『RTA in Japan』はなぜビッグイベントに成長したのか 根底にある“ゲーム愛”と不変の理念

 2016年にスタートし、いまや日本ゲーム界の一大イベントにまで成長した『RTA in Japan』。さまざまなジャンルのゲーマーたちが、磨き上げたRTA(リアルタイムアタック)の腕を披露する祭典は、今冬も『RTA in Japan Winter 2023』が12月26日〜31日にかけて、ベルサール飯田橋ファーストにて開催される。

 リアルサウンドテックでは『RTA in Japan』を黎明期から支え続け、「一般社団法人RTA in Japan」理事を務める中村圭宏氏へのインタビューを実施。『RTA in Japan』の歩んできた道のりや理念、そしてこれからRTA視聴者となる人たちへのメッセージなどを聞いた。(片村光博)

僕たちはあくまで「ゲームを愛してる」という大前提のもとにやっている

――『RTA in Japan』は現在、日本ゲーム界を代表するイベントとして認知されています。立ち上げからこれまでの歩みを教えていただいてもよろしいでしょうか。

中村圭宏(以下、中村):まず、2016年の冬に第1回を始めました。そのときは「秋葉原ハンドレッドスクエア倶楽部」さんが会場で、僕は運営ではなくひとりの走者として参加していました。そこから年2回、夏はオンライン、冬はオフライン会場で開催しようとなっていたんです。2017年から2019年まで続いて、2020年からの2年間は新型コロナウイルスの流行によってオンラインのみになったんですが、2022年からは再び会場を借りることになり、そのときに青山の「note place」さんで開催することになりました。

 コロナ禍明けということもあり、オフライン開催には不安要素もあったので、福岡でLANパーティを開催されているGateさんからお声掛けいただき、福岡シーホークで『RTA in Japan ex #1』を開催して「大丈夫だね」と運営体制の確認をしました。その後は夏、冬とnote placeさんで開催してきましたが、今回はより広い会場での開催を考えたため、ベルサール飯田橋ファーストにて開催する運びとなりました。

 会場が大きくなってきましたが、僕たちもここまでの規模になるとは思っていませんでした。2019年の『RTA in Japan』のときに、どのタイトルかは覚えていないんですが、一気にバズったんです。運営側としては、いかにつつがなく終わらせるかを考えていたんですが……(笑)。その後のコロナ禍で視聴者数が爆発的に増えたというのもありますね。

――さまざまなきっかけを経て知名度が高くなっていった結果、ゲームファンの間で広く愛されるコンテンツとなっています。

中村:家で過ごす方が増えたこともありますし、お盆と年末の時期を楽しく過ごすためのコンテンツとして「こんなイベントがあるんだ」という感覚で見始めた方も多いのかと思います。僕たちとしては、あまり「大きくしたい」という考えではなくて、「こういう遊びもある」「こんな形で社会貢献ができる」と示すことを目標にしてきました。2020年には一般社団法人を設立しましたが、役員報酬もなく、社会貢献を目指すことを第一にやっています。

――役員報酬ゼロでの運営には苦労も多いかと思いますが、それでもポリシーを貫く理由を教えてください。

中村:イベントの成り立ちとして、アメリカの『Games Done Quick』(GDQ)がベースとなっているんですが、GDQは完全チャリティーでやっているんです。そこに準ずる形で、僕らは「日本でもやろう」と取り組んできた経緯もあります。まずはそれぞれが個人の生活をしたうえで、『RTA in Japan』の運営は役員報酬ゼロでする、という形ですね。

 それに、僕らが運営しているという意識ではなく、ボランティアで手伝ってくださる方の人数が多いので、そのなかで僕らだけが役員報酬をもらうのはおこがましいですよね。そういう面も含めて、チャリティーにした方がいいと思っています。

――いまでこそ違いますが、一昔前までは「ゲームなんて」という見方も強かったなか、ゲームイベントで社会貢献ができるというのは大きな意義があったのではないでしょうか。

