ゲームの元ネタを巡る旅 第1回

『パラノマサイト』から見る「本所七不思議」 幾度となく語り直された“強度の高い”怪談

 多種多様な販売形態の登場や、クリエイターの増加により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載「ゲームの元ネタを巡る旅」では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。

 第1回は『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』から「本所七不思議」を考えていく。

『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』のゲーム概要

 本作は2023年3月9日に発売されたアドベンチャーゲームだ。昭和後期の墨田区を舞台に、蘇りの秘術を巡って「呪主」と呼ばれる能力者たちが殺し合いをするというバトルロイヤルとホラーミステリーが融合した作品である。開発・販売はスクウェア・エニックス。

パラノマサイト FILE23 本所七不思議

 流行りの能力バトルから始まり、民俗学を取り込みつつ、最後はウェットな人間ドラマで着地するというクレバーな作りの作品だが、今回はそんな『パラノマサイト』の骨子となっている実在の怪談「本所七不思議」にクローズアップしてみよう。

「本所七不思議」とは?

 本所七不思議とは、江戸時代に、現代の東京都墨田区本所に当たるエリアで話されていた怪談や奇談の総称である。七不思議とあるが、実際はそれ以上の数があり、ゲーム本編には「置いてけ堀」「馬鹿囃子」「送り提灯」「送り拍子木」「落葉なき椎」「津軽の太鼓」「足洗い屋敷」「片葉の芦」「消えずの行灯」の9種類が登場する。それらの怪談が概ねどういったものだったかは、墨田区の公式HPにまとまっているので、下記のサイトを参照してほしい(ちなみに筆者も一時期住んでいたことがある。近辺に博物館が多く、繁華街へのアクセスも良い上に下町情緒もあり、とても過ごしやすい地域だった)。

墨田区公式ウェブサイト Q1148:本所七不思議について知りたい。
https://www.city.sumida.lg.jp/faq/bunka_kanko/bunka_jigyou/1148.html

 歌川国輝が『本所七不思議之内』という浮世絵を描いているところから、当時としてはポピュラーな怪談だったのだろう。江戸ではその他にも、馬喰町、番町、麻布など多くの地域で、七不思議が伝わっている。

ゲーム内での仕掛け……能力バトルから「本所事変」へ

 さて、ゲーム内で「本所七不思議」がどう盛り込まれているかについて見ていこう。

 前述した通り、本作は『ジョジョの奇妙な冒険』や『バジリスク 甲賀忍法帖』のような能力バトルモノとしてスタートする。特に、史実や実在の事象に関係した能力を発現し、その力に頼って戦うという点や、その能力の詳細が知られてしまうと不利になるという点は『Fate』シリーズのような趣きもあるかもしれない。

アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」OP映像

 これらの史実や実在の事象に根差した能力というのは、それだけで興奮する要素だ。たとえばゲーム内に出てくる「送り拍子木」の能力は、火もしくは発火器具を持っている者を焼死させるという力であり、実在の怪談のイメージをちゃんと借りてきている。

 しかしながら、それだけでは奥深いミステリーには成り得ない。

 本作には二つの時間軸がある。ひとつはプレイアブルパートである昭和後期(及びその数十年前までに起きた事件群)であり、もうひとつは江戸時代後期に起きた本所七不思議の基となった本所事変である。

 本所七不思議の怪談に沿って、とある陰陽師(正確には声聞師)が一介の町人に救われることから起きた一連の悲劇が「本所事変」だ。『パラノマサイト』の現代編は、この本所事変の再演をしているとも捉えることができる二重構造になっている(なお、本所七不思議は実際に多くの文献にも載っている怪談だが、本所事変は本作のクリエイターが考えたお話であり、このゲーム以外に登場するものはない)。

 あれだけの細々した怪談を一本の人情ドラマにする過程は、非常に骨の折れる作業だっただろう。しかしながら、その発想自体はとてもクリエイティブだ。

『パラノマサイト』の源流はいずこに 本所七不思議を扱った作品群

 では『パラノマサイト』以前にはどのようなフィクションが本所七不思議を取り上げていたのか? どういった変遷があったのかについて少し見ていこう。

 この項に関しては、横山泰子「近現代に生きる本所七不思議」『法政大学小金井論集= 法政大学小金井論集』第3巻、法政大学小金井論集編集委員会(2006年3月)を参考にさせていただく。論集では、明治5年(1872年)生まれの小説家、岡本綺堂の功績を讃えている。

 岡本綺堂は「置いてけ堀」を作品化しており、これが次世代の作家たちのヒントになったのではないかと、横山は考えている。芥川龍之介も「本所両国」で本所七不思議に触れてはいるが、幼少期を辿ってあのころの両国を思い返すという私小説の趣きで、やはり怪談を語り直すという意味では岡本綺堂が重要なのだろう。

 また、その後は大正六年に刊行された伯知の『本所七不思議』(一穴庵狸速記、春江堂)という講談が、とある一家をモチーフにした御家騒動で、その過程で「置いてけ堀」と「片葉の芦」が登場するようで、これはまさしく『パラノマサイト』に登場する本所事変の直々の元ネタと言えよう。

 以降、昭和・平成と、時代劇やテレビドラマなどで本所七不思議は何度も語り直されている。それがついに令和の御世になってデジタルゲームまで達したということだ。それだけこの怪談は強度が高く、その不思議さや奇妙さに当てられ、語り直したいという欲を想起させるのだろう。

■参考文献

横山泰子「近現代に生きる本所七不思議」『法政大学小金井論集= 法政大学小金井論集 第3巻 187-204頁』(法政大学小金井論集編集委員会・2006年3月)

飯倉義之『江戸の怪異と魔界を探る』(カンゼン・2020年)

© SQUARE ENIX

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