っているボカロPの中で「一番会いやすいボカロP」でありたいという野望があって、実際にそうだとも思っています。まあ、いつでも会えるから、即売会とかイベントとかで行列はできないんですけど(笑)。
——そういった野望を抱いたのには、なにか理由があるんでしょうか。
吉田夜世:知り合いや仲間のボカロPたち、そしてファンに対してもそうなんですが、「オーバーライド」で知られるようになった前と後で接し方を変えたくないと思っていて。その考え方の延長線上みたいなイメージです。
あとは、そもそも旅好きというのもあってフットワークが軽いので、海外はもちろんのこと、日本でも遠方含めDJイベントには積極的に参加したい人間なんですよね。
——旅が好きだから、地方とかでも呼ばれたらむしろラッキーだと感じる?
吉田夜世:それも大いにありますね。旅行に行くときって、しっかり旅の計画を立てたりとか、観光地に行く予定を立てたりとかするのが普通だと思うんです。一方で、DJ出演で呼ばれた場合、オファーされた出演の予定がある上で旅行もできるから、なんだかお得だなと(笑)。そういう意味でも、地方遠征は結構好きでやっています。
——今回のオーストラリア遠征は、ドワンゴが文化庁の支援を受けて取り組んでいるプロジェクト『Asia Creators Cross』の一環として行われました。個人でも色々な場所に遠征をされている中で、こういった形でドワンゴがアテンドを含めたサポートを提供してくれるというのは、出演者の目線としてどう映っていますか?
吉田夜世:それはもう助かりますよ。本当に助かります。仕事で行くとなると、現地での案内はかならず必要になってきますから。僕は元々のスタイルや気質もあって、やや旅行気分な部分もありますが、とはいえれっきとしたお仕事ですし、出演者として行くわけですからね。もろもろの手続きやホテルの手配、会場までの移動サポートや食事など、それら全てをお任せして引っ張っていただける、自分のパフォーマンスに集中できるというのは、すごくありがたいですね。
ボカロPとしての活動と、DJ出演のバランス、モチベーションの維持……現在の悩みを聞く
——ボカロPとしての本業もあるなかで、創作活動とDJ活動のバランスについてはどのような考えを持っていますか?
吉田夜世:バランスは常に取っていかないといけないと思っているんですが、現状はDJイベントや即売会への参加、番組出演などに比重が傾いていて、悩みではありますね。曲を出すペースが落ちてしまっているところもあるので、あまり出演を絞りたくはないのですが、創作活動に充てる時間を作ってもいいかなと最近は思っています。
体は一つしかないし、どちらかを増やせばもう一方が減ってしまうのは仕方がないので、活動を続けていく中で常に配分を考えながら、自分のコンディションに合った活動方針をとっていきたいところですね。いまは創作活動の方にだんだんと傾けていく、いわばフェーダーを調節するフェーズがきている状態かな、と。
いま考えていることでいうと、アルバムをしばらく出せていないので「アルバムリリース」を第一目標にした制作ができないかな、と考えています。というのも、1stアルバム『Storable Venture』は単体の楽曲としてリリースした曲たちをベストアルバムとしてまとめた形だったので、アルバムを主体にして作ったときに何が生まれるか、ということに興味が出ていて。制作する楽曲たちにより一貫性を持たせられるのかな、とか。
あとは、アルバムのために曲をいっぱい作ることになるので、「これは単体でも投稿したいな」と思った楽曲にMVをつけて投稿するとか、アルバム限定曲をあとからMVとして公開するとか、色々と副次的な展開ができそうですよね。なにより、アルバムのコンセプト先行で制作を進めていくのは、自身のモチベーション維持の面でも向いていそうだなと(笑)。
——逆に、いまボカロPとして抱えている悩みはありますか?
