NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第28回)
「COMPUTEX 2026」現地レポート AI・半導体・ロボティクスから見えた次世代テクノロジーの未来
6月上旬の台北には、2つの「熱」があった。ひとつは肌にまとわりつく亜熱帯特有の蒸し暑さ。もうひとつは、テクノロジーの未来を追い求める人々の熱量だ。
その「熱」の中心にあったのは、毎年6月に開催されるアジア最大級のテクノロジー展示会「COMPUTEX TAIPEI 2026 (以下、COMPUTEX)」だ。
会場となった台北南港展覧センター(TaiNEX 1・2)、TWTC展示ホール、台北国際会議センターには、1500社を超える出展者と、150カ国以上から約11万人の来場者が集結。会期前の報道陣向けのプレイベント等も含め、約1週間にわたり世界中のICT業界関係者の熱気に包まれた。
そんな会場を歩き回りながら強く感じたのは、今回の「COMPUTEX」のテーマ「AI Together」にもあるように、「AIはすでに社会の基盤インフラとなり、現実世界と深く融合し始めている」という現実だった。
特に大きく分けると、「AI」「ロボティクス」「次世代技術」の3つの柱があったように思う。そして、これらの技術を台湾が支える中心地のひとつとなっていることを、蒸し暑い亜熱帯の空気の中で、改めて全身で体感させられる4日間だった。
「RTX Spark」の登場によってAI時代を支えるプラットフォームの競争がさらに激化へ
今年のCOMPUTEXで最も大きな注目を集めたのは、何と言ってもNVIDIAのジェンスン・フアンCEOによる基調講演で発表された「RTX Spark」だろう。
RTX Sparkは、MediaTekとの協業によって開発されたArmベースのスーパーチップだ。20コアCPUとBlackwellアーキテクチャのGPU(6144 CUDAコア)を統合し、最大128GBの統一メモリを搭載。最大1ペタフロップス級のAI性能を実現する。
その特徴は、Appleシリコン(Appleが独自開発したハードウェアとOSを一貫した半導体)を思わせる統合設計にある。これまでクラウド側で処理していた大規模AIモデルをローカル環境で動かし、AIエージェントをまるで「自分専用の分身」のように活用できるという。クリエイターにとっては制作環境の大幅な効率化につながり、ゲーマーにはより高度で没入感の高い体験をもたらす。ビジネス用途でも、リアルタイム翻訳や資料作成などの作業を大きく変える可能性を秘めている。
これまでGPU市場をけん引してきたNVIDIAが、CPU領域へ本格的に踏み込むことを示した発表のインパクトは大きく、会場でも大きな話題となった。
世界中の報道関係者や業界関係者が見守る中で行われたこの発表は、COMPUTEX 2026を象徴する出来事のひとつだった。AI PCの次の時代が動き出す瞬間に立ち会えたことは、現地を取材した者として強く印象に残っている。
RTX Spark搭載PCは今秋から順次市場に投入される予定だ。その流れを象徴する存在として、Microsoftは新たなフラッグシップモデル『Surface Laptop Ultra』を発表している。
『Surface Laptop Ultra』は、ミニLEDディスプレイを搭載し、薄型ボディと高いAI処理性能を両立。従来のSurfaceシリーズが持つ生産性重視のイメージに加え、AIエージェントを活用した新たなワークスタイルを提案する製品として位置付けられている。実際に触れてみると、処理レスポンスの良さとディスプレイの美しさが印象的だった。MicrosoftがNVIDIAとの連携を強化し、AI時代のWindows PCを強く打ち出していることが伝わってきた。
一方、IntelはハンドヘルドPC市場への攻勢を強めている。COMPUTEX開催直前には、携帯型ゲーム機向けに最適化した初の本格カスタムSoC「Intel Arc G-Series(Arc G3/Arc G3 Extreme)」を発表。会場では、このチップを搭載した『MSI Claw 8 EX AI+』『Acer Predator Atlas 8』『OneXPlayer 3』などが展示されていた。
AMDの「Ryzen Z2」シリーズに対抗する性能と電力効率をうたい、長時間のゲームプレイを実現するという。実機を試した限りでは、安定したフレームレートと滑らかな描画が印象に残った。携帯型ゲーミングPC市場は近年急速に拡大しているが、Intelの本格参入によって競争はさらに激しくなりそうだ。
台湾発のメーカーである「ASUS」も今年のCOMPUTEXでも大きな存在感を示していた。クリエイター向けの「ProArt」ブランドでは、「RTX Spark」を採用した『ProArt P16(H7607)』と『ProArt P14(H7407)』を前面に押し出した。
両モデルは、RTX Sparkの高いAI処理能力と最大128GBの統一メモリを活用し、生成AIや動画編集、3Dレンダリングといった負荷の高い作業をローカル環境で実行できることを特徴とする。AI活用が進むクリエイティブ分野において、ASUSがいち早く実践的なソリューションを提示していたように思う。
