ゲームの元ネタを巡る旅 第7回

『Outer Wilds』と宇宙探査SF 未知なる世界に飛び出す好奇心という名の原動力

 多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。

 企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。

 第7回は数多くのファンを獲得した名作SFアドベンチャー『Outer Wilds』から、同じジャンルである宇宙探査SFやファーストコンタクトものについて特集する。

OUTER WILDS | Launch Trailer

 『Outer Wilds』について軽く説明しておくと、本作はAnnapulna Interactiveが販売し、Mobius Digitalが開発したSFアドベンチャーゲームである。超新星爆発が起きるまでの22分間のループに閉じ込められたプレイヤーは、星々を探索しながら、爆発の原因や、この地にかつて訪れた文明について紐解き、壮大な謎を解明することとなる。

 戦闘やアップグレードといったゲーム的なデザインは存在しないにも関わらず、ゲームでしか味わえない完璧な謎解きの配置や、ストーリーテリングとの綺麗な融合が評価されている作品だ。

 『Outer Wilds』は宇宙を舞台にした非常にベーシックなサイエンス・フィクションだが『スター・ウォーズ』や『スタートレック』のように戦闘や軍事衝突が起こるわけではなく、あくまでひとりの宇宙飛行士として未知の文明の痕跡を探そうとする物語である。今回はその手のジャンルについていくつか触れやすい作品をピックアップしていこうと思う。

 まず手頃に紹介できるのは、創元SF文庫より刊行されている『星、はるか遠く: 宇宙探査SF傑作選』だ。その名の通り、人類が宇宙に進出し、あらゆる驚異と出会う瞬間が描かれた9つの短編が収録されている。

 2023年の12月に刊行されたので、比較的最近編まれたアンソロジーだが、収録作自体は年季が入っている(このたび新訳された短編も混ざっているが)。

 フレッド・セイバーヘーゲン「故郷への長い道」では、冥王星の彼方で鉱物掘りを行っている男女が、長年放置され、独立して動いている宇宙船を見つける。彼らが船内で見たものに多くの人が驚くだろう。

 また、ジェイムズ・ブリッシュ「表面張力」も読み応えがある。とある星に入植し、自らの遺伝子をその星に適応させながら遺していく使命を帯びた人々と、その星で生み出された新種の生物たちを、とても大きな(もしくは小さな)スケールで描く作品だ。ちょうど『Outer Wilds』の「木の炉辺」で太古の昔に起きていた出来事とリンクする点があるのではないか、と筆者は読みながら考えていた。

 ダグラス・アダムズ『銀河ヒッチハイク・ガイド』やR・A・ラファティ『宇宙舟歌』などのジョークやユーモアが入った作品も、広義の意味では宇宙探査SFと言えるだろう。あまり畏まりすぎた作品よりも、ちょっとふざけた話が読みたいという人はこれらもオススメだ。

 宇宙探索SFのなかでも、人類が初めて別の宇宙生物と出会う「ファーストコンタクトもの」という枠で考えると、これまた多くの傑作が作られてきた。

 まず、思い浮かぶのがアーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』。オーバーロードという上位概念が人類を見守っているという設定のなかで綴られる壮大なヒストリーを、じっくりと追っていく作品である。ちなみに、本連載でも取り上げたゲーム『Bloodborne』のとあるエンディングを見た際に取得できるトロフィーが「幼年期の始まり」であり、上位存在をクトゥルフ的な意味合いで捉え、この名作SFになぞらえている。

 ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』から続くシリーズや、映画化もされたアンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』などを挙げる人も多いことだろう。他には、スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』は、人が知性を持った海と邂逅する物語であり、この手のジャンルでは変化球と言える。

 映画もいくつか紹介しておきたい。パッと思いつくのは、クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』だ。地球の危機を救うために居住可能な惑星を探すミッションであったはずが、いつしか身近なドラマの解決を目指していくという筋書きは、どこか『Outer Wilds』のプロットに似ていると言えなくもないだろう。

映画『インターステラー』予告編

 また、言語解読という点ではドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』も面白い。地球外生命体「ヘプタポッド」が発する未知の言葉を解読するという筋の短編を、ドラマチックにしながら映画として引き伸ばすのは至難の業であっただろう。

映画 『メッセージ』 予告編

 原作者であるテッド・チャンは現役のSF作家であり、寡作ゆえに邦訳されている作品も多くはない。どれもこれも最先端の想像力で描かれた傑作ばかりなので、すべて買って読んでしまってもいいくらいオススメだ。

 他にも、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』や、ルネ・ラルー監督の『ファンタスティック・プラネット』なども紹介したいが『Outer Wilds』とどんどん離れていきそうなのである程度で止めておこう。

 冷戦下に米ソで加速した宇宙開発プロジェクトを元にしたSF作品は、21世紀においてもまだ人々を魅了してやまず、現在進行形で作られ続けている。サイバーパンクやタイムスリップSFなども名作は多く、ゲームでも頻繁に使われるネタではあるが、今一度ここで銀河の果てへ憧れを抱いてみるのはいかがだろうか。

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