歌広場淳の中で変化した“格ゲーへの向き合い方”と、救われた「逃げんなよ」の言葉

カプコンは「こうなったらいいのにな」を本当にやってくれる

 ここまで『スト6』が盛り上がるとは、誰も予想していませんでした。ただ、昨年末にβテストがあって、「すごいぞ」ということは格闘ゲーマーみんなが感じていたことだと思います。YouTubeやSNSでの反響を見ていても、「来年はすごいことになるぞ」と。だからこそ、僕も「早くみんなと一緒にやりたいな」とあらためて思ったところでもありましたね。実際の盛り上がりは、予想以上のものになっていましたが……。

 『スト6』では、「モダンタイプ」の導入も大きなトピックでした。僕が過去に言ってきたことのひとつに「実力に差があるふたりが戦うためには情けが必要だ」ということがあります。必要なのは愛情なり友情なりであり、どちらも「情け」という言葉がつくから、こう言ってきました。でも、それって“強者の言い分”なんです。挑戦者側は、そんなことは別に考えていないですから。そこにモダンタイプが現れた。格闘ゲームの新しい姿なんだと思います。

 モダンタイプを使えば、格闘ゲーム本来の醍醐味、読み合いのおもしろさのところまで、すぐ行けるんです。これってめちゃくちゃいいことですよね。お箸を使えなくても、スプーンとフォークとナイフでちゃんと食べれたらいい、みたいな。そういう時代なんでしょうね。プロ選手もモダンタイプを普通に使いますし、現代において難しい練習は流行らないのかもしれません。

 もちろんモダンタイプに対して批判的な声があることも知っています。たとえば、「広告」が“良い”か“悪い”かは、それ自体で測ることは難しくても、結果的にユーザーが増えたなら「良い広告」と言えますよね。モダンタイプの場合はシステムですが、その新システムはユーザー数を明らかに増やしています。その目的を達成しているんだから、「良いシステム」と言っていいんじゃないでしょうか。

 CRカップではウメハラさんが劇的な優勝を果たして、初心者のプレイヤーもおもしろい試合を見せてくれました。すごく豊かなゲーム体験だったと思うんです。『スト6』の豊かさが垣間見えたし、これからもっと見えてくるんじゃないでしょうか。『EVO2023』では、配信された試合で盲目のプレイヤーが目の見えるプレイヤーに勝つこともありました。これを可能にしたサウンドアクセシビリティというのは、それまででは考えられなかったことですし、カプコンはどこまで先を行っているんだろうと思いました。

 「こうなったらいいのにな」というのを、本当にやってくれるという安心感があるんです。「ここまでやってくれる会社の作るものなんだから、絶対にいいものだ」という信頼と言いますか……。とにかく、このタイミングで『スト6』をプレイすることができて、感謝してもし切れないくらいですね。

 それに、これからも『スト6』にはいろいろな可能性があると思います。この前、リアルサウンドさんで初めて対談して以降、仲良くさせてもらっているミートたけし(川村竜)さんとリアルイベントを開催したんです。80人くらいのお客さんが集まった会場で、9割は女性だったんですが、『スト6』のトーナメントを開くことができたんですよ。オフラインでだけ使えるダイナミックタイプ(※3)を使用していて、プレイしている女の子たちは、なにが起こっているのかわけが分からないんだけど、ボタンを押したらなにかが起こっている。これって、ゲームの原体験というか、一番根底にあるものですよね。

※3 ボタンを押すとAIが適切な行動を入力してくれる操作タイプ

 80人くらいの女の子が格闘ゲームで対戦しているなんて、ほぼ誰も想像したことがなかったと思うんです。でも、誰かひとりが想像していたかもしれない。そんなことが実現している。だからウメハラさんが「国技館に1万人呼びたい」というのも、すぐではなくても、いつかは実現するんだと思います。そのなかで、僕もプレイヤーとして楽しみながら貢献していきたいですね。プロではないからストリーマーに近いけど、ストリーマーでもないという、自分の立ち位置を最大限に活用していきたいです。

 そのなかで、いま考えていることがひとつあります。実はオフラインイベントに来ていた女の子たちのうち、15人くらいから「スト6を買ってプレイしています」と報告があったんです。格闘ゲーム業界では、誰かのファンのことを「◯◯ガール/ボーイ」のように呼ぶ習慣があり、僕のファンは「歌ガール」と呼ばれているんですが、歌ガールたちが強くなって活躍すると、勝手に僕の株が上がる(笑)。だから、歌ガールたちをより魅力的なプレイヤーにしていきたいと思っているんです。

 もちろん、僕はプロじゃないので、コーチングしたりとかではないですが、僕が一生懸命プレイしたり、楽しそうにしていたり、良い内容の試合をしたりしていたら、それが『スト6』を買った歌ガールたちの心の中に残りますから。そこからプレイヤーとして成長していくことが、想像できるんです。

 いまは2人ほど、可能性を感じる歌ガールがいるんです。「この子、強いんだけど!?」みたいな子がいるので(笑)、「配信してくれないかな」と思っています。もしそのまま強くなって、EVOの本戦に出るまでになったりしたら、もはやひとりの強豪プレイヤーですし、ファンとかは関係なく勝負してみたいですよね。

 イベントに来る女の子たちはさまざまな職業、さまざまな年齢で……イベント後にはご飯を作って、明日の朝には子どもを送っていくみたいな人もいるんですよ。昔は、「どうしたら女の子に格闘ゲームをプレイしてもらえるんだろう」と考えていたと思うんですが、こういう形でプレイヤーを増やすのは、僕だからこそできることでもあります。

 これまでは握手会やトークイベントだったところに、僕にはゲームイベントという新しい軸ができたということは、本当にうれしいですね。今後もオフラインイベントは継続していきたいと思っていますし、来年以降もゴールデンボンバーの活動と並行する形で、僕を支えてくれる方々とのコミュニケーションの場を作っていきたいと思っています!

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