『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』レビュー マックスの成長に感慨を覚え、孤独の寂しさも感じる“新章”の幕開け

 スクウェア・エニックスが10月30日にリリースしたアドベンチャーゲーム『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー(以下、ダブルエクスポージャー)』は、「ライフ イズ ストレンジ」シリーズの第6弾だ。日本版が2016年にリリースされた初代『ライフ イズ ストレンジ』の直接的な続編にあたり、『ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム』や『ライフ イズ ストレンジ トゥルー カラーズ』を手がけたゲームスタジオDeck Nineが開発を担当している。

『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』ローンチトレーラー

 第1作ではアメリカ・オレゴン州の架空の田舎街「アルカディア・ベイ」で、時間を巻き戻す能力が発現したマックス・コールフィールドの青春と軋轢が描かれていた。本作では第1作から約10年の時が経ち、2023年が舞台でフリーランスの写真家兼カレドン大学の講師を務めているマックスが、再び主人公としてアサインされている。本記事では「ライフ イズ ストレンジ」全作品をプレイしている筆者が、主人公続投という判断の是非や、シリーズが支持されている魅力を深掘りしつつ、本作について触れていきたい。なお中盤以降の詳細なシナリオ内容には言及しないが、直接の続編というストーリーの構成上初代『ライフ イズ ストレンジ』エンディングまでのネタバレには言及するため、未プレイの方や何も情報を入れずにプレイしたいという読者は注意してほしい。

カレドン大学ではじまる新たなマックスの物語

 まずは本作のストーリー概要について軽く紹介したい。マックスは『ライフ イズ ストレンジ』の黒幕で、通っていたブラックウェル高校の教師でもあったジェファソンから受けた恐怖体験、ラストで描かれた究極の選択の重みに押しつぶされ、誰にも言えない大きなトラウマを抱えている。それゆえに過去を想起させる故郷から離れ、写真家として放浪の日々を送っていたが、カレドン大学学長・ヤスミンに腕を見込まれて、現在では講師として働いている。

『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』初代「ライフ イズ ストレンジ」振り返りトレーラー

 カレドン大学の院生で詩人を目指しているサフィや、サフィの友人で天体物理学を専攻するモーゼスと出会い、和気あいあいと過ごすカレドン大学での日々で、根無し草だったマックスは徐々に癒され、充実した日々を過ごしていた。だがある日、3人で天体観測を楽しんだのち、サフィが何者かに殺された場面を目撃してしまったことをきっかけに、マックスは並行世界の存在を感知する能力に目覚める。そしてサフィが“死んでいる世界”と“生きている世界”を覗き見たり移動したりできるようになり、2つの世界を行き来するなかで今回の事件の真相やカレドン大学に潜む闇、サフィをはじめとするキャラクターがそれぞれが隠してきた過去が明らかになっていく。ちなみに『ダブルエクスポージャー』というタイトルも、1枚のフィルムに2枚の写真を重ねる「二重露光」という撮影技法のことで、写真家であり並行世界を行き来するマックスにふさわしいものになっている。

並行世界への干渉能力を駆使した新感覚アドベンチャー

 『ダブルエクスポージャー』を語るうえで重要なのは、「新たな超能力」と「マックスの成長と決別」の2点である。本作におけるマックスは高校時代に目覚めた「時間を巻き戻す」能力を、前作の経験から“災いを呼ぶ危険なモノ”として忌避して長年封印しており、いまではほとんど使用することができない。だがサフィの死によって、新たに並行世界への干渉に目覚めていく。マックスの能力には「並行世界を覗きこむ」パルスと、「並行世界に移動する」シフトが存在し、パルスはいつでも使用する事が可能だが、シフトは次元のゆらぎのような特定地点でしか発揮できない。

