小高和剛氏らが『TRIBE NINE』二次創作団体を設立 異例の同人活動が問い直す、“ポストサービス”時代の作品観
8月1日、『TRIBE NINE(トライブナイン)』の非公式・非営利二次創作活動を行う同人サークル「ねおねおんトライブ」の設立が発表された。
過去を振り返っても、珍しい動きとなった原作のキーパーソンらによる同人サークルの設立。本稿では、『TRIBE NINE』をめぐる経緯から、設立の背景やゲームカルチャーに持つ意義を読み解いていく。
アカツキゲームスとトゥーキョーゲームスによるメディアミックス『TRIBE NINE』
『TRIBE NINE』は、『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』『ロマンシング サガ リ・ユニバース』などの開発/運営元であるアカツキゲームスと、『超探偵事件簿 レインコード』『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』の開発元であるトゥーキョーゲームスがタッグを組み、企画/制作されたメディアミックスシリーズだ。これまでにTVアニメ『トライブナイン』や、モバイル/PC向けゲーム『TRIBE NINE』(以下、英語表記の場合はゲーム作品を指す)が同作品群から発表されている。
舞台は、20XX年のネオトーキョー国。同国では、社会に絶望した若者たちによって組織された集団「トライブ」同士の抗争が、市民生活を脅かすほどに広がっていた。事態を重く見たネオートーキョー政府は、トライブ同士の抗争手段を、野球をモチーフにした決闘競技「エクストリームベースボール」に限定する「XB法」を施行する。ミナトトライブの創始者かつリーダーである主人公・神谷瞬をはじめとした少年たちは、「投げて、打って、殴り合う」という過激なゲームに身を投じていく。
「ねおねおんトライブ」の設立は、トゥーキョーゲームス代表の小高和剛氏、元・アカツキゲームス執行役員(現・89PRODUCE)の山口修平氏、クロノゲート代表の杉中克考氏の連名で発表された。それぞれがシナリオライターやプランナー、プロデューサーとして『TRIBE NINE』の制作に携わってきた。同作は2025年2月のリリース以前から広く注目を集めてきたが、獲得プレイヤー数や売上の不振から、約3カ月後に同年11月27日をもってのサービス終了が発表されていた。一方で、そのような結末を残念がる熱心なファンも多く、各所で『TRIBE NINE』に対する想いを綴るなど、界隈でも稀に見る興味深い動向となっていた経緯がある。
アナウンスによると、同サークルは今後、非公式かつ非営利の二次創作活動を通じて、メディアミックス全体を継承・発展させる創作活動を行っていくという。まずはWebストーリーの形で物語の完結を目指すが、ただの読み物ではない仕組みも現在考案中であるとのこと。潰えたと思われていた作品の未来が、思わぬ形で動き出すこととなった。
サークル設立に垣間見た、3人の創作活動に対する矜持
業界ではここ数年、期待のなかでリリースされたライブサービスゲームが、早期に市場からの撤退を決める例が増えている。本稿で扱っている『TRIBE NINE』のほか、2024年には『404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット-』や『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』『ドラゴンクエスト チャンピオンズ』『CONCORD』などが、2025年には『BLUE PROTOCOL』や『エックスディファイアント』などが短い運営期間でサービス終了を迎えた。
こうしたタイトルの大半は、発表から一定期間の猶予を経て、その幕を閉じていくが、特にRPGなど、シナリオの比重が高いジャンルに分類される作品では、その間に未完結だった物語を何かしらの形で着地させるパターンが一般的である。『TRIBE NINE』もまた、サービス終了の発表時には、未実装のストーリーを公式サイトで公開する旨を明かしていた。
アナウンスに盛り込まれていた記述は以下のとおり。
「開発体制の解散に伴い、ゲーム内でのストーリー追加は叶いませんでしたが、制作を進行していた5章までのストーリーにつきましては、社内シナリオライターの手により公式サイト上でお届けできるよう準備を進めております。(ゲーム内に実装予定であったキャラクターのセリフデータなどを元にした物語展開となるため、情景描写が十分でなかったり、一部読みづらい箇所がある可能性がございますこと、予めご了承いただけますと幸いです。)※ストーリーは日本語での公開を予定しています。」
これを読むかぎり、一連の対応は「物語を完結させる」ためではなく、「すでに制作に着手していたストーリーを公表する」ものであるように映る。今回、こうした公式の動きとは別軸で、同人サークルの「ねおねおんトライブ」が立ち上がった背景には、そのような経緯からの影響もあったのだろう。
他方、忘れてはならないのが、その裏に「ねおねおんトライブ」に名を連ねている小高氏、山口氏、杉中氏の高いプロ意識が存在しているという点だ。たとえ自身が関わった作品であっても、幕引きへと向かう作品の“その後”を巻き取ることは、ビジネスとしては不採算な活動であると言える。それでも、同人であるとはいえ、サークルを設立し、同作の世界を無駄にしない方向へと舵が切られたのは、創作活動に対する3人の矜持の表れと考えられるのではないか。ゲームカルチャーからの目線では、3人の決断に敬意を表さずにはいられない。
「ねおねおんトライブ」の設立がゲームカルチャーに持つ意義とは
一方、「ねおねおんトライブ」の立ち上げには、別の意義も存在する。それは、早期の幕引きが相次ぐライブサービスゲームの領域において、作品の消費コンテンツ化に歯止めをかける策になり得るというものだ。
もしも3人による二次創作活動によって『TRIBE NINE』の権威が回復されれば、作品は今後も、ポジティブな意味でカルチャー史に名を残していくことになる。場合によっては、ビジネス目線でも求心力を回復し、メディアミックスシリーズとして再始動する未来も考えられるのではないか。
クリエイターにとって、自身が携わった作品が早期に幕引きせざるを得ない事態となることは、耐え難い出来事であると推察する。今回の動きがこのような流れに歯止めをかける可能性があるのであれば、ゲーム業界が抱える課題のひとつの答えともなり得る、相当に意義深い取り組みとなるはずだ。
直近では、ヨコオタロウ氏によるモバイル向けRPG『SINoALICE -シノアリス-』が建設的なエンディングアップデートを行ったことも話題を集めた。同作はサービス終了後、『シノアリスだったナニカ』へと名前を変え、ゲーム内コンテンツの閲覧専用アプリとして各ストアで提供が続いている。また、ゲームとは別に、ファンムービー『シノアリス 一番最後のモノガタリ』が制作され、劇場公開に至った(現在はU-NEXTとPrime Videoで配信中)。こうした動きに影響しているのもまた、「作品をなかったことにしない」という作り手の精神であると言える。
他方、モバイル向けシミュレーション『どうぶつの森 ポケットキャンプ』では、サービスの終了にあわせ、オフライン版としてデータを引き継いで遊べる買い切り版『どうぶつの森 ポケットキャンプ コンプリート』が提供された。このケースもまた、同様の文脈上にある事例と考えられるのではないだろうか。
紹介した例はいずれも、惜しまれながらサービスを終了した作品たちである。当然ながら、すべてのライブサービスゲームが同じ道をたどれるわけではない。それでも、「作品を消費コンテンツ化しない」ためのひとつの選択肢として、さまざまなモデルケースが生まれれば、業界はより良い方向へと進んでいくに違いない。「ねおねおんトライブ」の設立は、過渡期を迎えつつあるライブサービスゲーム市場の、カルチャー視点における重要な分岐点となる可能性がある。
「ねおねおんトライブ」はどのような活動をファンに見せてくれるだろうか。今後の展開に期待したい。