実際どうやって使うの? IT専門家がスマートフォン対応のマイナ保険証を試してみた

 9月19日からスマートフォンでのマイナ保険証が開始しており、一部医療機関や薬局での利用が可能になっている。紙やプラスチック製の健康保険証が実質的に廃止となる今年12月以降、マイナンバーカードや同機能を搭載したスマートフォンを医療機関で活用するケースの増加が見込まれるが、実際に受付がどう変わるのかをみていく。

今年2025年7月に国立病院機構 東京医療センターで実施された実証実験で自身のスマホに登録したマイナンバーカードで病院での受付を行うデジタル大臣の平将明氏

9月19日から一部医療機関でスマートフォンでのマイナ保険証が利用可能に

 マイナンバーカードを使って健康保険の利用資格を確認する「オンライン資格確認」の仕組みが2023年4月に義務化されたが、ここ3、4年ほどで医療機関の受付にマイナンバーカードの確認を行う顔認証付きカードリーダーが設置されている風景を見るのはごく当たり前となった。ただ、2023年5月からはAndroidのスマートフォンが、今年2025年6月にはiPhoneにもマイナンバーカードの機能が搭載され、一部の公的手続きなどで物理のマイナンバーカードを利用することなく、スマートフォン上に搭載した同機能で賄えるケースが増えている。一方で、医療機関で利用されている一般的な顔認証付きカードリーダーはマイナンバーカードの利用に特化した作りとなっており、スマートフォンでの利用は想定されておらず、あくまでマイナンバーカードが求められていた。

 これはスマートフォン内のマイナンバーカード情報を読み取るための「NFCアンテナ」の位置が機種によって異なっており、マイナンバーカードの形状に特化した既存の顔認証付きカードリーダーでは対応できないことに起因していた。そのため、厚生労働省らはすでにカードリーダーを導入済みの医療機関に対し、スマートフォンでの読み取りを可能にする外付けカードリーダー装置の金額補助を開始し、今年7月から8月までの一部医療機関での実証実験を経て、9月19日に同機能の一般開放を行った。これにより、外付けカードリーダーを導入した医療機関ではスマートフォンに搭載したマイナ保険証でも受付が可能になり、同日以降順次対応医療機関が拡大していくものと思われる。

 偶然ではあるが、筆者は開始日である9月19日に眼科医での診察予約を行っており、当日に実際にiPhoneのマイナ保険証を使って受付を済ませることができた。開始直後で特に受付にはその旨の掲示や案内はなかったものの、顔認証付きカードリーダーの画面には「スマートフォンを利用」のボタンが出現しており、これが対応医療機関であることの証明となっている。

マイナンバーカードを使って医療機関で受付をする
顔認証付きカードリーダーの画面に「スマートフォンを利用」のボタンが表示されていた場合はスマートフォンのマイナ保険証が利用できる

実際にどうやって受付するのか

 現在、Androidではおサイフケータイに対応した多くの機種、iPhoneではiPhone XS以降でiOS 18.5以上を搭載した端末でマイナンバーカードの機能をスマートフォン内に格納できるようになっている。詳細は後述するが、現状でAndroidとiPhoneではマイナンバーカードの搭載方法が異なっており、使える機能も異なる。ただし、どちらもマイナ保険証としての利用は可能なため、興味ある方はデジタル庁のサイトなどにある「導入案内」を参考に作業してほしい。

 スマートフォンを用いた実際の医療機関での受付は、物理的なマイナンバーカードを用いていたときと大きく変わらない。受付のたびに毎回財布からマイナンバーカードを取り出して……といった手順が必要だったのに対し、スマートフォンは比較的普段からすぐ手に届く範囲にあることが多いため、こちらの方が扱いやすいというのもあるだろう。加えて、スマートフォンのマイナ保険証では「顔認証」をパスすることができるため、いちいちマスクを取り外す必要もないといったメリットもある。これは、スマートフォン上からマイナンバーカードを呼び出すために、あらかじめFace IDやTouch IDといった認証が事前に行われているため、顔認証付きカードリーダー側で改めて認証を行う必要がないという理由による。

 実際の手順だが、冒頭の説明にもあるように顔認証付きカードリーダーの画面に「スマートフォンを利用」のボタンが表示されている医療機関ではスマートフォン利用が可能になっている。ボタンを押すと「Android」「iPhone」のボタンが表示されるので、該当する機種のボタンを押す。iPhoneの場合は、ここでFace IDまたはTouch IDを使ってマイナンバーカードの券面を画面に表示させた状態で、顔認証付きカードリーダーの横などに設置された“スマートフォン用”のカードリーダーにiPhoneの先端部分を当てるようにすればいい。Androidの場合、まず画面にテンキーパッドが表示されるので、マイナンバーカードの利用者証明用電子証明書の4桁の数字を入力後、iPhone同様にスマートフォンを専用のカードリーダーにかざせばいい。その後、通常のマイナンバーカード同様に情報提供同意の確認が行われるので、必要な操作をすれば完了だ。