 パルスを使用すると、並行世界の差異がハイライトされるため異常に気づきやすくなったり、一方の世界で内緒話されている内容を別の世界の同一地点から盗み聞きしたりと調査にうってつけの能力だが、ゲームで主に使用するのはシフトのほうである。シフトの活用方法の例としては、「サフィが死んでいる世界」で友人の死を目撃したモーゼスが混乱してサフィのカメラを研究室へ持ち帰ってしまうが、その結果証拠隠滅ひいては殺人事件の重要参考人として疑われてしまい、モーゼスが逮捕されることを防ぐため警察よりも先にカメラを回収しなければならない場面が存在する。

 その世界では研究室に鍵がかけられ、カメラも本人しか知らない場所に隠されているが、警察に詰められているモーゼスに聞くわけにはいかない。2つの並行世界はサフィが亡くなった時点から分岐しているが、それぞれの世界にいる人々はもともと同じ人間で思考回路も同一のため「サフィが生きている世界」に移動して、「もし誰にも見つからないように物を隠すならどこか」と聞き出し、その情報を元に“死んでいる世界”のモーゼスはどこにカメラを隠したのか推理していく。ほかにも鍵がかけられた部屋に入るためにもう一方の世界から侵入したり、処分されてしまった資料を手に入れるためにもう片方の世界を探ったりという探偵のようなアクションが可能だ。

 さらに、能力を活用しない従来のアドベンチャーパートも継承と進化が行われている。「ライフ イズ ストレンジ」ではひとつの出来事や人との交流に対して複数のアプローチが設けられており、プレイヤーが選んだ手段に応じて状況やキャラクター同士の関係性が変化する。だが本作では初代と同じくマックスを操作していても時間を巻き戻すことはできず、大きな選択した瞬間にオートセーブが発生するため、どちらを選ぶべきかと本気で頭を悩ませることになり、重要なテーマである「選択の一回性」が強調されていた。さらに10年後が舞台ということでSNSが発展しており、キャラクター同士の裏の関係性や誰が誰と頻繁にやりとりをしているかというシナリオの行間を読むことで、ストーリーの深みが増すような仕掛けになっている。そして、マックスはゲーム中に特定のシチュエーションでスナップ写真を撮影し、自身のSNSアカウントに投稿できる。そのほかにもマックスの独り言付きのインタラクション可能なオブジェクトが無数に用意されているため、思わず隅々まで探索したくなり、その結果キャラクターへの理解が深まるという自然な流れが生まれている。

 ただ看過できない点として、本作には非常にバグが多いことが挙げられる。これは記事執筆時点(2024年11月13日)での話だが、セリフが流れなかったり、日本語音声にしているのに英語で話し始めたり、日記の記載内容やその後の会話から推察するに選んだはずのない選択肢を選んだことになっていたりすることが散見された。本作は並行世界を行き来したり、些細な会話ひとつで分岐したりするため、フラグ管理が複雑なことが予想できる。しかし、「ライフ イズ ストレンジ」の魅力といえば豊富なインタラクションとその反応を楽しむこと、そしてプレイヤーが選んだ行動がゲームに反映される没入感なのに、それらが大きく損なわれていた。クリア自体は問題なく可能だが、今後のアップデートでの改善に期待したい。

成長とパートナー不在の状況がもたらす“しっくりこなさ”

 『ライフ イズ ストレンジ』と共通する主人公・マックスのパーソナリティーは、自分に自信が持てず鬱屈しており、自己肯定感が低く世の中を斜に構えて見ているというもの。ハッキリ言って主人公らしくない主人公だが、そのような人物が友人の一大事に力を振り絞り、自らの限界まで頑張る姿に力をもらえる。そんなプレイヤーと等身大の人物像が学園モノというジャンルと溶け合い、「自分はマックスである」とこの上ないリアリティと一体感を感じられた。

 本作のマックスも根っこの部分は変わっていないが、写真家として成功し大学講師として同僚や生徒から慕われている姿が見られたり、自分には才能がないと落ち込んでいる学生を励ましたりと、内にこもりがちだった前作と比べて成長した姿を見せてくれる。それを見守るプレイヤーにとっては、友人や家族が成長したときのようだ。無鉄砲だが行動的で、マックスに欠けていたピースを隙間なく埋めるような関係だったクロエからの影響と思うと、なんとも言えない感慨深さが感じられる。

