PARCO GAMES新作発売を機に考える、異業種参入が続くゲーム業界の現在地
PARCO GAMESは11月25日、『Constance』をリリースした。
PARCO GAMESは、株式会社パルコが2025年8月に設立したレーベルだ。ゲーム業界では昨今、ゲームの開発/発売への異業種からの参入が続いている。本稿では、PARCO GAMESの『Constance』リリースを入り口に、異業種の参入が相次ぐ理由と、今後の展望を考えていく。
絵画の世界を冒険するメトロイドヴァニア『Constance』
『Constance』は、絵筆をあやつる主人公「コンスタンス」が手描きアートで制作された世界を冒険する2Dアクションアドベンチャーだ。プレイヤーは、コンスタンスの病んだ心が生み出した、カラフルながらも退廃的な心象世界を奔走していく。
特徴となっているのは、独創的な世界観とメトロイドヴァニアに分類されるゲーム性。アクションやスキル、謎解きなど、作中に登場するあらゆる要素は、同タイトルのキーワードである「絵画」をモチーフに制作されている。ジャンルの基本的な面白さを内包しながら、高い自由度、ナラティブを体験できることもまた、『Constance』の魅力のひとつとなっている。
発売を手掛けているのは、商業施設「PARCO」で知られる株式会社パルコが新設したゲームレーベルのPARCO GAMES。開発を、ドイツ・ベルリンに拠点を構えるゲームスタジオ・Blue Backpackが担当した。両社がタッグを組むのは、2025年11月18日にリリースされた一人称探索アドベンチャー『The Berlin Apartment』に続く2作目となる。同作はSteamにおいて、全ユーザーの95%が「おすすめ」とし、上から2番目のランクである「非常に好評」に分類されている(2025年11月25日現在)。
対応プラットフォームはPC(Steam)のみで、価格は税込2,300円。Steamでは、2025年12月2日までの期間、10%オフの税込2,070円で購入できるリリース記念セールも開催されている。
なぜゲーム業界への異業種からの参入が続いているのか
業界ではここ数年、異業種からの参入が相次いでいる。本稿で扱っているPARCO GAMESのほかにも、出版業界からは集英社や講談社がゲーム作品のパブリッシングに注力。また、8月8日には、日用品メーカーの花王が自社の掃除道具を扱った探索型ホラー『しずかなおそうじ』をリリースし、11月9日には、エンタメ事業を展開するサンリオがスマートフォン向けゲーム『フラガリアメモリーズ Color of Wishes』の制作を発表した。花王の『しずかなおそうじ』は直近、実況/配信界隈でも話題を集めている。このケースは広報の一環とも考えられるため、他とはやや毛色が違うが、業界への異業種の参入という意味では、ひとつの事例として数えることができるだろう。
さらに広くとらえるのならば、アニメーション制作などを手掛けるアニプレックスの存在も忘れてはならない。同社は2019年末、ANIPLEX.EXE(アニプレックスエグゼ)というブランドを社内に新設し、本業と距離の近いアドベンチャー/ノベルの分野で『徒花異譚』『ATRI -My Dear Moments-』『ヒラヒラヒヒル』『たねつみの歌』と、高評価作品を連発している。
一連の動向には、ゲーム業界の2つの現在地が影響していると推測する。ひとつが市場規模の拡大傾向が続いていること、もうひとつが独立系スタジオによる制作が台頭しつつあることだ。
市場規模について、角川アスキー総合研究所が発行する「ファミ通ゲーム白書」によると、国内のゲームコンテンツ市場は2019年から2020年にかけて、コロナ禍の巣ごもり消費などを背景に拡大。その後も右肩上がりでの成長が続き、2015年から2024年までの10年で約2倍の規模となった。先にも述べたとおり、アニプレックスの新規ブランド・ANIPLEX.EXEは2019年末に立ち上がっている。コロナ禍で市場が急拡大し、見通しが明るくなったことも、その設立に影響したのかもしれない。
また、独立系スタジオによる制作の台頭について、ゲーム市場ではここ数年、PCを用いたゲームプレイが幅広い層に定着しつつある。このようなトレンドのパイオニアとなったSteamプラットフォームには、大手パブリッシャーが家庭用ゲーム機向けにリリースする、もしくはリリースしたタイトルの移植版のほか、それらハードではプレイできない、小規模制作によるタイトルも数多くラインアップされている。
