「マリオ&ルイージRPG」新作発売で思う『コトバトル』の今後と、かつての開発会社のあやまち

 長らく、ファンの間で今後の存続が不安視されていたブラザーアクションRPG『マリオ&ルイージRPG』シリーズは、11月7日発売の『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』で久しぶりの展開を見せた。

マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ! 紹介映像

 なぜ『マリオ&ルイージRPG』の存続が不安視されていたのかは、2003年の第1作以降、その開発を担ってきたゲーム開発会社「アルファドリーム」が2019年10月1日をもって破産したことに起因する。リメイクを含め、全7つのシリーズ作を15年以上に渡って制作し続けてきた担い手が消え、それに合わせるかのようにシリーズの展開もパタリと止んでしまったのだ。ファンが不安になるのも無理はない話である。

 しかし、希望は残されていた。同じように開発の担い手が姿を消しながらも、制作体制を一新して再出発した『マリオパーティ』シリーズと、任天堂以外のメーカーのタイトルになるが、『ルーンファクトリー』シリーズといったさまざまな前例があったためだ。それにならうかのように、5年近くの時を経て、希望は現実となった。

 ちなみに新たな開発の担い手は、「オクトパストラベラー」シリーズや、「剣と魔法と学園モノ。」シリーズなどを代表作とするアクワイアとなった。

 制作体制の一新で、おそらく『マリオ&ルイージRPG』は(よほど販売面で深刻な伸び悩みがない限り)今後も新作が作られていくと思われる。また、すでに『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』で配信済みの『マリオ&ルイージRPG』の第1作のことを踏まえれば、任天堂とアルファドリームが最初にタッグを組んだ作品である『トマトアドベンチャー』も、どこかのタイミングで復活するかもしれない。

 一方で、今後の復活が危ぶまれている作品もある。そのなかでも象徴的なタイトルが『コトバトル 天外の守人』だろう。

独特な戦闘システムが異彩を放つ、カードバトル+RPG

 『コトバトル 天外の守人』(以下、コトバトル)は、アルファドリームのデビュー作となったタイトルで、2001年3月9日にゲームボーイカラー専用ゲームソフトとして発売された。

 『コトバトル』は「本格ロールプレイングゲームとカードバトルが合体」をキャッチコピーに掲げた作品。簡潔、かつ強引にその内容を紹介するならば、当時のゲームボーイ界隈でトレンドとなっていた、育成と収集の2要素を前面に出したRPGである。

 ただし、件のトレンドの起爆剤となった『ポケットモンスター』みたく、モンスターを集めて育てる類のゲームではない。モンスター自体は登場するが、基本的にはカード……作中で「コトダマ」と称された、漢字一文字が記されたものから召喚される存在。それぞれにレベルを始めとする固有のパラメータなどは設けられていない。その種のものが設けられているのは、プレイヤーことコトダマを使役する者「コトダマ使い」。

 つまり本作は、カード(コトダマ)から生まれるモンスターを使役して戦い、成長していくRPGということである。キャッチコピーのとおり、カードバトルに焦点を当てたゲームデザインになっているのだ。なお、コトダマはモンスターの召喚に限らず、コトダマに装備させるアイテムの生成、魔法の詠唱および使用も可能。基本、使うコトダマを選んでから、毎回3つのどれかにするかを決める仕組みとなっている。

 カードバトルを題材にしていることにちなんで「デッキ」も存在。本作ではこのデッキに組み込まれた20枚のコトダマを用いて、戦闘をこなしていくことになる。戦闘は「モンスター戦」「コトダマ使い戦」「ボス戦」の3種類があり、それぞれ勝利条件が異なる。ただ、仕組みは単純で、モンスターなら相手の全滅、コトダマ使いならコトダマ使い当人の撃破、ボスはコトバのとおりといった感じだ。