 また、序盤の会話においてマックスの過去をプレイヤーが決定できるのも特徴だ。これはマルチエンディングの初代のラストで迫られた、親友であり恋人であるクロエの死/台風による故郷アルカディア・ベイの壊滅という選択の結果が選べるということ。ゲーム側が“正史”を設定せずにプレイヤーに任せており、本作と体験の齟齬を生み出さない粋な仕掛けになっている。だが、マルチエンディング作の続編という仕様上、前作でパートナーとして活躍していたクロエはプレイヤーの選択によって生死が分かれているため、『ダブルエクスポージャー』のストーリーへ登場することができないのだ。

 今回のシナリオは「サフィになにがあったのか」を軸にして進行するが、“死んでいる世界”では当然亡くなっており、“生きている世界”でもクロエのようにパートナーとして行動するのではなく、バーや大学で時おり会うキャラクターという印象である。物語のはじまりが事件発生直前で、それまでにマックスがカレドン大学に赴任しサフィやモーゼスとどのような交流を重ねたかが不鮮明な状態でサフィが亡くなり、人物や舞台設定の説明もそこそこに事件解決という大きなストーリーラインに物語が引っ張られていく。そのため3人の関係性の描写が十分だったとは言い切れず、「どうしてもクロエを助けなくちゃいけない」と強く思えた前作と比べて乗り切れなさがあったのは否めない。

 また、登場キャラほぼ全員(モーゼスとアマンダ以外)が後ろ暗い過去を持ち、もどかしく不甲斐ない姿を見せ続けるのはゲームのキャラクターとしてあまり魅力的ではなかったととらえるか、現実に則った人間臭い描写ととらえるかはプレイヤーによるだろう。強いカースト構造を感じながらも同級生との連帯感があった前作と比べると、終盤まで誰にも能力を明かすことができず、ひとりで行動するマックスに強い孤独感や寂しさを感じた。

「ライフ イズ ストレンジ」シリーズの魅力とは

 「ライフ イズ ストレンジ」シリーズは初代や前日譚だけではなく、兄としてサイコキネシスを発現した弟を連れて自らの居場所を求める逃避行を描く『ライフ イズ ストレンジ2』や、感情を読み取る能力を持つ主人公が兄が死亡した事件の真相を追うミステリー仕立ての『ライフ イズ ストレンジ トゥルー カラーズ』 などが存在する。その共通する魅力としては「超能力」という世界を変えられるような壮大な力を、プレイヤーがゲームに介入する選択の手段として用意していることだ。

 あくまでメインはキャラクター同士の感情と交流をリアルに描くことを徹底しており、圧倒的な現実感で描写される体験を通して、徐々に主人公の選択とプレイヤーの選択が同一化していく。そして逆説的な話だが、その積み重ねられてきたディテールによって超能力によって発生した超常現象(初代で言えばクロエとアルカディア・ベイのどちらを取るかの選択)に対する没入感を持たせ、“現実ではありえないのに自分ごと”という状況が生まれる。プレイヤーとゲームが選択という手段によってリンクしていく唯一無二のプレイフィールが、「ライフ イズ ストレンジ」シリーズが愛され、支持されている理由だと考えている。その点では本作も並行世界の干渉という超能力を利用しながら、プレイヤーとして徐々にマックスになることができた。

 本作のエンディングは明白に次章に続くクリフハンガーで締めくくられており、もともとひとつだったタイトルの前半部分を切り出したような作品になっていた。そのため現時点ではストーリー全体の評価が付けられないが、『ダブルエクスポージャー』が「ライフ イズ ストレンジ」新章幕開けの狼煙になったのか、それとも無理に過去作の主人公を引っ張り出しシリーズを破壊した作品なってしまうかは、今後の展開によるだろう。ただし、マックスと一緒に成長してきたひとりのプレイヤーとして、本作だけでも「10年後のマックスに胸を張れる生き方をしているか」と考えさせられる一作だった。

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