アルメックス製の顔認証付きカードリーダーの例。画面には「スマートフォンを利用」が表示されており、これが利用可能医療機関の合図となる
「スマートフォンを利用」ボタンを押すと、自分のスマートフォンがどちらの機種に該当するのかを選択する
Androidを選択した場合、画面にテンキーパッドが表示されるので、マイナンバーカードの利用者証明用電子証明書(4桁の数字)を入力する
[スマートフォン機種ごとの操作フロー。画面は実際のものとは異なるので注意

 なお、既存の顔認証付きカードリーダーをスマートフォン対応にするためには外付けのカードリーダーが別途必要になるが、これは市販の一般的な非接触(タッチ)対応カードリーダーがそのまま利用できる。厚生労働省では最大7000円を上限に医療機関に半額割引となるクーポンを提供しており、指定のECサイト(Amazonビジネス)に配布のコードでアクセスすることで診療所・薬局は1台、病院は3台のクーポンが自動適用になる。この専用ECサイトは8月29日から利用可能になっており、これを用いてカードリーダーを購入した医療機関は、顔認証付きカードリーダーが接続されているPCのUSBポートに挿入することで、8月19日以降はマイナ保険証のスマートフォン利用が可能になっている。なお、顔認証付きカードリーダーはメーカー5社から提供されているが、メーカーごとに対応するカードリーダーが異なるほか、キヤノンマーケティングジャパンの提供する顔認証付きカードリーダーのみ、特にカードリーダーを別途追加せずともソフトウェアのアップデートだけでスマートフォン対応となる。筆者が8月19日に利用した医療機関は、キヤノン製の顔認証付きカードリーダーを採用しているケースだった。

顔認証付きカードリーダーに取り付ける外付けカードリーダーを購入できるECサイト(Amazonビジネス)の注意書き
キヤノンマーケティングジャパン製顔認証付きカードリーダー。マイナンバーカードを置く場所にスマートフォンを簡単に差し込めるようになっている

 すでに顔認証付きカードリーダーを設置してある医療機関であれば、外付けのリーダーを取り付けるだけですぐにスマートフォン対応となるため、設置場所の問題がない限り、それほど時間をおかずに多くの医療機関においても対応が進むと思われる。8月19日に行われた福岡資麿氏の厚生労働大臣会見では、同日時点で全国約22万の施設のうち、標準でスマートフォン対応できるキヤノン製顔認証付きカードリーダーを設置する施設が約3万2000件で、割引施策を通じて汎用カードリーダーを購入した施設が約1万5000件と説明されている。まだ全体の2割程度であるが、来年2026年3月までにはおそらく半数近い水準に到達しているのではないかと予想する。

今後のスマートフォン対応マイナ保険証のゆくえ

 マイナ保険証利用が一般的になってすでに2年近い年月が経過しているが、当初マイナ保険証がそうであったように、スマートフォン対応においてもまたしばらくは混乱があると考えられる。例えば、マイナンバーカード本体を持ち歩かずにスマートフォンのマイナ保険証を医療機関で利用しようとして、うまく読み込めなかったケースだ。医療機関の顔認証付きカードリーダーでは健康保険の資格情報を確認できなかったとしても、スマートフォンからマイナンバーカード機能を使ってマイナポータルにアクセスして資格情報を表示したり、あるいは再診のケースで医療機関が当人の資格情報があらかじめ確認できている場合には現場の判断で対応できる。本来保険証は毎回診察ごとに確認する必要があるが、以前の記録が医療機関に残るため、通例として確認しないというケースもある。

 詳細はフローにもあるが、基本的に健康保険の資格情報が確認できなかったからといって10割負担を求めるのではなく、適時判断で3割などの自己負担額を適用し、なるべく過度な負担が患者にかからないよう工夫するよう通達が行われている。このように確認ができなかった場合にフォローする仕組みはあるが、全国での医療機関でのスマートフォン対応率がまだ低いこともあり、いきつけの医療機関で「ここでは問題なくスマートフォンでマイナ保険証が使える」と確実なケースを除き、なるべくマイナンバーカード本体も携帯しておくことをお勧めしたい。

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