 戦闘画面はサイドビューで、右端にプレイヤーのコトダマ使いこと主人公が待機。その前方、上・中・下段の3ヶ所にコトダマから生まれるモンスターを召喚できる場が設けられている。ここに最大3体のコトダマを召喚して隊列を編成し、左側に位置する敵モンスター、敵コトダマ使いとの戦いを繰り広げていくのだ。

 行動は「タイムコスト」と呼ばれる時間を消費した順から実施。「ファイナルファンタジー」シリーズの「アクティブタイムバトル」と同じと言えば、イメージしやすいだろう。ただし、モンスターはタイムコストの消費とともにオートで行動する仕組みで、プレイヤーから指示を出すことはできない。どんな行動を取るか、プレイヤーが決められるのはコトダマ使いだけに限られている。

 また、上・中・下の3ヶ所に1つでもモンスターが召喚されていない場があり、相手のモンスターがその前面に立っていると、モンスターの攻撃はコトダマ使いへと向かい、そのままダメージを受けてしまう。もし、コトダマ使いの体力(HP)が0になればゲームオーバーだ。逆にコトダマ使いとの戦闘で、相手のコトダマ使いの体力が0になればこちらの勝利である。そのため、戦闘ではなるべく空白の場を作らぬよう、モンスターを召喚したり、個々の体力の推移を見守りながら適切な戦術を取っていくことがカギになる。

 他に属性の概念があり、相性に応じてダメージが変動するなどの要素もある。全体的にカードバトルを題材にしているとは言え、戦闘ルールや仕組みは一般的なRPGと変わりなく、意外に取っつきやすい。

 ただ、3ヶ所の場を管理しながらの戦術を始め、独自の要素や工夫も多く、新鮮な味わいのある作りになっている。だが、それ以上に本作の新鮮味を出しているのが「言葉遊び」をテーマにした要素「コンボ」である。

言葉を作り、形勢逆転を狙う斬新な遊びは任天堂の目に留まり、将来の躍進につながった

 戦闘システム解説の続きになるが、本作ではコトダマ使いの番(ターン)が回ってきたときにコマンドウィンドウが表示される。ここにはデッキからランダムで選ばれた4枚のコトダマと、「ぼうぎょ(防御)」と「とうそう(逃走)」のコマンドのほか、「りれき(履歴)」なるものが設けられている。

 りれきには、各ターンで使ったコトダマが記録され、最大4つまで残るのだが、ここにひとつの「言葉」が出来上がると「コンボ」が成立。それにちなんだモンスターの召喚、アイテムの生成、魔法の詠唱および使用が可能になるのだ。

 魔法を例に出せば、「火花」というコンボが成立すれば、「はじけたほのお」なる敵全体に火のダメージを与える魔法が、「雪月花」というコンボが成立すれば「むのきょうち」なるコトダマ使いの体力を全回復する魔法が使えるといった感じだ。基本的に「コンボ」は通常のコトダマと違って、使い方が決められている。モンスター召喚、アイテム生成、魔法の詠唱を選択できないのだ。

 だがその分、通常のコトダマ以上に効果は強力で、ここぞというときに使えば戦況を一気にひっくり返す一手にもなる(逆も然り)。システム的にも使ったカードが無駄にならないユニークさに加え、コンボを狙うために作れそうな言葉を考えて実践するという、この題材だからこそ実現した遊びを確立している。漢字や各種熟語の勉強にもなり、学習ゲームとして楽しめるところも面白い。

 逆に漢字と熟語について、ある程度知っておくことが必要とされるため、ターゲットにしていると思しき低年齢層にはハードルの高い作りでもあるが。

 一応、漢字一文字が記されたコトダマは60種類と多くはなく、難読漢字の採用は控えられている。しかし、そのなかには、文部科学省が告示している「学年別漢字配当表」(※)から除外されている漢字が7字(具体的に出すと「炎」「雷」「竜」「爆」「嵐」「魔」「獣」)存在。これらの漢字は、本作が発売されたころに施行されていた配当表(1989年から2016年まで)においても対象外にされていたものだ。それもあって、低年齢層をターゲットにしながら、肝心の漢字にまつわるリサーチ不足が出てしまっているのは、惜しいと言わざるを得ない。

