VTuberが「タレント」になったのはいつから? シーンの深化と憧れが変えた、バーチャルタレントの“在り方”

VTuberはいつから“タレント”になったのか

アカデミー・養成所から「タレント」を生み出そうとする試み

 ここで、最近情報が公開されたとある企画をとりあげてみよう。

 10月18日にデビューが発表され、以前からVTuberファンとして知られていたお笑い芸人・渡辺隆(錦鯉)がプロデュースするという触れ込みで話題になった新人VTuberについてだ。デビュー配信からにじさんじやホロライブとコラボするなど、「一体何者なのか」と注目を集めた。

 新人離れした安定感のあるMCにくわえ、白上フブキや星川サラといった先輩VTuberたちとコミカルに会話していった新人VTuber・八都宿ねね(はつどまりねね)。数度にわたって動画を投稿したあと、活動がピタッと止まっていたわけだが、なんとその正体が国民的お笑いタレントの明石家さんまであることが先日明かされたのだ。

 この企画に参加した5人ともが正体をまったく知らされないまま会話をしていたらしく、この事実を知って戦々恐々といった面持ちなのがSNSの投稿からも伝わってくる。その後に放送された番組では、にじさんじ・ホロライブのタレントが明石家さんまを筆頭にしたタレントらと会話し、ボケ・ツッコミをしあうという構図も生まれていた。

 重要なのは、この「明石家さんまがVTuberになる」ということがテレビの……しかもゴールデンタイムに放送される特番企画として構築されている点にある。

 明石家さんまという、国内におけるエンタメ界のトップオブザトップが「VTuberになる」というくらいには、バーチャルタレントの認知が広まっていること。そしてドッキリ企画という前提があるにせよ、レジェンド級の芸能人とネット発のタレントとが“対等かつフラット”に話しているという前例が生まれたこと。番組内での受け取られ方も「エッジな表現」として物珍しそうに見る向きが強くはあったが、VTuberが「芸能タレント」として今後活動できる余地が見えてきそうだ。

 ほかにも、VTuberの芸能タレント化については様々な側面から指摘することができる。

 にじさんじでは育成プログラム「バーチャル・タレント・アカデミー」を設立し、育成した面々をにじさんじのタレントとしてデビューさせる流れを定着させた。これまで何度かオーディションを催しているが「女性ゲーマーオーディション」「男性アイドルオーディション」「マスコットライバーオーディション」などから通過し、デビューした面々もおそらく生まれているはずだ。

 もちろんVTA設立以前から、明確に「タレント」としての募集もされていた。2018年末に公開されたオーディションでは、「配信」「ストリーマー」「歌手」「クリエイター」経験者向けという内容で公開されており、このオーディションをくぐった面々もいるだろう。

 たしかに芸能界的な「お笑い」「モデル」「音楽系のアーティスト」といった言葉は使ってはいないものの、先々にエンタメ系タレントを狙っていこうとしていた構想がみえてくる。

 

 事務所の今後を鑑み、自社で養成所やアカデミーを設立し、オーディションによって人材を募って育成する。この動きは日本の芸能界で古くから行なわれてきた動きだ。古くは宝塚歌劇団と宝塚音楽学校に始まり、吉本興業と吉本総合芸能学院(通称:NSC)、松竹芸能と松竹芸能養成所、ワタナベエンターテインメントとワタナベエンターテイメントスクールまで、枚挙に暇がない。

 かつて日本のアイドルシーンをリードしていたジャニーズ事務所内でも、入所してすぐの若いタレントらは黙々とレッスンをしつつ、ライブやテレビ番組などの端役・ダンサーとして登場しており、彼ら公式サイトなどで公に紹介されていない面々のことを「ジャニーズJr.」と表現され、当然のように言葉が広まっていたのも思い出す。

 にじさんじのVTA在籍者も、一時期まではリレー形式でYouTube配信をしている時期があった。アカデミー生としての活動が一般公開されていたこの時期にファンとなり、その後にじさんじの所属タレントとして本格的にデビューした後も、当人を追いかけているファンが多数いる状態にもなっている。

 現在ではさまざまな事情から一般への公開配信は取りやめになっているが、一人前になるために努力している姿を見て応援するという構図は、旧来の芸能界で見受けられた構図そのもの。これも「VTuberのタレント化」という視点を補強するケースともいえよう。

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