オーディオ評論家が体感した「AKG」最新作の実力 プロに愛されるサウンドと圧倒的な機能性はコンシューマー向けモデルでも健在

評論家が驚愕した「AKG」新作のサウンド

 AKG(アーカーゲー)より、コンシューマー向けモデルとしては久々の新製品が登場した。それが、ANC機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの『N5 HYBRID(エヌファイブ・ハイブリッド)』と、ANCワイヤレスヘッドホン『N9 HYBRID(エヌナイン・ハイブリッド)』の2モデルだ。

 そもそもAKGは、マイクやプロシューマー向けヘッドホンなどで有名な老舗オーディオブランド。たとえばマイクでは、世界初のダイナミックマイク『D12』を作り上げたほか、レコーディングの必須アイテムとまでいわれている「C414」シリーズなどの名機を生み出している。また、ヘッドホンでは『K240 STUDIO』や「K701」シリーズなどベストセラーな人気モデルを多数リリースしている。そして、現在でもその人気は衰えず、JBLやマークレビンソン、ハーマンカードンなどを統括するハーマンインターナショナルの看板ブランドとなっている。

 そんなAKGから、5年ぶりとなる久々の“コンシューマー向け”製品が登場することとなった。AKG製品が好きで「Kシリーズ」ヘッドホンだけでも10アイテム以上持っている筆者はもちろん、多くのイヤホン・ヘッドホン好きにとって興味を惹かれるトピックだろう。

 結論をいえば、2モデルともにAKGらしさがしっかりと感じられるサウンドを聴かせてくれた。AKGらしさが最新モデルにまでしっかりと受け継がれているのは、いちファンとして嬉しいかぎり。同時に、最新であり最先端のワイヤレス製品として、機能性や利便性においても様々な魅力を持ち合わせていることにも驚かされた。そこで、今回は2製品それぞれの魅力について紹介していきたいと思う。

専用ドングルでLC3+にも対応する完全ワイヤレスイヤホン


 まずは完全ワイヤレスイヤホンの『N5 HYBRID』から語っていこう。上級に位置づけされる製品だけに、ハイブリッド構成のANCをはじめ機能性はかなり高い。そのなかでも最大の特長といえるのが、LC3+への対応だ。『N5 HYBRID』にはUSB-Cドングルが付属されており、それを活用することで最新の高音質規格であるLC3+による良音質がいち早く楽しめるのだ。

 実は、本来であれば「LE Audio」と呼ばれる最新のBluetoothオーディオ規格はとっくに普及しているはずだったが、様々な理由によるのだろう、現在は限られた組み合わせで実現するに留まっている。そのため、LC3の派生であるLC3+もスタートを切れていない状態となっている。そんなLC3+を、専用のドングルを用意することで実現させたのが『N5 HYBRID』の大きな魅力のひとつだ。


 この専用接続を利用することで、ハイレゾ相当となる96kHz/24bitサウンドを楽しむことができる。1対1の専用接続になってしまうものの、安定した高品位のサウンドをいち早く体験できるのは嬉しいかぎり。もちろん、普通のスマートフォンと96kHz/24bitスペックのLDACコーデックを利用できるので、こちらも満足できる。

 さらに、将来的にはLC3などにもファームウェアアップデートで対応するというから、将来性も不安はない。ちなみに『N5 HYBRID』の“ハイブリッド”はANCのことではなく、2つの接続方法を併せ持つことから名付けられたという話だ。

AKGならではのマイク性能も含めた多彩な機能性


 そして、豊富な機能性も『N5 HYBRID』の魅力ポイントだ。ANCはフィードフォワード+フィードバックのハイブリッド方式を採用し、耳障りな帯域をメインに消音するチューニングを実施。さらに、環境に合わせたリアルタイム補正も行ってくれるので、ベストなノイズキャンセリングを自動的に実現してくれる。これがなかなかに高精度なこともあって、街中での使用時には大いに重宝する。

 さらに、AKGが老舗のマイクメーカーということもあってだろう、内蔵マイクの性能に関してもかなりのこだわりが盛り込まれている。6つのマイクを活用して高品位な通話音声を実現するとともに、相手の声の大小を自動調整してくれる「サウンドレベルオプティマイザー」を搭載。さらに、相手の音声を調整する「サウンド設定」、自身の音声を調整して声を届けやすくする「音声設定」など、様々な調整が行えるようにもなっている。声の音質、使いやすさの両面でよく考えられた、なかなかに便利なシステムといえるだろう。

 そのほか、スティック型のイヤホン本体は装着感も良好。専用ケースは比較的コンパクトながらもドングルを収納できたりと、細々とした部分まで配慮が為されていたりもする。

 とはいえ、AKGブランドの製品であるがゆえに、一番重要なポイントはやはり音質だろう。しかし、その心配は一聴して霧散した。紛うことなきAKGサウンドを聴かせてくれたのだ。


 具体的には『Q701』や『K712』などの上級モニターヘッドホンを彷彿とさせる、スムーズで伸びやかな音の広がりと、煌びやかで奔放な表現を併せ持つ活き活きとしたサウンドを聴かせてくれるのだ。

 おかげで、女性ヴォーカルの歌声がいつもよりも美しく、より印象的に感じられる。宇多田ヒカルもAimerもサラ・オレインも、本来の声がリアルに感じられるし、存在感がとても強い。「五等分の気持ち」は花澤香菜と水瀬いのりがほんの僅かにクールだが声の特徴がしっかり感じられるし、生々しいとさえ感じられるリアルさも持ち合わせている。おかげで、上田麗奈「リテラチュア」もセリフのような抑揚ある歌い方に彼女の“表現の呼吸”のようなものまで感じられ、とても素敵だった。

 そういった細やかでリアルな表現は楽器にも活かされ、ピアノや金管楽器も鮮やかでのびのある音色を聴かせてくれた。クラシックもなかなかに楽しい。また、低域はある程度の量感を持ちつつフォーカスもあるので、楽曲のノリもよい。総じて、正しく、そして楽しい魅力的なサウンドといえる。

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