Adoとのコラボでも話題に なぜいまクレカ会社は“推し活”の世界に注力するのか、その深い背景

 クレカの世界で推し活市場が盛り上がっている。かつてはグッズ購入など一方通行だった消費行動が、現在ではライブやイベントをはじめとする体験型消費へと移行し、ファンと推しの距離を縮めるツールとしてのクレカで若年層など新たな需要を開拓しつつある。

クレディセゾンが発行するAdoとのコラボで発行されるオリジナルデザインのカード

 「推し活」という言葉がある。共同通信のニュース用語解説によれば、自分の“好き”なアイドルやアーティスト、アニメのキャラクターなど、グッズ購入やイベントへの参加を通じて行う消費活動を意味する。“ファン”による消費を含む活動は古くから存在しているが、アイドルグループで特定のメンバーを“推す”行為が世間に認知されるようになり、これがニュース用語解説で取り上げられるほど明確な市場として「推し活」として認識されるようになったのは比較的最近のことだ。

推し活:好きなアイドルや俳優、アニメのキャラクターなどを応援する活動のこと。グッズ購入やイベントへの参加、作品の舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」といったさまざまな方法がある。交流サイト(SNS)を通じ、対象となる「推し」と直接コミュニケーションを取ったり、ファン同士が交流したりすることもある。物価高騰で節約志向が高まるが、好きなことには積極的にお金を使う「メリハリ消費」の一つとしても注目されている。(共同通信社「ニュース用語解説」より引用)

 それにともない、この市場にさまざまな形でアプローチしようとする企業が増えている。特にクレジットカードなどを擁する金融業界ではアーティストらとのコラボ商品を開発し、オリジナル券面のクレカやカード会員に対して特別なイベント優待のサービスを提供するなど、「推し活」を行うファンが一連の行動を通じてより“推し”にアプローチできるメリットを享受できるというわけだ。つい先日にはクレディセゾンが「推し活課」の立ち上げを宣言し、よりファンの立場から「推し活」を通じてこれまでにない体験価値を得られるような商品開発を進めていることが発表された。

新設された推し活課のメンバー。兼任業務で「推し活」を推進するスタイルだという。メンバーそれぞれ、エンタメやスポーツなどの推しがある

 クレカといえばプレミアム会員からの年会費や分割・リボ手数料などが大きな収入になると言われるが、同社では「IP・推し活戦略」を通じて消費行動からくるカード利用の活発化を促すことで事業を成長させていく狙いだ。

クレディセゾン取締役兼常務執行役員の足利駿二氏。「IP・推し活戦略」を通じてカード事業の拡大を目指す

日本人の4人に1人が「推し活」、4兆円市場の内訳は?

 「推し活総研のアンケート調査」(※1)によれば、2025年に回答者の4人に1人が「推し活」を行っているという。回答者の年間関連消費額が約20万円で、これを日本の人口規模に換算すると4兆円近い規模の市場になると推定している。先ほど「推し活」として認知されたのは比較的最近の話だとしたが、毎年数百万人ペースで「推し活」人口が増えており、2026年中にはトータルで2000万人を超える可能性が高いとしている。

 クレディセゾンの場合、「推し活」が認知される以前より音楽やスポーツの分野でコラボ商品の提供を行ってきたが、近年では対象となるコンテンツがさらに多様化し、かつてのアイドルやアーティスト、スポーツチームだけでなく、アニメや漫画のキャラクター、声優、VTuber、ゲーム、K-POPのような海外アーティストまで、それらに合わせてカバーすべきIPも拡大していき……という形で事業を本格化させたというのが今回の流れだ。

年々拡大する「推し活」の市場

 カード会社が「推し活」で注目するポイントとして、近年のファンの消費傾向が変化していることにある。以前であればCDや関連グッズを購入するのがお馴染みの消費行動だったが、近年はライブやイベントへの参加、あるいは“聖地巡礼”ような形で移動を伴うようになり、その過程で交通利用や宿泊、飲食での消費が増え、またイベント後はオンラインを介しての消費行動や、消費金額などに応じた特典の授受といった形で商品の購入1回だけで終わるようなものではなくなりつつあり、結果として市場全体が膨らんでいるという事情がある。これはクレディセゾンが発行しているアメリカン・エキスプレスのプレミアムカードにも通ずるものがあるが、プレミアム会員は「持っていることでステータスを感じる」「プレミアム会員でしか得られない体験(特別なイベント招待や要予約レストランへの入場権など)」といったことに価値を見出しており、それに近い体験価値を「推し活」クレカにも求めているというわけだ。

