ルビコン川を渡る勇気はあるか? 『AC6』のストーリーで問われるのは一線を越える理由と覚悟

 「アーマード・コア」の新作『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON(以下、AC6)』が、8月25日にフロム・ソフトウェアから発売された。辺境の開発惑星・ルビコンを舞台に、コーラルという物質をめぐってさまざまな勢力が入り乱れるなか、プレイヤーはハンドラー・ウォルターのもとで独立傭兵としてルビコンに侵入。コーラルを見つけるために行動する。というのが本作のあらすじだ。

 約10年ぶりのシリーズタイトルということで、2013年の「ARMORED CORE VERDICT DAY」からずっと待ち望んでいたファンも、「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」や「ELDENRING」といった最近のフロム作品から入った人も今頃、楽しんでいるのではないだろうか。

 本稿では、そんな『AC6』の物語にあるテーマを考察。その内容をお届けしよう。

※本稿は『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』のシナリオ、キャラクターに関するネタバレを含みます。

“賽は投げられた”や“ルビコン”から読み解れる本作のテーマ

 『AC6』に、ガイウス・ユリウス・カエサルにまつわる要素が込められているのは間違いない。カエサルは古代ローマの人物で、ローマ共和国の終身独裁官に就任した人物であり、その名前は暦やドイツ語の皇帝に使われるなど、歴史上でも指折りの有名人だ。

 『AC6』に存在する全3つのルートのうち、3周目以降から開放される分岐へ進むと、エンディングに到達した際に“賽は投げられた”という実績あるいはトロフィーが手に入る。賽は投げられたとは、軍団を引き連れてルビコン川を渡ったカエサルが言った言葉らしい。

 ルビコン川は、イタリア半島の根っこの部分に流れている川。当時のローマの規則では、ここを渡る際に軍団は解散されなくてはならなかった。規則を犯した後、内戦に勝ったカエサルは終身独裁官になるが、やがて暗殺されてしまう。

 転じて“ルビコン川を渡る”という言葉は、もはや引き返せないほどの重大な決断を下す、あるいは行動を起こすという意味の慣用句として今も存在する。そして、『AC6』の副題は“ファイアーズオブ「ルビコン」”だ。本作の物語は、カエサルのようにルビコン川を渡る覚悟を、プレイヤーたちに求めていると言っていい。

理由なき力の危険性を説いたラスティ

 物語終盤、巨大企業・アーキバスの依頼を受けて地下を探索している主人公に対し、アーキバス所属の精鋭“ヴェスパー部隊”のラスティが追跡・攻撃してくる。

 “壁”と呼ばれた難攻不落の要塞を突破、複数のACや大量の部隊を同時に相手取って勝利、“アイスワーム”と呼ばれる巨大な自律兵器の撃破など、この時点で主人公の力はあまりに大きくなっていた。

 企業勢力のアーキバスやベイラム、ルビコンへの密航を阻止する惑星封鎖機構、それらすべての勢力からの解放を目指すルビコン解放戦線など、本作にはさまざまな勢力が登場するが、主人公は独立傭兵。ハンドラー・ウォルターのもとで動いてはいるが、どこにも属さない個人である。作中でラスティが「突出した個人はもはや不要か」と言っているあたり、アーキバスにとって主人公は目に余る存在だったのだろう。

 一方のラスティはヴェスパー部隊の一員でありながら、その実態はルビコン解放戦線から送り込まれたスパイだった。作中ではとくにバレているような描写はなかったが、アーキバス側から警戒はされているような内容はいくつかあった。アーキバスの依頼を受けたプレイヤーがアーキバスの隊員に追われるのは不可解だが、強大な力を持った主人公と、不穏分子であるラスティ、このふたりを同時に陥れるという目的があったわけだ。

 ラスティを退けると、彼は「理由なき力ほど、危ういものはないぞ」といってその場から離脱する。一連のシーンが流れるミッション“未踏領域調査”は、これまでプレイヤーがどのようなミッションを選んできたかで内容が変わるのだが、ラスティと一騎打ちになる場合は、おもに企業からの依頼を重視してこなしてきた場合に限られる。

 ルビコン解放戦線の人間であるラスティからすれば、企業側の依頼ばかり受けている主人公は、物事の是非を自分で考えず、ただ誰かに使われるだけの存在として映っていただろう。そんな人物が情勢を覆すほどの力を秘めているのだから、ラスティが危惧するのも頷ける。

 なお、このミッションに至る前にルビコン解放戦線側の依頼をこなしていると、ここでの一騎打ちがミドル・フラットウェルという敵を交えた1対2に変化。フラットウェルはラスティを一度止めようとするのだが、その際の彼のせりふに「そいつは使われるだけの猟犬ではない」とある。主人公は企業や彼らの依頼を取ってくるハンドラー・ウォルターの操り人形であると、ラスティやほかの面々が捉えていたのは間違いない。

 話は進んで最終盤。道半ばにして倒れたハンドラー・ウォルターの遺志を継いでコーラルを焼き払うのか、コーラルから生まれた波形であり、ともにさまざまなミッションをこなしてきたエアを守るべく、ウォルターたちの陣営・オーバーシアに対抗するのか、プレイヤーは選択を迫られる。ここでウォルター側に付く場合、後に受けられるミッション“カーマンライン突破”で、再びラスティとの一騎打ちに。

 「ルビコンを脅かす危険因子」と言い放つラスティだが、同時に主人公が何かを背負い込んだことを悟り、強さの質が以前とは違うことを認める。すでに書いたように、この時点でプレイヤーはウォルターの遺志を継ぐため、代償としてエアと袂を分かった。これまでは使われる立場に終始していたが、自分で進むべき道を決めてなにかを選んだ。これがこのルートにおけるルビコン川を渡った証であり、そのときのプレイヤーの抱いた思いが、ラスティが求めた“理由”なのだろう。

関連記事