Apple創業50周年、歴代製品の「色」から紐解くデザイン哲学と最新のカラー戦略

iPodが拓いた「カラーで選ぶ」時代

シンプルなiPodとは対照的に、iPodの広告は多彩なカラーを取り入れていた

 カラフルな『iMac』が登場した後、Apple製品は一時的にホワイトやシルバー、ブラックといったプロフェッショナルでシンプルな色調へと回帰していく。『Power Mac G4』や『PowerBook G4』のチタニウムシルバー、『iBook G4』や『iMac G4』のホワイトなど、2000年代前半のApple製品はミニマルな美しさを追求していたように思える。2001年に登場した初代iPodも、美しいグロスホワイトのみの展開だった。白いイヤフォンのコードが街中で目を引き、それ自体がiPodのアイコンとなったのは記憶に新しい。

 そして、2004年に登場した『iPod mini』が、再びカラーの扉を大きく開け放つ。アルミニウム表面に強固な「陽極酸化皮膜(アルマイト)」を電気化学的に生成させたアノダイズドアルミニウムのボディに、シルバー、ゴールド、ブルー、グリーン、ピンクの5色を纏ったこの小さなデバイスは、爆発的なヒットを記録した。『iPod mini』のカラー展開は、iMacのキャンディーカラーとは異なり、アルミの質感を活かした上品なパステルトーンだった。これは後のApple製品のカラー展開に大きな影響を与えることになる。

iPod miniの5色展開。それまでのホワイトなiPodに比べ、アノダイズドアルミの上品なカラーリングが特徴的だった

 2004年には『iPod(第4世代)』の「U2 Special Edition」も登場した。ジェットブラックのボディにレッドのクリックホイールという組み合わせは、アーティストとのコラボレーションによる限定カラーの先駆けでもあった。

 さらに、2008年の『iPod nano(第4世代)』では「nano-chromatic」と銘打ち、一挙に9色ものカラーバリエーションを展開した。シルバー、ブルー、パープル、グリーン、オレンジ、イエロー、ピンク、ブラック、そして(PRODUCT)RED。店頭にずらりと並んだ色とりどりの『iPod nano』は、まるで絵の具のパレットのようだった。広告では、9色の『iPod nano』から色が溶け出すようなビジュアルが使われ、「色そのもの」が製品の最大のアピールポイントとなった。『iPod shuffle』も同様にカラフルな展開を見せ、この時期のiPodファミリーはApple史上最もカラフルな製品群であった。

『iPod nano(第4世代)』。9色展開で、自分好みのカラーを選ぶ楽しさも増えた

 また、忘れてはならないのが「(PRODUCT)RED」の存在だ。エイズなどの感染症対策を支援する「(RED)」キャンペーンに、Appleは2006年の『iPod nano(第2世代)』で初めて参加。鮮やかな赤いボディの『iPod nano』は、社会貢献とカラー戦略を見事に結びつけた製品だった。この取り組みは、その後iPhoneやApple Watchなどの製品に受け継がれ、iPhone 14を最後にiPhoneでの展開が終了するまで約17年間にわたって続いた。『iPhone SE(第3世代)』や『Apple Watch Series 9』を最後に、(PRODUCT)REDのデバイスはすべて販売終了となった。

(PRODUCT)REDはAppleデバイス本体だけでなく、ケースなどのアクセサリーにも展開された(出典:Apple Newsroom)

 「iPod」で培われたアノダイズドアルミの着色技術とカラーバリエーションの手法は、間違いなく後のiPhoneやMacBookのカラー展開の礎となった。「色で自分らしさを表現する」という文化をユーザーの間に完全に根付かせたのは、iPodの功績といっても過言ではないだろう。

iPhoneのカラー戦略 素材感から自然・天体へのネーミングの進化

『iPhone 7』と『iPhone 7 Plus』のジェットブラック。鏡面仕上げの深い光沢が大きな話題を呼んだ

 iPhoneの時代に入ると、Appleのカラー戦略はさらに洗練されてくる。特に「ネーミングの妙」が際立つようになるのだ。

 初代iPhoneはアルミニウムとブラックの組み合わせのみ。『iPhone 3G』からはホワイトも選べるようになり、『iPhone 5』まで同様だった。色の選択肢が限られていた初期のiPhoneにおいて、転機となったのは2013年の『iPhone 5s』だ。シルバー、スペースグレイに加えて、初めてゴールドが登場した。当時、ゴールドのiPhoneの登場に驚く声もあったが、蓋を開けてみれば大人気となり、以降のiPhoneにおけるゴールドの定番化に繋がった。また、同年発売の『iPhone 5c』は、ホワイト、ピンク、イエロー、ブルー、グリーンの5色をポリカーボネートボディで展開し、初代『iMac』以来のカラフル路線をiPhoneで試みた意欲作でもあった。

 2015年の『iPhone 6s』では、新たにローズゴールドが追加された。ピンクがかったこの色は、特に女性ユーザーを中心に絶大な人気を博した。そして、筆者の記憶に最も強く残っているのは、2016年の『iPhone 7』で登場したジェットブラックだ。9段階の酸化皮膜処理と研磨工程を経て生み出された鏡面のような深い光沢は、黒の中にも艶という新たな質感を持ち込んだ。これはApple自身が「微細な傷がつく場合があります」と注意書きを添えるほどデリケートな仕上げだったが、多くのユーザーがその美しさに魅了された。同じ黒でも、マットなブラックと光沢のジェットブラックを並べて見せたAppleの提案は、色の奥深さを改めて感じさせるものだった。

 また、無印のiPhoneシリーズでは、発売から半年ほど経った春のタイミングでスペシャルカラーを追加する手法が定着した。「iPhone 12」のパープルや「iPhone 13」のグリーン、「iPhone 14」のイエローなどがそれにあたる。新色の追加は、製品サイクルの後半に再び話題を提供する巧みなマーケティング手法でもあった。「(PRODUCT)RED」も多くのモデルで後追い追加されるスペシャルカラーとして展開されてきた。

2023年3月、「iPhone 14」と「iPhone 14 Plus」のラインアップに加わった新色のイエロー(出典:Apple Newsroom)

 Appleのカラー戦略で特に注目したいのは、そのネーミングセンスの進化だ。Appleのカラー名は時代とともに大きく変わってきた。初期のシルバー、スペースグレイ、ゴールドといった素材感を表す名前から、『iPhone 11 Pro』のミッドナイトグリーンあたりを境に、より詩的で情景を喚起する名前へとシフトしている(あるいは、ボンダイブルーの頃への回帰とも言えるだろうか)。『iPhone 12 Pro』のパシフィックブルーは太平洋の深い青を、『iPhone 13 Pro』のシエラブルーはシエラネバダ山脈の空を、『iPhone 15 Pro』のナチュラルチタニウムは素材そのものの力強さを、そして『iPhone 16 Pro』のデザートチタニウムは砂漠の大地を想起させる。

 単にブルーと言えばそれまでだが、パシフィックブルーと言われると、そこに物語が生まれる。ホワイトではなくスターライトと名付けることで、夜空に煌めく星の光のような温かみのある白を想像させる。これは単なるマーケティングの小技ではなく、ユーザーの想像力に訴えかけ、製品との感情的なつながりを感じさせるAppleならではの高度なブランド戦略と言えるだろう。

関連記事