 Adoとのコラボキャンペーンでは、ライブ協賛でオリジナルグッズを作成したり、オリジナル券面のカードや消費金額に応じて抽選で入手できる限定グッズなど、アーティストと一緒になってファンとの場を盛り上げる仕掛けを用意している。今回はまだ取っかかりだが、今後もクレディセゾンではさまざまな分野でコラボ商品を開発していく計画で、今夏以降順次アナウンスされていくことになるだろう。

「推し活」による消費行動の変化が消費金額全体を押し上げる結果につながっている
Adoとのコラボキャンペーンの例
今後のIPコラボ計画
若年層を取り込み、さらにミドル以上の層の消費を促す

 大枠としての「推し活」の傾向はそのような流れだが、もう1つクレカ会社にとって同市場を重視する理由が「若年層」の取り込みにある。ご承知のように、未成年ではクレカは作れないうえ、仮に成人しても信用度の低さからカード利用に制限があったりと使い勝手が悪い。そのため、一般的にはクレカを本格的に使い始めるのが早くても20代後半、利用のコア層ということになると30代から50代までと一気に年齢が上がってしまう。日本は年々高齢化の道を歩んでおり、人口ピラミッドは若年層ほど“細く”なるという状況にある。つまり、今までのようにクレカのコア層にあたる30代以降まで若年層が育つのを単に待っていると、その頃にはクレカ各社によるカード会員獲得競争が激化して売上そのものが減少するというリスクに直面することになる。青田買いではないが、早めに若年層を自身のカード会員として取り込んでおくことで、いざ利用のコア層ということで消費金額が増えたときに本格的に使ってもらえるよう“仕込み”をしておくという意味が「推し活」の推進にはある。

 この「若年層を主なターゲットにした『推し活』クレカ」を本格的に手がけるのがナッジだ。ナッジ代表取締役の沖田貴史氏によれば、同社ユーザーの実に7割がZ世代、つまり10代または20代だという。同社は提携パートナーということで、今回のクレディセゾンのAdoコラボのようにアーティストからスポーツクラブ、各種コミュニティまで、「応援クレカ」のような名目でコラボカードを多数発行している。ナッジの特徴として、他のクレカにあるような「決済金額の1%をポイント還元」のような形ではなく、「提携先のアーティストやチームに還元して活動費として使ってもらう」という文字通りの“応援”の仕組みを採用している。これは若年層が、いわゆる“ポイ活”よりも体験や自身の行動に重きを置いており、それを“推し”への還元という形で満たすという発想からきている。また、消費金額に応じてアーティストに関連した特別な特典を得られたり、グッズを入手できる権利を得られるなど、この点も「推し活」コラボの特徴を活かしている。

ナッジのカードの特徴を説明する代表取締役の沖田貴史氏
ナッジではユーザーの7割が10代または20代だという
コラボカードの例。さまざまな“推し”と提携することで応援クレカを実現する
ナッジの特徴はカード券面が豊富なこと。自分の撮影した写真を送付してオリジナルカード券面にできるサービスもある

 なぜ若年層がクレカで一般化している“ポイ活”にあまり興味がないのかという話だが、若年層はクレカで使える決済金額が少ないため、ポイント還元の恩恵をあまり受けられないという話がある。一方で、30代以降になると所帯を持って構成家族の人数が増え、それにともなって消費金額も増えるため、ポイント還元の恩恵が大きくなることが“ポイ活”の高齢化を招いているという指摘だ。実際、ナッジでの月間決済金額の平均値を聞いていると多くても数万円ほどと、“ポイ活”での還元額を考えるとメリットは少ない。またナッジでは若年層でもクレカが使いやすいように、最初は低めの金額で与信枠を設定しても、返済実績を積むことで比較的早く与信枠を広げられる運用をしているようだ。

 そして、それが結果的に「推し活」での利用だけでなく、普段使いカードとしての利用にも広がっていくことがデータで判明しており、青田買いの重要性が示されている。

カードとしての利用がスタートだとしても、日常使いのクレカとしての利用が広がっていくことがデータから分かる

 もう1つ、クレディセゾン側の「IP・推し活戦略」で示されていたのは、この分野での50代以上の開拓だ。使える金額そのものは若年層よりも多いうえ、余暇を含む活動時間も「推し活」には向いている。同社では若年層と同時にこの層も同様に順次取り込んでいき、全体としてのカード利用を高めていく狙いだ。

クレディセゾンでは「推し活」のもう1つのターゲットとして「ミドル以上」の層もターゲットに

 ボリュームゾーンである30-50代の利用を前提に語られることが多かったクレカ業界だが、近年では10-20年先を見据えた人口ピラミッドの変化に備えて、これまで落としがちだった「若年層」「ミドル以上」を明確なターゲットとする動きが活発化している。「推し活」への傾注はその一環であり、ある意味で日本の現状を反映した結果といえるだろう。

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※1:https://note.com/oshikatsusoken/n/n891ccd4bac7b

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