“乳酸値の増加地点”を測って自分だけのランニングメニューをつくろう!

「汗乳酸」と「心拍数」からLT値を割り出す

 LT値の計測に使用するデバイスは2つ。まずひとつ目は、「汗乳酸」を計測するこちらのデバイスだ。

 先端の黄色い部分を上腕の肌に密着させることで、汗から乳酸を計測できるようになっている。

 2つ目は、心拍数を計測するこちらのデバイスだ。これは耳に装着して計測を行う。

 この2つを装着し、時速6kmの速さでランニングを行う。時速6kmは早足で歩ける程度の速度だ。1分ごとに速さが0.5kmずつ上がっていき、きついと感じるところまで走って、心拍数を計測していく。

 走っている途中で「主観的運動強度表」というものを提示されるので、いまどう感じているかを番号で答えていく。6〜7あたりは非常に楽である、8〜10あたりはかなり楽である、11〜12あたりが楽である、13〜14あたりがややきつい、15〜16がきついとなっている。だいたい12〜13のあたりで乳酸が急激に上がることが多いらしい。

 ちなみに、自分の心拍数を表示しながら走るため「いや、全然キツくないです」なんて嘘はすぐにバレてしまうので、見栄を張らないことをおすすめする。170というのはかなりの心拍数。

「はるまきさん、猫背ですね」

 ほぼ初めて扱うランニングマシーンに気を取られ、意識をまったく向けていなかったところを指摘されてしまった。「普段デスクワークが多いんですかね? 猫背だと腕を横に振ってしまい、体が外に開いてしまいます。前に進みたいはずなのに、肩が揺れて無駄にエネルギーを消費してしまうんですよ」

 上体の姿勢が悪いと、足の怪我にもつながってしまうそうだ。実は筆者も最近ランニングを始めたのだが、右膝が少し痛かった。見事に岩本さんの推測は的中している。猫背のみなさんはぜひ意識してみてほしい。

LT値からわかる「自分だけのマラソンペース」

 こちらが筆者の計測結果だ。

 あなたのLTペースというのが『7分14秒/km』。筆者の場合、乳酸を溜めずに走り続けられるペースが、1kmあたり7分14秒の速度であるということだ。この状態で走れば、フルマラソンの完走タイムは5時間5分13秒と予測される。

 適正マラソンペースのほかにも、疲労回復ペースや能力改善ペースなど、さまざまなケースの速度も算出されている。

 さらに、岩本さんにLT値について詳しく解説してもらった。

 「筋肉にはおおまかに分けると速筋線維と遅筋線維があります。速筋線維は瞬発的な力を出すときに使われる筋肉です。ダッシュをしたり、重たいものを持ち上げるときなどですね。遅筋線維は、軽いジョギングや長距離走るときに使う筋肉です。そしてLT値を超える速度で走ると、速筋繊維の使われる割合が高くなります」

 「速筋線維は“糖質”、遅筋線維は“脂質”を消費してエネルギーを生み出しています。だから、速筋線維を使い続けると糖質がどんどん消費されていくのです。体内に溜めておける糖質の量は限りがあるため、速筋線維を使い続けるとエネルギー切れになってしまいます」

 走る速さによって消費されるものが変わることを初めて知った。では、筆者が「7分14秒/km」で走り続ければフルマラソンも完走も夢ではないということだろうか?

 「理論上はそうですね。フルマラソンを完走するには糖質エネルギーを温存しながら走ることが重要で、そのためには、LTペースを守る事が必要となります。ただ、あくまでこれはエネルギー理論上の結果です。筋肉不足による怪我などのケースは含まれていないので、トレーニングは必要になります」

「また、フルマラソンの場合コース上に登り坂があったりします。ほかにも天候や体調なども左右してきますので、あくまで指標のひとつと考えてください」

 LTペースは、完走を目指すための材料ということがわかった。筆者はフルマラソンについてそこまで知識がないのだが、フルマラソンには「30キロの壁」というものがあるらしい。

 「『30キロの壁』というのは、フルマラソンを走ったときにペースダウンしやすいタイミングのことです。原因としては、先ほど解説したエネルギー切れですね。LT値をオーバーした速さで走り続けると、体内の糖質を使い切ってしまうんです」

 脂質を使ってうまく温存し走り切るためにも、LT値は重要になってくるのだ。

 こちらが、筆者のマラソンメニューである。計測日から4週間分のメニューが記載されている。1週目のメニューに注目してみると、週間距離が23kmとなっている。だが、記載されているメニューは15km分だ。残りの8kmはどうしたらいいのかについて聞くと、速度の指定がない距離については自由に走っていいとのことだった。

 「適正マラソンペースばかりで練習してしまうと疲れが溜まってしまうので、1週目は疲労回復ペースというのを、ときどき混ぜています。その後は能力改善ペースを混ぜながら、LT値の向上を目指すというマラソンメニューになっています」

 LT値を伸ばすためには、ひたすら走るペースを上げていくものだと思っていた。だが、トップランナーもLT値を下回る速度を挟みながらトレーニングをしているとのことだ。適度に筋肉を休めながらトレーニングをするのが、上達の道らしい。

 「運動をすると、運動強度に応じて右肩上がりに上昇していきます。ですが、乳酸というのはある一定のペースに到達すると急激に上昇するんです。そのポイントがLT値になります。トレーニングをすることによって、このポイントを少しずつ強度の高い数値にずらしていくんです」

 いまのところ私のLTペースは『7分14秒/km』だが、マラソンメニューを続けたら少しずつこの数値も変化していくのだろう。

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