『プリンセスピーチ Showtime!』発売で振り返る“ピーチ姫主演作” 前作『スーパープリンセスピーチ』が放っていた異質さ
3月22日より、『プリンセスピーチ Showtime!』がNintendo Switch向けに販売開始となった。『プリンセスピーチ Showtime!』は、1985年発売の『スーパーマリオブラザーズ』での初登場以降、大ボスのクッパにさらわれるヒロインを40年近くにわたって務め続けるピーチ姫の主演作であり、マリオシリーズのスピンオフ作品だ。
マリオシリーズでは、これまでにもマリオの弟であるルイージ、『スーパーマリオワールド』で初登場した「スーパードラゴン」ことヨッシー、『スーパーマリオランド2 6つの金貨』に新たな悪役として登場したワリオ、そしてピーチ姫の従者であるキノピオが主演を務めるスピンオフ作品が数多く発売され、一部は独自のシリーズとして発展を遂げている。ピーチ姫もまた、それらのキャラクターたちに続く形で自らの主演作を持つに至った。
ただ、『プリンセスピーチ Showtime!』は、ピーチ姫の主演作としては2作目に当たる。初の主演作となったのは『スーパープリンセスピーチ』。2005年にニンテンドーDS向けに発売された、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームであった。
そのため、今回の新作が初お披露目された当時、前作のことが脳裏をよぎったプレイヤーは少なくないかもしれない。なにせ、前作から実に約19年ぶりの新作である。ルイージの主演作『ルイージマンション』も、続編『ルイージマンション2』に12年の時を要したが、こちらはそれ以上だ。これには感慨深くなるのも仕方がない。
しかし、ルイージのケースと異なり、この『プリンセスピーチ Showtime!』は続編ではなく、心機一転を図った”リブート作品”としての色が濃く現れている。
なぜ、リブート作品の色が濃いのか? それは前作の発売から19年近くが経っている事実のほかにも、件の前作『スーパープリンセスピーチ』がマリオシリーズ全体で見ても、異質な特徴を持つ作品だったことが影響していると推察される。
マリオ生みの親が未関与という異例の体制で作られた初主演作
『スーパープリンセスピーチ』の異質な特徴は2つある。ひとつに開発スタッフの構成だ。
マリオシリーズと言えば、生みの親である任天堂の宮本茂氏がプロデューサー、監修を多くの作品で担当している。1990年代と1980年代にまで遡ると、ワリオがデビューした『スーパーマリオランド』シリーズに代表されるように、宮本氏がまったく関わっていないタイトルも存在するのだが、2000年代に入ってからはその数が大きく減少。マリオの名を冠した作品には必ず関わっている、と言ってもいいほど当たり前になった。実際、マリオたちのデザインに独自アレンジが施された『マリオ&ルイージRPG』(※2003年発売の1作目)も、開発は外部の会社ながら、プロデューサーとして宮本氏が関わっていることがゲーム本編のスタッフクレジットに記されている。
また、2001年に発売されたルイージの初主演作『ルイージマンション』も宮本氏がプロデューサーを務めた作品だ。12年後に発売された続編『ルイージマンション2』でも同様にそのポジションを務め、詳しいゲーム内容とゲームプレイの模様がお披露目された「Nintendo 3DS Direct Luigi special 2013.2.14」では、宮本氏が自らプレゼンターを務められている。
ところが、そんな2000年代に発売された新作のひとつ、『スーパープリンセスピーチ』は当時としては極めて珍しい例外。宮本氏の名がゲーム本編エンディングのスタッフクレジットに記されていない、未関与の作品だったのである。
『スーパープリンセスピーチ』を開発したのは、ゲームボーイアドバンス、ニンテンドーDS向けに展開された横スクロールアクションゲーム『伝説のスタフィー』シリーズを手がけたトーセ。任天堂側からも、『伝説のスタフィー』シリーズを手がけたメンバーがプロデューサー、ディレクターとして参加していることがゲーム本編のスタッフクレジットより確認することができる。
つまるところ、マリオシリーズとはあまり縁のないところから生まれ出た作品だったのだ。厳密には完全に縁がないわけではなく、2003年にニンテンドーゲームキューブ向けに発売された『NINTENDOパズルコレクション』収録の『ヨッシーのクッキー』に携わったスタッフも一部、参加している。ただ、ルイージの主演作たる『ルイージマンション』の1作目が宮本氏を始め、本家本元のマリオシリーズ開発スタッフによって作られたのを踏まえれば、外部の開発会社主導で作られた『スーパープリンセスピーチ』は非常に対照的と言える。
しかしながら『スーパープリンセスピーチ』自体、決して宮本氏のあずかり知らぬところで作られた作品ではないようだ。『スーパープリンセスピーチ』が発売された2005年は『スーパーマリオブラザーズ』発売20周年の年。当時、それを記念した宮本氏へのインタビューが任天堂公式サイトに掲載された。そこで『スーパープリンセスピーチ』に関する話題も出され、以下の回答を宮本氏がされていたのである。
ピーチはピーチらしく、ということを大切にしています。カサをわざわざデザインしたり、ピーチの面白さを出して行きたいと。ピーチらしさというのは、脳天気なお姫様ってことなんですよね。本人はマリオに守られてるなんて思ってない。女性は強いというイメージです。開発スタッフにもカカア天下の家庭が多いですし(笑)。女性が強くあってくれる方が、なんだか安心なんですよ。ピーチに関しては、今後も色々やらせてみたいと思っています。
▼任天堂オンラインマガジン(N.O.M)2005年10月号 No.87「スーパーマリオ20周年 特別企画 マリオ出演作品リスト& 宮本 茂 ロングインタビュー」(Internet Archive)より引用
https://web.archive.org/web/20221026124715/https://www.nintendo.co.jp/nom/0510/interv/index.html
このことからも、なんらかの監修はされていたことが考えられる。それに限らず、スタッフクレジットにはキャラクター監修としてマリオのイラストを担当した小田部羊一氏を始め、本家のマリオシリーズスタッフ数名が参加していた事実も記されている。なので、過度に逸脱しないような体制は敷かれていたものと推察される。
とはいえ、遊ぶ側の視点から見ると「本当に監修されていたのか?」と感じてしまう部分がいくつか存在した。ルイージにまつわる描写がそれで、2024年現在の視点から見ても、ほとんど弱い者虐め同然の描写になっている。
似たようなルイージに対する“イジリ”は、『マリオ&ルイージRPG』でも見られたものだが、『スーパープリンセスピーチ』のイジリはその比ではなく、開発者の悪意すら感じさせるものになってしまっている。ほかに本編にはクッパも登場するのだが、なぜかピーチ姫を知らないような言動をするなど、それまでのシリーズの歴史を踏まえると首を傾げてしまう部分もある。
好意的に見るなら、独自の世界観を描いているとも言えるが「なにかが違う」感じも相応に強い。その意味でも本作は異例で、2000年代におけるマリオシリーズの歴史から見ても、珍しいスタッフ構成で作られたスピンオフ作品になっている。