連載:エンタメトップランナーの楽屋(第六回)

「アイドル」大ヒットの鍵や、アーティストの活動に寄り添うための"意思統一”の重要性 FIREBUG 佐藤詳悟×YOASOBI プロデューサー屋代陽平対談

「アイドル」の大ヒットに寄与した“映画館での先行上映”

ーーYOASOBIは小説×音楽というコンセプトをベースに、作家とのコラボレーションやアニメのタイアップなど、曲にプラスして2乗、3乗してさらに盛り上げていくスタイルだと思うんです。そう言う意味では、誰とどのタイミングでやるかなどは意識していますか。

屋代:そういう意味では小説×音楽もそうですが、全て掛け算でしかないんですよね。アニメのタイアップの際も、どれだけ相手側に寄り添えるかだと思うんです。『【推しの子】』は本当に心中するくらいの気持ちで作り切ったからこそ、今の結果に結びついています。

 そういう成功事例があると、たとえば、別の作品や企画のお話をいただいたときに「タイアップする場合は、こういうことをしてください」と相手側にオーダーを入れやすくなるんですよ。思うに、ただ掛け算しても2乗、3乗にはならなくて、さらに最大化させる意味では、最初の段階から半ば無理なお願いをし、いろんなことをやっていただく。その分、こちらも頑張りますねという合意を取っていくのを意識しています。

佐藤:『【推しの子】』に関しては、1話先行で90分の映画上映のプロモーションをすると聞いたときに、初動に全てをかけようと。最初から山を作れるようにパワーをかけたら、一気にチャートインして世の中を賑わすような結果になったという感じです。

佐藤:本当に1時間くらいで世の中の流れが変わった感じがします。

屋代:よくあるアイドルのサクセスストーリーだと思って映画を見ると、どうやら違うらしいと。いい意味で、期待を裏切られた感というか予想もしない展開に、じわじわと口コミが広がって。その一方、我々も初動に合わせていたので、「アイドル」にも『【推しの子】』の世界観が伝わるような工夫を凝らしていました。

 MVにはエモいシーンを散りばめつつ、いつものYOASOBIとは様子が違う曲の雰囲気が伝わるように意識しました。それに加えて、アイドルが自分で踊ってみるとか、自分の推しがいる人は切り抜きを作るなど、また別のカルチャーにも広がっていったことで、爆発的なムーブメントになっていったんです。

佐藤:なにが先だったんでしたっけ。ほぼ同じ時間にすべて公開した感じですか。

屋代:時系列で言うと、まずは映画館です。

佐藤:ええ、映画館でもやっていたんですか?

屋代:そう、これもちょうどいい塩梅で、映画館で上映されることは『【推しの子】』のファンくらいしか知らないことだったんです。他方で、映画館ではYOASOBIの新曲が聞けるということで、『【推しの子】』とYOASOBIのファンが映画を観に来るという形に最初はなりました。

佐藤:なるほど。そこでコアとコアがぶつかったというわけか。

屋代:このときには双方で、「『【推しの子】』のアニメやばい」、「YOASOBIの新曲やばい」という状態にはなっていました。その1ヶ月間を経て、4月12日の0時にYOASOBIの新曲「アイドル」配信、23時に『【推しの子】』の第一話がアニメで放送され、24時半に「アイドル」MVのプレミア公開という時系列でした。そして夜が明けたら、YouTubeで100万回再生されていて。そこからは周知の通り、瞬く間に広がっていった状況です。

佐藤:まるで映画を見てるようですね。加えて、コアな層を喜ばせることの重要性を感じます。

ーー最後に、屋代さんがYOASOBI含め、チームとしてやっていくこと、プロジェクトとしてどういう風に膨らませていきたいかについてお聞きしたいです。

屋代:先ほども少し話しましたが、会社でやっている以上、継続していく仕組みにはしたいなと思っています。YOASOBIのチームとしても、YOASOBIが所属するアーティストのマネジメントチームもそうで、それらはレイヤーが違いますけど、どういう形で存続していくのがベストなのかが大事だと考えています。

 フットワークが軽く、かつチームの横の繋がりも強い。そのトータルで大きくなっていくのが理想ですね。

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