特筆すべきは、そのようなタイトルがプレイヤーに分け隔てなく手に取られ、実のともなったものであれば、出自に関係なく爆発的なヒットを記録している点だ。業界動向に詳しいフリークなら、すぐにいくつかの作品に思いあたるだろう。『UNDERTALE』や『Stardew Valley』『Slay the Spire』『Among Us』『Vampire Survivors』など、その例は枚挙にいとまがない。直近では、『8番出口』や『都市伝説解体センター』(集英社傘下のブランド・SHUEISHA GAMESが発売を担当)といった国産タイトルの成功も話題を集めた。このように前例の積み重なる状況が、各企業の決断に前向きに作用している面もあるはずだ。
先述の「ファミ通ゲーム白書」では、市場の規模とともに、その内訳も紹介されている。2015年から2024年までの10年で「家庭用パッケージ」の取引金額は半分ほどまで減っている一方で、「家庭用オンライン」「PC」「モバイル」のそれは大幅に増加しているそうだ。特に「PC」に関しては、異業種の参入が続く要因のひとつとして紹介した独立系スタジオによる制作の台頭にも影響していると考える。「市場規模の拡大」と「独立系スタジオによる制作の台頭」。これら2つの要因の相乗効果によって、象徴的なトレンドが生まれている可能性がある。
今後も異業種の参入は続く?キーワードは「メディアミックス」か
ゲーム業界で相次ぐ異業種の参入。こうした傾向は今後も続くだろうか。予測を立てるうえで参考となるのが、異なるもうひとつのトレンドの存在だ。業界では2024年以降、他業種の大手が著名なゲームスタジオを取り込む、もしくは協業する事案が増えている。2024年6月には、IT大手のサイバーエージェントが『STEINS;GATE』『刀剣乱舞』などで知られるニトロプラスを買収。同年12月には、KADOKAWAとソニーグループが戦略的な資本業務提携に合意した。さらに、2025年5月には、TBSテレビとスクウェア・エニックスが完全新規オリジナルIPのゲーム開発において、協業することを発表。一連の動きの背景には、新規IPの創出とその利活用があるとされている。つまり、各社は人気作品の制作と、その後のメディアミックスを見据え、合併/協業を行っているということだ。
先に紹介したゲーム業界への異業種の参入の例を見ると、本稿のメインテーマとなっているPARCO GAMESや、日用品メーカーの花王を除いた、集英社、講談社、サンリオ、アニプレックスは、ゲームから見てメディアミックス先となる分野を主戦場としている。つまり、各社はIPの創出とその利活用の先に、主業でのコミック/ノベライズ化、グッズ化、アニメ化を見据えているとも考えられる。現状リリースされているタイトルのなかに、そうした毛色を持つものは多くないが、大きな成功を手にした暁には、次なる展開を考えているのかもしれない。
実際にPARCO GAMESはゲーム事業への参入の背景について、「パルコはファッション・エンターテインメント・アートなどあらゆるカルチャーを発信してきました。また自社事業として長年、演劇・映画・音楽・出版・展覧会・コラボカフェなど多様なエンタテインメント事業を手掛けています。日本が世界に誇れるカルチャーである『ゲーム』の分野にも、これまでの経験やノウハウ、クリエイターさんたちとの向き合い方を応用できるのではないかと考えました。またパルコは創業以来”インキュベーション精神”を大切にしており、さまざまな分野で新たな価値創造を仕掛けてきました。そうした精神と、個性や才能にあふれるクリエイターさんが多く存在するインディーゲーム領域には親和性があると考えています」と述べている(※)。こうした発言の裏に見え隠れするものこそ、メディアミックス(広くはカルチャーミックス)の考え方ではないだろうか。
これらを踏まえると、業界では今後も、異業種の参入が続いていくものと思われる。書籍やマンガ、アニメ、映画など、ゲームと距離の近い分野を主戦場とする大手企業が、近い将来にゲームの開発/発売に名乗りを上げるのかもしれない。
また直近、映画『8番出口』やTVアニメ『グノーシア』が一定の成功を収めていることも、今後の展開にはプラスに作用していくだろう。次に参入する異業種の企業はどこになるのか。予想で盛り上がるのも一興だ。
※1:https://getnews.jp/archives/3671333