『エンダーマグノリア』に感じた“金字塔”誕生の息吹 現代性との融合がアイデンティティに

 3月26日、『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』(以下、『エンダーマグノリア』)のアーリーアクセスがSteamにてスタートした。

 本稿では、同タイトルのプレイインプレッションを踏まえ、シリーズが支持される理由を紐解いていく。

『エンダーリリーズ』から約3年。シリーズ第2作『エンダーマグノリア』早期アクセス版が配信開始に

ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist - Announcement Trailer -

 『エンダーマグノリア』は、『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』(以下、『エンダーリリーズ』)で知られるパブリッシャー・Binary Haze Interactiveが発売を手掛ける、探索型の2D横スクロール・アクションRPGだ。舞台となるのは、地下に眠る膨大な魔力資源によって栄えた魔法大国「煙の国」。主人公である見習い調律師・ライラックは、この国の悲劇に大きく関わる「ホムンクルス」と出会ったことをきっかけに、失った記憶と大切な仲間の行方を探す旅へと出かける。公式によると、同タイトルに描かれているのは、「死の雨」によって滅んだ王国を舞台とした『エンダーリリーズ』から、数十年後の世界なのだという。

 同タイトルは、2024年2月21日に配信となった任天堂の新作情報番組「Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.2.21」のなかで、その存在が明かされた。前作が高い評価を受けた一方で、発表以前には続編に関わる情報が一切出ていなかったことから、SNS上では多くのファンが待望の新情報に歓喜の声を上げた。

 『エンダーマグノリア』は、PlayStation 5、PlayStation 4、Xbox Series X|S、Nintendo Switch、Steam向けに2024年発売予定。価格は製品版が未定、早期アクセス版が1,980円(税込)となっている。公式はアーリーアクセスの期間について、「半年から1年ほどを想定している」と、Steamストアページで明らかにしている。

システムの面白さ、グラフィック/音楽の美しさは健在。その一方で…

 早期アクセス版をプレイして感じたのは、前作『エンダーリリーズ』でも好評を博した儚い世界観、オーソドックスながら遊びごたえのあるゲームシステム、デカダンスな設定とは対照的なグラフィック/サウンドの美しさが健在である点だ。続編に期待を寄せていた多くのファンにとって、こうした内容は非常に納得感のあるものだったのではないか。

 惜しむらくは、早期アクセス版ということもあり、プレイエリアが1つの街と序盤の4つのエリアのみにとどまっていた点だ。じっくり遊んだとしても、クリアまでは2時間ほど。あっという間に遊び尽くしてしまうほどのボリュームであった。アーリーアクセスに参加している層のほとんどが前作からの熱狂的なシリーズファンであろうことを考えると、そのボリューム感に肩透かしを食らってしまった人も多くいたに違いない。この点に関しては、製品版のリリースに期待といったところだろうか。

 しかしながら、上述のように短い体験のなかにも、進化を感じられるポイントが多くあった。スキルのバリエーションはその一例だ。前作と比較すると、総じて使い勝手が良くなっている点が特徴的で、その裏には(『エンダーリリーズ』では不可能だった)難易度選択が可能になることからの影響もあるように感じた。早期アクセス版においては、NORMALと見られる固定の難易度でしか遊ぶことができなかったが、高難易度でのプレイにおいては、この進化点がさらなる遊びごたえをもたらしてくれるはずだ。

 一方、注意すべき点を強いてあげるのであれば、『エンダーリリーズ』とはわずかながら世界観が異なっていることだ。前作では、登場キャラクターたちの言葉によるコミュニケーションを最小限にすることで、虚無的で静謐な世界を表現していたが、今作では、多くの登場人物が主人公・ライラックと会話を繰り広げていく。上述のような『エンダーリリーズ』の個性を好んでいたプレイヤーにとっては、そこにギャップを感じてしまうこともあるのではないか。

 無論、こうした変化がシリーズ全体のまとっている雰囲気を壊しているということはない。むしろ、ストーリーテリングの面においては、プラスに働く可能性も大いにあるだろう。長所・短所ではなく、あくまでも前作と今作の違いとして、ここではあえて提示しておきたい。

現代性との融合によって確立したアイデンティティ。「ENDER」シリーズが支持される理由は

ENDERLILIES - Announcement Trailer

 『エンダーリリーズ』『エンダーマグノリア』が分類される2D横スクロール・アクションRPGの分野は、「メトロイドヴァニア」という別名でもフリークに親しまれている。ジャンルの代表的作品である「メトロイド」と「キャッスルヴァニア(「悪魔城ドラキュラ」欧米版の名称)」を組み合わせて構成された呼称だ。近年では同ジャンルの流行を受け、両シリーズともさまざまなプラットフォームで、新作の発売や往年のタイトルの復刻が行われている。

 そのなかにあって、『エンダーリリーズ』『エンダーマグノリア』は稀有な個性を放っていると言える。ゲームシステムをさまざまな先例から受け継ぎつつも、世界観の構築ではオリジナリティを見せる。そのクリエイティビティの根幹にあるのは、メトロイドヴァニアと現代性の融合だ。両作の持つグラフィック/サウンドの美しさは、その一端と捉えられるだろう。ダークファンタジーの世界観に根ざしている点もまた、ひとつの現代性だと考えられる。「メトロイド」がSF、「キャッスルヴァニア」がゴシックホラーという世界観に根ざしたように、「ENDER」シリーズはダークファンタジーという、メトロイドヴァニアでは成功例のなかった領域で独自の立ち位置を確立しつつある。ただ模倣にとどまるのではなく、そこにオリジナリティがあること。それこそが『エンダーリリーズ』『エンダーマグノリア』が支持される理由なのではないか。

 前作の登場から約3年。大きな期待のなかで早期アクセスが開始されたシリーズの2作目には、メトロイドヴァニアにおける新たな金字塔誕生の息吹を確かに感じさせられた。

© 2024 BINARY HAZE INTERACTIVE Inc.

ビジュアルとサウンドが産んだ圧倒的没入感  『ENDER LILIES』は“メトロイドヴァニアの新定番”となるか?

『ENDER LILIES: Quietus of the Knights(エンダーリリィズ: クワイタス オブ ザ ナイツ)』…

関連記事