AXIZ・Rumoi引退インタビュー 約5年間のプロ生活で伝えた「シャドウバースの奥深さ」

 デジタルカードゲーム『Shadowverse(シャドウバース)』のプロシーンを牽引し続けてきたRumoi(AXIZ)が1月22日、今シーズン限りでの現役引退を発表した。リアルサウンドテックでは、引退発表直後のRumoiにインタビュー。RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR(RSPT)屈指の実力者として確固たる地位を築くなか、現役引退を決断した背景や、約5年間のプロ生活での思い出、そして目前に迫る大一番・RSPT CHAMPIONSHIP(PTCS)への意気込みとファンへのメッセージなどを聞いた。(片村光博)

“プロとしてやりたいこと”の達成と、最後にやり残したこと

――まず、引退に至った経緯について教えてください。

Rumoi:引退を考え始めたのは、昨シーズン途中でした。「この先どうしていきたいのか」「どこまでプロとしてやり続けるのか」と考えたとき、プロとしてやりたいことはすべてやり切った、と感じて……。そのなかで唯一の“やり残し”が2回目の年間優勝だったので、「あと1年だけやらせてください」とチームにお願いしました。今シーズンを最後の1年として全力で取り組んで、引退しようと決めたんです。

――「プロとしてやりたいこと」は、どのようなことが実現できたのでしょうか。

Rumoi:AXIZに加入したときは、「チームを優勝させよう」という思いで入ったんです。本当にそれだけで、すごく高い志があったわけでは正直なくて(笑)。 ただ、自分の実力なら、絶対にチームを勝たせられると思っていましたし、プロの舞台(当時はRAGE Shadowverse Pro League)で結果を出せると思っていました。実際に加入1年目から、これは本当に運が良かったんですが、優勝することができました。

 そこで1つ目の目標は達成して、そこからどうなりたいかを考えたとき、とにかく勝ち続けてプロを代表する選手になって、そのうえで発信もどんどん頑張っていきたいと思ったんです。そして、そうした目標も達成できたと感じていますし、なによりも自分のプレイによって、シャドウバースの奥深さをたくさんの人に伝えられたと思っています。もう「こうしたい」と感じるようなことがなくなるくらいまで、やり切れたという思いがありますね。

――シャドウバースのプロ選手と言えばRumoi選手、と思っているファンも多いと思いますし、プロ選手へのリスペクトもこの5年間で大きく向上したように感じます。

Rumoi:プロになったばかりのころは、自分のことを知ってくださっている方はほとんどいない状態でした。そこから試合に勝ったり、配信をしたり、動画投稿を続けたりしていくうちに、応援してくださる方が増えていったことは、すごく実感していました。

 プロ選手の見られ方については、シャドウバースがそのときどきで戦略や環境への高い理解度と練度が求められるゲームであることも関係しているとは思いますが、そうした変化に自分が少しでも貢献できていたらうれしいです。

――“最後の1年”と意識して戦うシーズンはプレッシャーもあったのではないでしょうか。

Rumoi:大会形式がRSPTになって変わってから、「こういうルールの方が自分には向いているのかな」と感じていて昨シーズンも個人的に満足いく成績は残せていたので、今シーズンもこれまで通りやるだけだと思っていました。もちろん最後のシーズンに優勝はしたいんですが、だからといってめちゃくちゃプレッシャーを感じていたかというと、そんなことはなかったですね。(PTCS進出を決めた)プレーオフも「チームが勝てればいい」という思いでした。よしもとゲーミング戦の最後の試合も、(チームメイトの)Gemoさんが出た方が勝つと思っていたので、(自身が出場しないことは)気にしていなかったです。負けたら終わりの試合でしたが、仮にそこで終わったとしても悔いはないという思いで送り出しました。

――そこにはやはり、長く共に戦ってきたGemo選手やRob選手との信頼関係もあるのでしょうか。

Rumoi:もう長いですからね。Robさんは2Pickの選手なので、直接一緒に練習する機会はないんですが、どんなときでも勝ってくれるので、すごく信頼しています。Gemoさんとはプロ入り前から関わりがあったので、性格もわかっていますしね。プレーオフの最後の試合も、「自信ない……」みたいな雰囲気を出していたんですけど(笑)、「やってくれるだろう」と思っていました。

――おふたりに引退を伝えた際の反応はいかがでしたか。

Rumoi:Robさんに話したときは「まあ、もう長いしな」という話をして、いつ引退するのか、その後はどうするのかという話が多かったです。Gemoさんに関しては、想像されているとおりの反応ですよ(笑)。「へぇ、そうなんだ」みたいな(笑)。でも、それ以外の反応をされても逆にこっちが「大丈夫? なにかあった?」ってなっちゃいますし、むしろそれでいいんだと思います。

