海外と日本で異なる“VTuber文化”に対応し、世界で成功するために Brave group代表取締役・野口圭登に聞く「これまでとこれから」

メタバースエンジン開発&「教育」事業に力を入れる理由

――昨年、もうひとつBrave groupの軸となったものに、メタバース事業があると思います。2023年1月に発表されたメタバースエンジン『Brave Engine』ですが、こちらは現在どのように活用されているのでしょうか?

野口:現在は大手の企業様向けに提供しています。特に株主の方々を中心に「メタバースを作りたい」というニーズが増えていて、それに応えていますね。

――BtoB領域での採用事例が増えているということでしょうか?

野口:そうです。いわゆる受託開発で、依頼いただいてから『Brave Engine』で作り、納品するという構造です。

――もうひとつ。4月に開校したメタバース教育事業『MEキャンパス』は、現在どのような状況でしょうか?

野口:MEキャンパスは、まさに『Brave Engine』をベースに開発している、採用例のひとつになります。まだ第一期ですが、現在開講中の「メタバースクリエイターコース」は、メタバースで活躍するクリエイターになるための授業をコツコツを積み重ねています。

――現在、開講から半年くらい経った段階ですよね。実際、受講生のスキルは向上しているのでしょうか?

野口:最初はまったく3Dの心得がなかった人でも、学びを進めるにつれてどんどん作れるようになっています。ある不動産系のクライアントから受けたメタバース開発において、受講生が実践課題として制作した3Dモデルの家具が採用された実績も出ています。

――在学中に制作実績ができるのは、受講生にとってもうれしいですね!

野口:興味深かったのは、当初は中学生から高校生を受講者として想定していたのですが、ふたを開けてみると社会人の方が多かったことですね。これまではなにかしらの専門学校に通うところを、メタバースの学校であるMEキャンパスを選択してもらっているような印象で、リスキリング需要にも応えているみたいです。

――若い方だけでなく、ある程度の大人にもリスキリングのニーズがあるということですね。ちょうど政府が推進している領域なのも影響していそうです。

野口:その意味では、流れには乗れているなと感じますね。現在は実績作りのフェーズにあるので、「MEキャンパスに通えばこのぐらいのスキルが身につく」というビフォーアフターを提示できるように、就職支援なども担っていきたいですね。

――業界への就職事例も登場すれば、いよいよ専門学校として強力な選択肢になりそうです。

野口:代々木アニメーション学院やHALに並べるよう、コツコツとやっていきたいですね。

 ちなみに、カリキュラム自体の追加も検討しています。「メタバースクリエイターコース」はいわゆる新手のエンジニア養成コースに近いのですが、もうちょっとカジュアルな、趣味でものづくりをしたい人向けのカリキュラムなども用意したいと思っています。

 MEキャンパスの取り組みを通じてわかったのは、「バーチャル空間でちゃんと学びを提供できる」ということなので、カリキュラムのブラッシュアップを重ねていきたいと思っています。

――メタバース事業に関連する話題として、昨年11月に株式会社ディーワンとの経営統合も実施されています。こちらはどのような経緯で実現したのでしょうか?

野口:ディーワンはもともと『Brave Engine』の開発を手掛けていた会社です。そしてBrave groupのグループ会社、MetaLabの社長・北と、ディーワンの社長・半澤さんが、10年来の付き合いで、MetaLab創設段階でも相談に乗っていただいていた間柄でした。

 ディーワンはメタバースだけでなく、XRコンテンツや3DCGキャラクター制作などにおいても実績が豊富な企業です。Brave groupとしても、モーションキャプチャスタジオや、IPまわりの強化などの文脈で、「いっしょにやっていきたいですね」と1年以上前から話していました。今回それが実現した形です。

――今後、ディーワンはBrave groupのどのような事業に携わってくるのでしょうか?