中村:たしかにそういった側面はありますね。いまではゲーム配信でスーパーチャットなんかも当たり前になってきていますが、『RTA in Japan』が始まった7年前にはそういったものもほとんどなかったし、そもそもお金を稼ぐという方向に行くこと自体がなかったんです。僕たちはあくまで「ゲームを愛してる」という大前提のもとにやっていますし、だからこそ走者のみなさんもそれぞれやりたいゲームを突き詰めて、極めている。

 RTAは好きじゃないとできないですよね。普通の人が見たら「え、なにしてんの?」と思うことをやっていますから(笑)。たとえば『スーパーマリオ64』なら、階段を逆向きでジャンプしてワープする、いわゆる“ケツワープ”(※1)ですよね。世界中のいろいろな人がテクニックを発見して、フィードバックして、そしてやっぱり楽しんでいる。ゲームメーカーからすると想定していない遊び方ではあると思うんですけども、それもひとつの遊び方として捉えてもらえれば1番いいのかなと思います。

スーパーマリオ64 - RTA in Japan Summer 2023

 いろいろな遊び方を楽しんでもらうという、『RTA in Japan』のスタートにある理念は、かなり実現できてきたと思っています。いまはチャリティーイベントとして寄付ができるようになったうえで、RTAを楽しむ文化も根付き始めています。最初は「どういうふうに寄付するの?」「これでチャリティー?」と言われることも多かったんですが、続けることによって認知され、社会貢献ができるようになっています。結果的に“継続は力なり”というふうにできているんじゃないでしょうか。

※1 『スーパーマリオ64』のバグ技を使った移動方法。同タイトルのRTAにおいて用いられることが多い。

――イベントが大きくなるなかで、なにか運営側の変化はありましたか?

中村:基本的に最初から同じスタイルです。規模が大きくなったとはいえ、僕らはあくまでもコミックマーケットなどと同じコミュニティイベントという認識なんですよね。商業イベントにする気はまったくありません。コミュニティが集まって、そのなかで盛り上がる。そこに興味を持った人がまた「こういう遊び方あるんだ。じゃあやってみよう」となればうれしいですし、『RTA in Japan』として考えているのは、まず興味を持ってもらって、RTAという遊び方があることを知ってもらうということ。7〜8年やってきて、成果は出ているのかなと思います。

――実際に『RTA in Japan』を見て、走者になるという方も多いですよね。

中村:走者として出られた方は、ほとんどみんなが誰かのRTAを見て「すごいな」と思って始めたという方たちなんです。日本だけでなく、海外でやっている人を見て「やってみよう」となる人も多いです。僕も走者ですが例外的なパターンで、「こういうことやったら面白そうだな」と思って、友人同士の「早くクリアしようぜ」というノリでRTAを始めたんですが、RTAは思っていたよりもコミュニティとして大きいと感じました。もちろん、ゲームタイトルによるところはあって、マリオやゼルダのような任天堂作品が強かったりはするんですが、RPGでも最近のビッグタイトルでは『FINAL FANTASY XVI』でパターンを組んでやっている方も海外にいらっしゃいます。どのタイトルをどうプレイするかは人それぞれですし、すべてを把握できるわけではないんですが、全体としてコミュニティの人数が増えているのは間違いない。ゲームの数だけプレイヤーがいる、というイメージですね。

RTA in Japan 2020: ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド

――ゲームによってそれぞれ方向性がまったく違う印象です。

中村:そうなんですよ。ルールについても、プレイしている人たちのなかで「こうしよう」となっていますよね。僕も実際にルールを決めたことがあるんですが、どこをスタートにして、どこを終わりにするのかを決めないといけなくて、日本と海外でも違いがあるんです。日本はエンディングを全部見て終わり、ということが多いですし、昔のニコニコ動画からやっている人たちは電源を入れてからスタート、ということが多いんですが、海外では基準が違います。たとえば、スタートはタイトル画面でゲームスタートを押してからとか、ゲームによっては画面が切り替わって操作が始まってからとか、それぞれゲームによって違いますし、どこで終わるかももちろん違います。ゲームによって本当に差があるので、ルール作成はそれぞれのゲーム次第ですね。

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