小規模制作のホラーゲーム、台頭の理由は? 『ウツロマユ』の成功から見るユーザーの評価軸
なぜホラーのジャンルで小規模制作のタイトルが台頭しやすいのか
「少人数によって制作されたインディー発のホラー」というキーワードから、ゲームカルチャーに詳しい人ならば、類似する方向性で活動する“あるゲームスタジオ”を思い浮かべるかもしれない。アメリカ育ち・日本在住の2人の兄弟によって発足したChilla's Art(チラズアート)だ。2018年ごろよりゲーム制作をスタートさせた同スタジオはこれまで、ホラーのジャンルに特化し、20を超える作品を発表してきた。『Parasocial | パラソーシャル』や『Aka Manto | 赤マント』『Night Security | 夜間警備』などはその一例。2023年12月16日には、同年で5本目となるモキュメンタリーホラー『Jisatsu | 自撮』もリリースした。
特筆すべきは、その多くがユーザーから高評価を獲得しているという点。口コミからスタジオの評判を広げ、いまでは「Chilla's Art」の名がクレジットされていることがユーザーにとって作品を購入する理由ともなっている。おそらくNayuta Studioの活動、『ウツロマユ』の制作にも少なからず影響を与えているのではないだろうか。両者には、実況・配信の文化で取り上げられたことがきっかけで、さらに人気に火がついたという共通項もある。
ゲームカルチャーに多種多様なカテゴリが存在するなか、なぜホラーのジャンルで小規模制作のタイトルの台頭が目立つのか。その秘密は、同ジャンルが分類されるカテゴリであるアドベンチャー/ノベルゲームの特徴に隠されている。
アドベンチャー/ノベルゲームは、別名「紙芝居ゲーム」とも呼ばれている。3Dグラフィックやムービーといった現代的な見せ方を必要とせず、スチルとテキストという、ゲームにとってある意味で原始的な要素から成り立つことを指して使われる呼称だ。だからこそ、少規模での制作であっても全方位をカバーしやすく、むしろ携わるメンバーが少ない分、コンセプトが一貫するメリットさえある。歴史を振り返ると、のちにシリーズ化を果たすような作品が、発売当時は小規模で制作されていたという例も少なくない。2020年、13年ぶりのTVアニメ化が話題を呼んだ「ひぐらしのなく頃に」シリーズの第1作が、同人サークルから生まれたサウンドノベルであるという話はあまりにも有名だ。昔からアドベンチャー/ノベルゲームは、小規模制作でも勝負できる舞台として台頭したカテゴリだった。
そのような背景もあり、直近では大手ディベロッパー/パブリッシャーも、少規模の制作チームからアドベンチャー/ノベルゲームを発表し、一定の評価を獲得している。スクウェア・エニックスが開発・発売を手掛けた群像ミステリー『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』や、BA-KU開発・ANIPLEX.EXE発売のビジュアルノベル『ヒラヒラヒヒル』はその代表例だ。これらのタイトルはコンプリートまで10時間前後という、決して充実しているとは言えないボリュームでありながら、前者が1,980円、後者が2,970円(いずれも税込)と低価格で展開されたこともあり、ほぼ満場一致でプレイヤーに称賛される結果を手にしている。両作の成功は、ボリュームの多寡以上に「そこに素晴らしい体験があるか」「価格に見合う内容であるか」が重視されるトレンドを明るみに出した。『ウツロマユ』の成功もまた、そうしたユーザーの評価軸と地続きにあるものと言えるかもしれない。
また、恐怖感を味わえることが魅力のホラーのジャンルは、体験を共有する性質を持つ実況・配信の文化とも相性がいい。先述したとおり、Chilla's Artの各タイトルも同文化で取り上げられたことがきっかけで一躍界隈に認知され、人気作の仲間入りを果たした。『Shadow Corridor』なども同様の過程をたどりブレイクした作品としてよく知られている。有名ストリーマーのなかには、ホラーのジャンルだけに絞ってタイトルを選定している者もいる。
近年のゲーム業界では、Steamなどのプラットフォームを通じ、小規模で制作されたタイトルにもメジャータイトルと同等の販売機会が与えられている。おそらく今後も不定期的に、『ウツロマユ』のようなバックグラウンドを持つタイトルが界隈を賑わせていくのだろう。まだ見ぬ次の話題作が分類されるカテゴリもきっとアドベンチャー/ノベルゲームであると、私は予測する。
「制作規模やビジュアル、価格、ボリューム、広告費用のようなわかりやすい指標と、作品の価値・評価は相関しない」と示した『ウツロマユ』。このような作品も認められる土壌が残っているゲームカルチャーの未来は明るいのかもしれない。
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