野口:ディーワンは20年以上の歴史がある会社で、リファラルを中心に様々なお仕事を受注されてきた会社です。その実績と『Brave Engine』をかけ合わせて、BtoB領域のソリューション提供能力を強化していきたい、と考えています。VTuber事業は基本的にBtoC領域なので。会社の基盤を盤石にするためにも、BtoB事業も強化したいという意図があります。

 くわえて、MetaLabの開発パートナーだったディーワンを迎えることで、開発チームを獲得できました。今後MEキャンパスや、新規事業の開発力は強化されるはずです。

――MetaLabでは昨年12月にFanTechプラットフォーム「FAVii」を発表し、新たな基軸のメタバースも展開しようとしていますね。そうした流れが強化されると。

野口:ちょっと時間がかかるかもしれませんが、XRコンテンツも含めて、開発事例が増えていくと思います。

――昨年は『Brave Engine』をリリースしつつも、昨年8月には『RIOT MUSIC』所属アーティスト・長瀬有花のライブ会場を、フォトグラメトリ化して『VRChat』に公開するという取り組みもみられました。いわゆる「他社運営の既存メタバースプラットフォーム」はどのように見ているのでしょうか?

野口:「汽元象レコード」がやりたいようにやってもらっています。メタバースにしても、『Brave Engine』を使うもよし、『VRChat』などの既存プラットフォームを使うもよし、です。

 逆に、『Brave Engine』はこういう時に選ばれるものになっていかないといけないな、と思っています。ジレンマはありますが、「野口が言っているから『Brave Engine』を使う」となってしまうと、その瞬間につまらなくなりますからね。自由な裁量でやってもらうからこそ、いまの成長があると思っているので。

――そこまで自由ならば、本当にのびのびとやっていけそうですね。『汽元象レコード』は特に尖っている印象ですが。

野口:恵比寿LIQUIDROOMでやったライブ(有観客ワンマンライブ『Eureka』)などは特にそうですね。「VTuberとはなんなのか」という(笑)。

 でも、それも汽元象レコードの世界観が出ていていいなと思うんです。僕はそのあたりの方針はおまかせしています。

――少し大きな話題になりますが、「幻滅期」とも叫ばれるなか、Brave groupにとってメタバースとはどのような価値・可能性があると考えていますか。

野口:わかりやすいので「メタバース」とは言っていますが、私自身はVTuber事業とメタバース事業はニアリーイコールだと捉えています。

 VTuber事業を通して、「アバターの姿で“もうひとりの自分”として活動する」ことが、いろいろな人の人生によい影響を与えているなと感じます。特に、演者さんの夢が叶っているケースが多い。「プロゲーマーになりたかった」とか「歌手になりたかった」といった夢が叶わなかった人が、“メタバース世界の芸能人”のような存在になって、それを叶えている。それこそ、『竜とそばかすの姫』みたいに。

 いま、「メタバース」といえば、「バーチャル空間をプロデュースする」というものだと思われがちじゃないですか。なのでとりあえず作ってみても、人が来ない。『Fortnite』や『VRChat』のような、すでに人がいるところに人が集まってしまう。そんな感じなので、BtoB領域のメタバースって縮小傾向にあって、「ゲームだけが勝ち筋なのでは」という空気があります。

 だからこそ、『Brave Engine』でバーチャル空間を作るだけでなく、「アバターとして、もう一人の人格として生きる」体験を多くの人に提供したいですね。だからこそ、最初の事業である「MEキャンパス」は非ゲーム領域である「教育」にフォーカスしています。

――『VRChat』などのソーシャルVRでは、全員がアバターとして存在していますが、そこには一般人と有名人の概念が存在します。「普通の人が“もう一人の自分”として生きている光景」を見ていると、BtoCでアバターを通した価値提供を目指そうという姿勢は、個人的にも共感するところです。

野口:『恋庭』というアプリをご存知ですか?  マッチングアプリのひとつなんですが、3Dアバターでマッチング相手といっしょに庭を作り、親交を深めていくというアプリです。あれが、僕の中でのメタバース事業そのものなんです。バーチャル空間で人と出会い、仲良くなって、やがてリアルでも会って、結婚に至る。リアルじゃないところで成り立っているんです。

 本質的にはリアルじゃないアバターとなって、“もう一人の自分”として発信し、交流できる面白さ。VTuberとメタバースは、それを「アバター側のビジネス」としてやるのか、「プラットフォーム側のビジネス」としてやるかの違いでしかないと思います。いうなれば「アバターtoC事業」というものなのかな、と。

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