ゲームキャスター・岸大河、育ちつつあるeスポーツ“観戦文化”への思い「選手の背景や意図を汲み取ってくれたらうれしい」
今はまだ“バブル”。観戦ブームをここで終わらせるわけにはいかない
――ここからは岸さん自身のお話にもなるのですが、運営されている株式会社Protagonに篠原光アナウンサーが加入しました。篠原さん加入による変化をどう感じていますか。
岸:勉強することはたくさんあります。彼にしかない味があって、例えば小さなイベントとかでもお客さんに声をかけてその場を楽しませたり、オフラインの醍醐味をすごく大切にしている方です。テレビ業界の出身ですから、スタジオに観覧しに来てくださる方に、テレビでは見られない一面を見せたりする経験も生きているのかなと。「その場にいる人たちが楽しまなかったら誰が楽しむの」というくらい、すごく配慮してくださる方だと思います。ゲーム業界にそれが浸透するのかというと、またちょっと違ったアプローチが必要ですが、それでも彼の良さとして、そういった喋り方や言葉の使い方、表現力は得難いもの。彼のような嫌味のない姿は、すごく勉強になりますね。
――局アナ出身のキャスターということは、業界的にも大きなインパクトになっているのでしょうか。
岸:あるとは思うんですけど、僕も篠原もインパクトで売ろうという感覚ではありません。彼はこの業界でゼロから働くという気持ちなので、今日のステージ上で自己紹介するときに「元日テレアナの篠原です」という表現はしていませんし、僕もしないように伝えています。そういう部分でも、ゼロから自分で作り上げるという思いがこもっていると思います。
――篠原さんを含めたフルパーティでのVALORANT配信では、篠原さんが毎回、その場をすごく楽しまれていることが印象的です。
岸:彼は良い意味でオタク気質な一面もあリますね。彼が僕らから学ぶものが1つあって、それはゲームの考え方です。厳しく言うと……いや、厳しく言わなくても“甘い”んです。ゲームのプレイヤーへの理解とかではなく、対戦ゲームがどう考えられて作られていて、何がポイントでこの対戦が行われてるのか、一つの局面でどういう駆け引きが行われたのかというところへの理解が、VALORANTでもまだまだ薄いなと。そういったところをもっと詰めていかないと一流のキャスターにはなれないってのもありますし、僕もまだ一流とは思っていません。それくらい、世界のレベルは高いと思っています。もっとeスポーツに対する考えを身に付けてほしいというところですね。
――業界に入る前には分からない部分もありそうですね。
岸:はい。テレビにはテレビのやり方、ゲームにはゲームのやり方があります。対戦ゲームには対戦ゲームの考え方がありますし、そこは「教えよう」というよりは、いいアシストだけしようかなと思っています。
――所属キャスターが増えたことで、やれることの幅も広がってくると思います。これから挑戦したいこと、すでにトライしていることがあれば教えてください。
岸:例えば2人でラジオをやるということももちろん考えています。ちょうど4〜5年前から“地方創生”と言われるようになって、一般のお客さんを交えての交流が増えてきました。そこは僕よりも篠原が適任だなと思っています。地方に行ったとき、例えばお子さん相手だったら僕も娘がいるので対応できるんですが、おじいちゃんおばあちゃんや主婦の方など、ファミリー向けのイベントの場の回し方や配慮の仕方は、やはりキー局で学んできたことが発揮される部分だと思います。だからこそ篠原が適任だと思いますし、これからそういうイベントでも活動させたいですね。彼自身もさまざまな経験をしたいということで、VALORANTの実況はもちろん、今までにない活動を通して、とにかくいろいろなものに触れさせようかなと。なので、僕が受けてもいいけれども、篠原の方が適任かなというものは全部、任せようと思っています。
――少し話は戻るのですが、日本のeスポーツ観戦文化は今後、どのようになっていくと考えていらっしゃいますか。
岸:いつも言っていることではあるのですが、今はまだ“バブル”だと思っています。そのうち(人口は)減るでしょうし、どこかでVALORANTブームがほかのゲームに移ることもゼロではないと思います。それでも僕らは選手を推していく実況をしますし、昔と今、人気のあるなしにかかわらず、やり方は変わりません。移り変わりはあるものですが、観戦ブームをここで終わらせるわけにはいかないので、より皆さんに新しい体験をしてもらえるような施策を打たないといけないのかなとは思っていますし、僕の中ではまだ不安が続いているんです。今のオフラインイベントは、来て、見て、「わーっ」となって終わってしまう。もっと新しくて、皆さんに参加していただけるような、もしくは皆さんの観戦体験がより良くなるものにしていきたいですね。ただやって終わりではなく、感謝の意味を込めて、もっとファンサービスをしたりといった施策は必要なのかなとは思っています。
――最後に、ファンの方へのメッセージをお願いします。
岸:VALORANTだけではなく、今はさまざまなゲームで日本人が活躍しているので、いろいろな方向に目を向けてくれたらいいなと思います。ゲームもeスポーツだけじゃなくて、VRやメタバースなど、いろいろな種類があります。こうしたイベントをきっかけにゲームのコミュニティが広くなって、友達同士でゲームをやるきっかけをつかんでくれたらなと思っていますし、見ているだけじゃなくてぜひ自分でゲームをプレイしてほしいですね。
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