RSPTで見せた理想的な試合「見返したい試合のひとつ」

――引退発表後、ほかのプロ選手や多くのファンからSNS上などでさまざまなメッセージが寄せられていました。

Rumoi:ちょっと自分でも驚いているというか、思っていた以上に多くの反響をいただきました。それも、現役引退を惜しんでくださる声も多くて、これまで頑張ってきた甲斐があったなと思いました。それと同時に、自分がいなくなってもRSPTにはおもしろい試合をしてくれる選手がたくさん残っていますし、自分のいないRSPTを見るのが楽しみという思いもあります。これからのRSPTも絶対おもしろいので、引き続き見てほしいですね。

――“見る側”に回ってから楽しみなのは、やはりAXIZですか。

Rumoi:応援するのはAXIZですけど、個人的にはもともと同じチームだったAtom(福岡ソフトバンクホークス ゲーミング)が単純に好きな選手でもあり、見るのが楽しみです。

 これまではどうしても、ほかのチーム同士の試合を見ていても「こっちに勝ってほしいな」というチーム的な事情が入ってしまっていたので、引退後はもっとフラットに楽しめそうだと思っています。

――あらためてプロ生活を振り返ると、やはり思い出深いのは19-20シーズンの年間優勝でしょうか。

Rumoi:あの優勝があったからこそ、ここまでプロとしてやれたとも感じていますし、本当に大きい優勝でした。当時のよしもとLibalent戦を振り返ると、自分の試合はゲームに入り込んでしまっていてあまり覚えていないんですが、最後のGemoさんの試合を、控え室でめちゃくちゃ声を出して応援していたことは覚えています(笑)。Robさん、Chinoと3人で応援して、「勝ったよな?」と確認していた記憶がありますね。

 Gemoさんは「そんなうまくいかないよ」みたいなことを毎回言うんですよ。でも、誰が出てもいいような場面では無理やり送り出していました(笑)。本人が嫌がっても、「もう行け」って。いま振り返っても、当時のチームもバランスが良かったと思います。

――それでは、優勝以外で印象的だった出来事や思い出はありますか。

Rumoi:たくさんあるんですけど、一番は昨シーズンのRSPT 1st Seasonの決勝戦、MURA選手との試合がすごく印象に残っています。終わった瞬間、達成感がありました。勝ったときに自分のプレイだけがうまかった、負けたときに相手のプレイだけがうまかったというのは、それまでいくらでもあったんですが、あのときはお互いにすごくいい試合をした結果として、勝つことができた。もちろん、優勝できたからこその部分もあるんですけど、あそこまで満足いく試合はなかなかできません。しかも、BO5(3戦先取)の長丁場のなかで、あのような試合ができたことはうれしかったですね。特に僕はあまり自分の試合を見返さないんですが、それでも見返したい試合のひとつになりました。

RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR 22-23 1st Season 本戦 Day2 Rumoi vs MURA

――自身の理想を体現した試合になったんですね。

Rumoi:そうですね。試合中に相手の意図をすごく感じることができて、終了後も「自分のプレイングが良かった」という確信がありました。集中力についても、後にも先にもないくらいのレベルで……。試合の合間の雰囲気すら覚えているくらい、印象に残っています。

――試合の合間はどのような雰囲気だったのでしょうか。

Rumoi:あの試合は2本先取されてしまって、“あと1本取られたら終わり”という状況でした。そういう状況になると「もう終わっちゃうんだ」という考えが脳裏によぎってしまうタイプなんですが、あのときはそんなこともありませんでした。「まだ全然いける」という感覚があって、試合中もすんなりと次にするべきことがわかる。そんな感じだったと記憶しています覚えてますね。

――いわゆる“ゾーン”に入った感覚ですね。

Rumoi:“ゾーン”というものを、唯一体感できた試合だったかもしれないですね。あの試合を機に、引退を意識するようになった面もあるかもしれません。自分のなかで本当に納得いく試合でしたし、プロ生活のなかでひとつの大きな成果になったと思っています。

――そうした試合ができたのも、プロシーンでの緊縛した戦いだからだったのでしょうか。

Rumoi:やっぱり多くの人に見てもらっているという状況によって、より気が引き締まる面はあると思います。普通の大会でも「すごくいいプレイできたな」「集中できたな」という試合はたくさんありますが、あそこまでのものはないですね。

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