スイニャンが『Masters Tokyo』を取材して感じたこと “世界標準のeスポーツ”を見続けてきた多言語ライターのまなざし

世界標準の取材環境が日本にやってきた!

『Masters Tokyo』3位となったPacificシード枠・Paper Rex

 さて、ここからは完全にいちライター目線での話をさせていただきたい。日本のeスポーツが年々発展していく裏で、筆者がこれまで「まったく世界に追いついていない」と感じていたのが「取材環境」である。海外ではプレスルームに机、椅子、電源、インターネット回線が完備されているのが一般的だ。取材に訪れた記者は、プレスルームに設置されたモニターで試合を観戦しつつ記事を書く。ときには朝から晩まで続くような長丁場の取材でも、快適に過ごすことができる空間である。

決勝戦で惜しくも敗れ2位となったアメリカのEvil Geniuses

 一方、日本ではプレスルーム自体がないことも珍しくない。昨年さいたまスーパーアリーナで行われた『VCT 2022 Challengers Japan Stage2』の決勝でさえ、メディアに提供されたのはアリーナの関係者席のみであった。ところが今回は、世界標準のプレスルームがしっかりと用意されていた。

作業環境が一通り揃ったプレスルーム。この背後と写真左手にも大型モニターが設置されていた

 また今回は、撮影環境も素晴らしかった。ステージを取り囲む柵の前まで行くことができたのは、世界標準の環境と言って差し支えが無いだろう。じつは日本だと、お客さんの邪魔にならないよう後方から撮影するよう指定されるケースが多い。

 とはいえ、同時に今回の『Masters Tokyo』の撮影環境は、決して100点満点とはいえなかったとも感じる。最終日、Fnaticの優勝が決まる直前にファンが会場前方に殺到し、ステージの柵前で待機していたメディアが興奮した群衆に巻き込まれ、危険にさらされたからである。

 筆者がいたあたりでは、屈強な外国人警備員が倒れかけの柵を支えてくれて事なきを得たが、一歩間違えれば韓国・梨泰院で発生したような雑踏事故にも発展しかねない状況であった。警備や安全対策に関しては日本はかなり優秀だと思うので、海外の良い点と日本の良い点を上手く取り入れて、日本のみならず世界規模で今後改善してもらえることを期待している。

Boaster選手がカメラを向けている報道陣に気づいてポーズしてくれるほど距離が近い

『Masters Tokyo』に集結した各国のメディア

 最後に記録がてら、『Masters Tokyo』を訪れたメディアについても書き残しておきたい。もちろん一番多かったのは日本のメディアであり、ゲーム関連のWEBサイトはもちろん動画サイト、テレビ局、新聞社、ビジネス誌など多方面から取材陣が集結。さらに日テレのeスポーツ番組『eGG』からA.B.C-Zの五関晃一さんが決勝戦の取材に訪れていたり、中国で活躍中のドキュメンタリー監督・竹内亮さんがグループステージで中国チームを取材していたりと、普段なかなかお目にかかることのないような方々をプレスルームで拝見したのはとても不思議な体験だった。

各国メディアの記者たちと記念撮影

 海外メディアのなかで一番多かったのは、韓国だったと認識している。韓国はeスポーツ文化が20年以上前から定着しており、取り扱うメディアが多いことにくわえて、地理的にも近いことや、90日以内の滞在であればビザが不要なことなど、さまざまな条件が重なった結果、15名近くの報道陣が駆けつけた。同じぐらい多かったのが中国メディアなのだが、ビザの期間が15日間ということでほとんどのメディアがなんと決勝戦当日に帰国してしまった。中国チームへの取材が中心の日程で、決勝戦よりも開幕戦に重きが置かれた結果と言えるだろう。

 その他の地域は1〜2名ずつといった感じだが、インドネシアやシンガポール、アメリカやヨーロッパなど勝ち進んだチームの地域のメディアがしっかりと取材をおこなっていた。少し驚いたのが台湾、インド、フィリピンなど、今大会に出場していない地域のメディアも会場を訪れていたこと。想像をはるかに超えて、世界中の人たちがここ日本に目を向け、それぞれの言語を通じてこの『Masters Tokyo』を楽しみ、一大イベントとして報じているのだ。世界大会が開催されるということはこういうことなのだと、改めて実感させられた。

 最後に、リアルサウンドテック編集部でも当日筆者とともに取材した三沢氏がレポート記事を掲載しているので、そちらもあわせて是非ご覧いただきたい。

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〈VCT Brand Logo:2023 Riot Games, Inc. Used With Permission〉

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