※参考:別表 学年別漢字配当表(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/koku/001.htm

 とはいえ、漢字を使った言葉遊びをRPGの戦闘システムとして成立させているのは面白い。コンボの総数も300種類と多く、それらをコンプリートするやり込み要素もあって、非常にやりがいがある。一部、バランスブレイカーなコンボ(特に「天地人」は凶悪極まりない)もあるなど、調整に関してはあと一歩なところも見受けられるのだが……。本編にも雑魚モンスター戦のテンポの悪さなど、粗削りなところは散見される。

 それでも、これほど尖った個性と独自性を持った作品をデビュー作として出すという時点で、いかに当時のアルファドリームが侮りがたい実力を持っていたかが察せる。実際、その実力は任天堂の目に留まることとなり、次作として予定されていたゲームボーイカラー向けアクションコマンドRPG『ギミックランド』は、『トマトアドベンチャー』へと改題され、ゲームボーイアドバンス用ゲームソフトとして任天堂から発売される形に。

『マリオ&ルイージRPG』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)

 そして2003年、任天堂の看板キャラクターでもある「マリオ」とその弟「ルイージ」を主人公に据えた『マリオ&ルイージRPG』を制作し、アルファドリームは大きな躍進を見せるのだった。

 ちなみに『マリオ&ルイージRPG』の前には、漫画家の河井リツ子氏による漫画・絵本作品『とっとこハム太郎』を原作とするゲームシリーズの第4作目、『とっとこハム太郎4 にじいろ大行進でちゅ』も制作。以降、発売されたゲーム版『ハム太郎』シリーズの開発もアルファドリームが担った。

破産が報じられる前までは平常通り配信されていたのだが……。

 いずれも『コトバトル』の誕生と、同作が任天堂に評価されたからこそ実現した躍進と言えるだろう。そんな『コトバトル』も2012年、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで復刻。販売はアルファドリームが直々に担当した。

 そして、破産報道から間もない2019年10月31日をもって配信終了となった。

将来への布石を打たず、破産の運命を決定付けた2010年代のアルファドリームに思うこと

 アルファドリーム破産は『コトバトル』に限らず、「マリオ&ルイージRPG」シリーズにも触れてきた筆者としてもショッキングな報せだった。

 ただ正直なところ、同社の破産は避けようがない運命だったように思う。2010年代のアルファドリームは、素人の目から見ても、フットワークの鈍さと経営戦略におけるリスキーな動きが目立ったためだ。

 筆者には、あの当時のアルファドリームに言いたい、怒りにも等しい思いがある。「なぜ、将来に向けた布石を打とうとしなかった?」である。

 2010年代……とりわけニンテンドー3DSの台頭以降は、ダウンロード配信に限られた小規模、かつ意欲的な作品が大手から中小の企業、クリエイター数名のチームなどから相次いで発売される展開が起きていた。

ソリティ馬プロモーションムービー

 任天堂と過去にタッグを組み、ゲームを作った会社もそのトレンドに乗っかり、さまざまな新作をダウンロード向けに開発・販売している。『ポケットモンスター』で知られるゲームフリークのソリティア+競馬ゲーム『ソリティ馬』、その『ポケットモンスター』の派生タイトル制作を担ってきたジニアス・ソノリティのRPG『電波人間のRPG』は、その象徴的な例と言えるだろう。任天堂と一緒にゲームを作った経験はない会社だが、『ロックマンゼロ』シリーズなどを代表作とするインティ・クリエイツもこの当時、『蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト』という自社の新たな柱を打ち建てている。

