tofubeatsら4組出演の『DOUBLE:』ライブレポ バーチャルとフィジカルが交差した一夜

バーチャルとフィジカルを織り交ぜ、長瀬有花は増殖する

 3番手として登場した長瀬有花は、3Dアニメルックなバーチャル性と彼女の身体そのものによるフィジカル性が織り混ざった内容となった。

 真っ黒な背景となったLEDパネルに登場した長瀬が1曲目に歌い出したのは「fake news」だ。ラジオやテレビの番組アナウンサーが告げるそう遠くない未来の話、近未来とインターネットを想起させる1曲から、彼女のアクトは始まった。

 2曲目「アフターユ」のヒップホップライクなグルーヴに観客が揺れ、ビートとギターの音で終えていくアウトロへ差し掛かる。長瀬の姿が徐々に白んでいき、それに合わせて長瀬の周囲も光に埋め尽くされる。

 そして次の瞬間、3曲目「近く、遠く」がスタートすると目の前にあらわれたのは3Dルックな長瀬ではなく、“長瀬本人”が登場したのだ。

 3Dルックの姿から、フィジカルの姿へ。自らのビジュアルを一気に変化させるこの展開に、会場が大いに盛り上がったのはいうまでもない。目元をゴーグルで隠し、白地の透けた衣装で着飾った彼女は、ステージ中央で白い照明に当てられて歌っていく。

「ここだけのとっておきの演出をいれていきますので、最後まで楽しんでいってほしいです」

 とろんとしたいつもの口調でMCをする長瀬。直後の曲から、長瀬本人と3D長瀬の2人が同じステージに立ち、「駆ける、止まる」「宇宙遊泳」「ブランクルームは夢の中」とどんどん楽曲を歌っていく。長瀬本人はLEDパネルの前まで進み、3Dの自分と向かい合ったり、踊ったりと動きをシンクロさせていく。

 ときにはゆったりと歌う長瀬の後ろで、3D長瀬が6人ほどに増え、好き勝手に動き回ったりもする。そんなフワフワとした空気感がなんとも彼女らしい。

 ところで、おもわず“どんどん”と記してしまったが、彼女のステージでは曲の合間がほとんどなく、楽曲が最後を迎えるとDJのようにシームレスに次の曲へと繋がっていくのだ。カラフルな照明が会場中を照らしながら、とめどなく音楽が流れるムードは、次に待ち構えるtofubeatsに合わせているかのようであった。

遊び心あるDJに実験的なVJをかけ合わせたtofubeatsのアクト

 長瀬がステージを終え、続けて現れたtofubeatsだが、会場をリラックスさせるように短く挨拶のMCをすると、いつも通りのDJプレイからスタートした。

 「陰謀論」「VIBRATION」「I CAN FEEL IT」「STAKEHOLDER」「CAND\\\LAND」とかけていくが、ハウス/2step/エレクトロ/ジャージークラブのサウンドやリズムパターンが絶妙にミックスされ、遊び心あるDJプレイでフロアを盛り上げていく。

 だが、この日のステージで一味違ったのは、やはりステージ演出である。tofubeatsを左右斜めから捉えた映像がLEDパネルに流れると、そのままtofubeatsをベースにして様々なタッチの絵が流れていく。線画を強調したもの、アメコミ風なもの、そもそもDJをしている姿ではない絵に変わっていったりと、変幻自在にモーフィングしていた。

 とはいえあまりにもパターンが多すぎるし、非常にランダム性のある映像が流れているなと思っていたが、終演後に調べたところ、この映像はAIを使ってリアルタイムで自動生成されていたものだという。

 DJセットのライブは、さまざまなサウンドやリズムパターンをうまく組み合わせその日その瞬間のムードに合わせて、“音楽を作っていく”ものである。事前に決まりきった映像を合わせても、最初から最後までピタリとハマってくれるかはわからない。

 そこでAIの力を借り、リアルタイムにアートを出力している様子をそのままVJパフォーマンスに用いる。“DJ”のあり方・変化するフロアの空気も踏襲するアートの在り方ともいえよう。

 tofubeatsのアクトに話を戻すと、自身がタイアップ楽曲として提供した「EMOTION」や中村佳穂との楽曲「REFLECTION」と繋げ、「ちょっと歌って見ようと思います」と一言つぶやき、「自由」を歌う。

 そのままラストにかけたのは、Daokoへのアンサーなのでは、とすら思ってしまう本家「水星」である。ちなみに、ここでも映像にはtofubeatsにそっくりな「AI tofubeats」の映像が流れていた。本人は「誰やこいつ!」と思わずツッコんで笑いを誘っていたが、ともあれ本日2度目の「水星」はこのイベントを美しく締めくくってくれたのだった。

 電音部がバーチャルを、Daokoがフィジカルを、長瀬がそれらをかけあわせ、tofubeatsはクラブサウンドで彼らを繋ぎ、VJ演出がそれを彩る。この日見せてくれた多彩な手法・在り方がどのように進化・成長を見せていくのか、そんな萌芽や期待にも満ちた一夜だったといえよう。

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〈Photo by Kenichi Inagaki〉

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