さらにASUSは、『Zenbook 14』や『Vivobook S14/S16』といった一般ユーザー向け製品も拡充。OLEDディスプレイを採用しながら、Snapdragon、Intel、AMDと幅広いプラットフォームを用意し、軽量性と長時間駆動を両立している。Copilot+ PCとしてのAI機能も充実しており、学生からビジネスユーザーまで幅広いニーズに応えるラインアップとなっていた。
ゲーミングブランド「ROG」のブースでは、今年はブランド誕生20周年という節目にあたり、「ROG Lab」をテーマにした大規模な特別展示を展開。20年の歴史を振り返るレガシー展示と、最新製品を組み合わせた没入感の高い空間が来場者の注目を集めていた。
ブース内には、透明パーツやゴールドのアクセントを採用した20周年記念モデル「Edition 20」シリーズをはじめ、ゲーミングPCやグラフィックスカード、マザーボード、周辺機器などが数多く展示された。実際に機器へ触れられる体験型コンテンツも充実しており、多くの来場者で賑わっていた。
中でも多くのユーザーが注目していたのが、ハンドヘルドPC『ROG Xbox Ally X20』とARグラス『ROG XREAL R1』を組み合わせたデモだ。場所を選ばず大画面でゲームを楽しめる体験を提案しており、従来のPCやモニター中心のゲーム環境とは異なる、新たなプレイスタイルの可能性を感じさせた。
クリエイター向けのProArt、一般向けのZenbook/Vivobookに加え、ROGでは次世代のゲーミング体験を提示するなど、ASUSの展示からはAI PC時代を見据えた幅広い製品戦略をうかがうことができた。
一方、ディスプレイ分野ではSamsungが発表した世界初の4K・360Hz対応QD-OLEDパネルが話題を集めた。
32インチの大型パネルで、高解像度と超高速リフレッシュレートを両立。さらにPenta Tandem技術の採用によって、輝度や耐久性の向上も図られているという。OLEDの課題とされてきた部分の改善を目指す技術として、ゲーミングモニター市場における今後の展開にも注目が集まる。
また、このパネルを採用する製品として、MSIが4K・360Hzに加え、1440p・520Hz、1080p・680Hzへ切り替え可能なトリプルモード対応ゲーミングモニターを発表している。高解像度と高リフレッシュレートの両立を目指す動きは、ディスプレイ分野における技術競争の激しさを象徴するものと言えそうだ。
社会実装が進むフィジカルAIの最前線
もちろん、今年のCOMPUTEXを象徴していたのは、PCや半導体メーカーによる新製品発表だけではない。
会場を歩いていて感じたのは、多くの企業が「AIそのもの」ではなく、「AIをどう社会で役立てるのか」に目を向けていたことだ。AI PCやローカルAIを支える半導体だけでなく、その技術を製造業や物流、医療、小売といった現場の課題解決につなげる展示が数多く並んでいた。
COMPUTEX 2026のテーマである「AI Together」が示すように、会場全体からは、AIがPCの中だけで使われる技術ではなく、ロボットやモビリティ、産業機器など現実世界へ広がり始めていることが伝わってきた。
その様子を分かりやすく示していたのが、GIGABYTEブースでのフィジカルAIのデモだ。展示では2台のロボットアームが協力しながらサーバー内部へGPUを取り付ける作業を行っていた。
人間が一度作業を行うと、その動きをAIが学習する。その後、仮想空間上で何度も訓練を繰り返し、十分な精度になった段階で実際のロボットへ反映する仕組みだ。
実際のロボットは互いの動きを合わせながら慎重にGPUを装着していた。単なる自動化設備というよりも、作業内容を理解しながら協力している。細かな動きをひとつひとつプログラムするのではなく、人間の動きを学びながら成長していく様子はとても印象的だった。
こうした展示は、NVIDIAが提唱する「フィジカルAI」の考え方を分かりやすく伝えるものでもある。現実世界の情報をセンサーで取得し、AIが判断を行い、その結果をロボットや機械の動きに反映する。これまで研究開発の段階だった技術が、少しずつ実用化に近づいていることを感じさせた。
新設されたAIロボティクスゾーンでも、産業用ロボットアームや自律搬送ロボット(AMR)、サービスロボットなどが数多く展示されていた。生成AIやビジョンAIを活用し、周囲の状況を把握しながら自律的に動くデモも行われており、AIとロボットの融合が着実に進んでいることがうかがえた。
今回のCOMPUTEXを振り返ると、特に印象に残ったのは「AI」「ロボティクス」「次世代技術」という3つのキーワードが、これまで以上に強く結び付いていたことだ。NVIDIAのRTX Sparkをはじめとする新たなプラットフォームも、その流れを支える重要な存在になろうとしている。
そして、その最前線を支えているひとつの地域がCOMPUTEXの会場である「台湾」。半導体からPC、周辺機器、スタートアップまで、多くの企業が集まるこの地は、今も世界のテクノロジー産業を支える重要な拠点だ。AIが社会へ浸透していくこれからの時代、COMPUTEXはその変化を映し出す場として、来年以降も大きな注目を集めることになりそうだ。