【電波人間のRPG】公式プロモーションビデオ

 また、ソーシャルゲームやインディーゲームが台頭し始める時期になると、パソコンやスマートフォンといった環境でのゲーム開発に挑む企業も出てくるようになった。前述の3社に加え、「星のカービィ」シリーズで知られるHAL研究所や、『ワリオランドシェイク』のほか、『マリオ&ルイージRPG4 ドリームアドベンチャー』で巨大化バトル部分の制作を担ったグッド・フィールなどもそのような動きを見せている。

2017年発売の『マリオ&ルイージRPG1 DX』は、3Dマリオ新作『スーパーマリオオデッセイ』と同時期の発売となってしまった。続く2018年発売の『マリオ&ルイージRPG3 DX』に至っては、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』と同時期である。

 それとは真逆の動きをしていたのがアルファドリームである。『マリオ&ルイージRPG』の開発だけに特化し、ダウンロード配信や最新環境でのゲーム開発にも挑まず、殻に閉じこもってしまった。同業他社がそれらに取り組む時期でも、引き続き3DSで『マリオ&ルイージRPG』。2017年にNintendo Switchが発売され、HDゲームの開発環境がスタンダードとなっても、現役引退に伴う衰退の兆候が現れ始めた3DSで『マリオ&ルイージRPG』の一点張りだった。その結果が、2018年発売の『マリオ&ルイージRPG3 DX』の販売本数大幅減という名のトドメの一撃だ。

 2019年になると、ようやく『けだまのゴンじろー フィットエンドラン』というスマートフォンアプリへの進出を見せたが、同業他社に比べると、あまりにも遅すぎた。それまで3DS……携帯ゲーム機での開発に固執し続け、その3DSでもダウンロード配信などの新たなスタイルのゲーム作りに取り組む姿勢を見せていなかったことを踏まえれば、前述した布石を打った会社との差がよく分かる。一部、解散したところもあるが、2010年代に布石を打った会社の多くが2024年現在も現役であるのもそのひとつだ。

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 とりわけアルファドリームと同じく、ドット絵による2Dゲームの制作を得意としたインティ・クリエイツが現役で、いまも2Dゲームを作り続けていると同時に、会社としても発展を続けている事実は重い。

 本当になぜ、将来への備えにもなり得るチャンスを逃すことをしたのか。そのような殻に閉じこもるような動きをした2010年代のアルファドリームには、筆者個人としては落胆するしかなかった。ゆえに破産が報じられたときも大きなショックはありつつも、2010年代の動きを踏まえれば、「そりゃそうだ」と納得できる側面もあったのだ。

『トマトアドベンチャー』

 たらればだが、当時の同業他社と同じ動きをしていれば、少しは違う未来があったのではといまだに思う。それもすべてはデビュー当時、尖った個性を持つオリジナルタイトルを作った実績があったからこそである。

 もういちど、ギラギラしたアルファドリームの姿を見てみたかった。結局、売れ筋の1本柱にしがみつくことを続け、販売本数の低迷という形で次第にヒビが入っていき、ついには修復困難に陥って破産となったのは残念の極みでしかない。もしかすると、その裏には動くに動けない実情があったのかもしれないが。

 「マリオ&ルイージRPG」シリーズは、新作の発売により、今後の継続が保証された格好だが(とは言え、新作は販売本数の伸び悩みが見られるのが気がかりである)、デビュー作『コトバトル』はアルファドリームが単独で権利を持つタイトルゆえ、権利の所在は不明のままだ。正直言って今後、復活するのかはまったく読めない。最悪、過去のゲームとして忘却の彼方へと追いやられてしまう可能性すらあり得る。

 ただ、後の『マリオ&ルイージRPG』の誕生へとつながったある種、重要な作品。いつかの将来、権利周りが整理され、新しい環境で遊べるようになる日を待ちたいところだ。

 あらためて言いたい。『コトバトル』、『トマトアドベンチャー』を作っていたころのアルファドリームは、ギラギラしていてカッコよかった。そのころの姿を2010年代のあのとき、それらに魅了された人間としてはもういちど、見てみたかったのだ。

 ……どうして、将来への布石を打たなかったんだ。

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