吉田夜世:活動のうえでの悩みは、モチベーション維持やスケジュール管理といったマネジメントの部分に帰着していて。いまは個人としてやっていますが、そろそろマネージャーを雇わないといけないな、と動いている最中です。
再生数だったり、フォロワー数だったりという数字的な悩みに関しては、ヒット曲がひとつあると減りますね。伸び伸びと創作をする土壌は整ったなと思っています。
——人によっては、ヒット曲を出したら、次に対するプレッシャーを感じる人もいると思うんです。夜世さんはそういうタイプではないんですね。
吉田夜世:そうですね。僕は自分のことをヒットメーカーと呼ばれるような作り手ではないと思っていて。もちろん、狙ってヒットを出せる人、設計してバズを生み出せる人もいると思うのですが、そもそも「オーバーライド」のヒットもそうではなかったので。100万再生いけばいいなとか、めちゃくちゃ上手くいって1000万再生に届けば御の字だろうとか、そういう風に考えて作ったら、たまたま大ヒットした楽曲でしたから。
それを毎回狙うのは難しいし、それだったら作りたいものを気楽に作っていきたいなという風に考えています。もちろん、そうやって取り組んだ結果として、何年後かに次の特大ヒットに繋がっていけばいいかなと思っています。別に一発屋と呼ばれるのも気にしてはいないですし(笑)。
それに、チャンネル登録者数や聴いてくださるリスナーさんの数自体が「オーバーライド」前後で大幅に増えたので、いまは再生数のベースが底上げされている状態です。昔に比べればヒットやバズにつながるチャンスは増えていますから、焦ることはないのかなと。
——その良い意味で肩の力が抜けているところが、夜世さんらしさであり、魅力なのだと思います。ファンに対するスタンスも含めて、作り手としての一貫性を感じます。
吉田夜世:DTMを始めた頃からの考え方として、「色んな曲を作れる人になりたい」「引き出しを広く持っておきたい」というのをずっと思っていて。ただこの考え方って、ヒットを連発することとは相性が悪いと思うんですよ。1個ヒットを出してそれを連発しようと思ったら、似たような曲をたくさん作るというのがまずは手っ取り早い戦略になる。でも、それはあんまりしたくない。思想というか、DTMerとしての考え方ですね。
もちろん、生活をするうえで数字は必要ですし、「焦っていいものはできない」と言っておきながらなんですが、「オーバーライド」を作った時はちゃんと焦っていたので……(笑)。そういった意味では、もっと焦った方がいいのかもしれないですけどね(笑)。
吉田夜世が語る、活動の展望と目標
——さらに吉田夜世の作家性や思想に踏み込んでみたいのですが、ボカロPやコンポーザーには自身を売り出していく「アーティスト」志向の方、楽曲提供を含めた「職業作家」志向の方といったいくつかのタイプがあると思うんです。夜世さんご自身は、ご自分をどのように分類、あるいは目指していますか?
吉田夜世:1、2年前までは、前者と後者の中間をうまく狙っていくような、ボカロPとしてアーティスト性を持ちながら楽曲提供をいくつもやってるみたいな人に憧れていました。ただ、やってみると職業作家的な働き方、製作への向き合い方はあまり適性が高くないなという風に気が付いて……。そういう意味では、アーティスト寄りの向き合い方に持っていった方がいいのかなと思っています。もちろん、ここからまた考え方は変わるかもしれないですし、自分がこうなりたいなと思っていても、実際そうなるかはまた別の問題なので、どう折り合いをつけようかなというところですね。
——つい先日、「ソンギラー」のMVがリリースされました。これは新曲というわけではないんですよね?
吉田夜世:そうですね。足立レイのコンピレーションアルバムに書き下ろした曲なので、結構前からあった曲ではあるんですけど、それに香咲さくらさんの動画をつけてMVとして投稿したという感じになります。
——だいぶ久しぶりの動画投稿になりましたね。
吉田夜世:そうですね、半年以上空いちゃったんで。ヒット作を出して、そこから活動にブーストがかかる人と、かからない人がいると思うのですが、僕の周りはブーストがかかる人が多くて……羨ましいなと思ってます。
——モチベーション管理のところも含めて今年から来年にかけての夜世さんの目標をお聞かせください。
吉田夜世:まあやはり、こんなに間を空けずに楽曲をリリースすることですね。最後に投稿したのが『maimai でらっくす CiRCLE』への書き下ろしで、ボカロ曲は1年前の「アクセラレイト」以降、間が空いちゃってるので。リリースしないと始まらないですからね。ヒットがどうこう以前の問題ですから、投稿しないと!(笑)
——そういえば、Xで「海外バズを巻き起こすための物語の進行中」という風に発信されているのを見ました。
吉田夜世:「ソンギラー」はまさにその第1弾になります。実際、コメント欄を見ても海外からのコメントが割と多くついてるので、海外の人が見ても言語の壁を越えてわかりやすく「いい曲だな、いい作品だな」と思ってもらえるというのを、今後も意識していきたいですね。
■「Asia Creators Cross」について
日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。
今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。
■関連リンク
吉田夜世 X:https://x.com/otgys
吉田夜世 YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCzTwIedETJq-dLqAhieCm2A
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