メタバースが“知見交換の革命”をもたらす? 「理系集会」運営スタッフが語る、学術交流の新しい形

メタバースがもたらす、学術交流の新しい形

 『VRChat』には「集会」と呼ばれるイベント形式が存在する。文字通り、人が集まるイベントであり、目的はそれぞれ異なる。たとえば、同じ作品が好きな人同士で語りあったり、同じアバターを使っている人同士で衣装の組み合わせや改変の例を見せあったりする。

 そのなかのひとつに、「理系集会」と呼ばれるイベントが存在する。月末の金曜日に開催されているイベントで、22時から23時までを交流の時間とし、23時からは講演の時間となる、理系の人や興味のある人向けの集会だ。過去には東京大学・稲見昌彦教授も登壇しており、その活動実績から「国立研究開発法人 科学技術振興機構」からも後援を受けている。

第13回VRC理系集会特別講演「メタバースを未来の研究室に」

 今回はそんな「理系集会」のスタッフであるKuroly氏とヒノリデ氏にインタビューを実施。「理系集会」の掲げているミッションから、講演会や理系の人びとが集まる場として『VRChat』を活用することのメリットまで、バーチャル空間における学術交流について掘り下げた。(東雲りん)

コロナ禍で学術研究における「知見交換の停滞」が課題に

ーーまずは、「理系集会」の掲げるミッションについて教えてください。

Kuroly:「理系集会」のホームページにもあるとおり、「日本の科学技術をけん引する研究者の学術交流に寄与すること」がミッションとなります。コロナ禍で研究者が交流できなくなったことをきっかけに、バーチャル空間を使い、Web会議ではできないようなバーチャルを通じた対話を行うことで、自分たちの新しい知見をつなげる場所にしよう、というのが「理系集会」を現在の目標です。

ーーやはり、コロナ禍で研究者同士のコミュニケーションはかなり減ったのでしょうか。

Kuroly:コロナ禍になって1年が経過したころに、文部科学省が科学者向けのアンケート調査をおこなったんですよ。その中で、「知見交換の停滞」ーー研究者同士の交流が減っていることが大きな問題として挙がっていたんです。

 研究者は、アイデア勝負の世界なんです。自分たちの頭の中で理論を組み立てながら新しい発見につなげていくには、1人で机に向かうだけでは上手くいきません。新しい発想というのは、さまざまな研究者と意見交換する中で生まれるところが大きいと言われています。

(出典:文部科学省「新型コロナウイルスによる学術研究への影響及び支援ニーズに関するアンケート結果」)

ーーオンラインの交流という観点では『Zoom』などのツールがありますが、その中で『VRChat』というソーシャルVRを活用することについて、どういったメリットがあるのでしょうか。

ヒノリデ:学会の懇親会を『Zoom』でやったこともあったのですが、多人数通話って結構しんどいんですよ。リアルの懇親会では広い会場ということもあり、みなさんが同時にさまざま会話をしているんですよね。『Zoom』では、その雰囲気を再現するのは難しいと感じるところではあります。

ーーたしかに、同じ場を共有しながら、小さな対話がいくつも生まれるみたいなシチュエーションは、『Zoom』のシステムを考えると起こりづらそうです。

ヒノリデ:一方で、『VRChat』であれば、「理系集会」に限らずいろんな会話の輪がポンポンと生まれるんですよ。それぞれが自由に会話できるので、リアルの懇親会に近い、対話の状況が作りやすいんです。『VRChat』は参入障壁が少し高いですが、メタバースで学術交流が実現すれば、それはリアルと同じような状況で会話ができると思っています。

Kuroly:それから、アバターによって心理的な障壁が本当に下がるんですよ。ファーストインプレッションがすごくいい状態で始まるのが、アバターを介した交流の最大のメリットだと僕は思います。リアルやオフ会から始まっていたらこんなにも仲良くならなかっただろうなってことが本当に何度もあったんですよ。

 僕自身、「理系集会」を通じていろんな大学の先生と話す機会を得られましたが、『VRChat』で仲良くなってからリアルで「オフ会」を開催して会うという機会もありました。

ヒノリデ氏(左)、Kuroly氏(右)

ーー『VRChat』には「理系集会」以外の学術コミュニティも発展しているのでしょうか。

Kuroly:増えていますね。「理系集会」みたいに幅広い分野の人が集まって喋るというよりは、データサイエンティストや生物学というような、専門の分野で集まる場所がどんどんできている感じです。

ヒノリデ:Kurolyさんが紹介したのはオープンな場ですけども、クローズドなコミュニティもできています。たとえば、僕もプライベートで勉強会を開いていますし、さまざまなワールドでスライドを公開するシステムも構築されていたり、ホワイトボードを使わず空中でペンを出して説明できたりと、『VRChat』内で勉強会がしやすい環境が整っています。

ーーそうした専門分野に特化した場やクローズドなコミュニティも増えるなかで、「理系集会」が目指す方向性と、学術コミュニティにどのような発展を期待しているかを教えてください。

Kuroly:「理系集会」としては、『VRChat』内外の研究者や研究に関わる人が「理系集会」をハブとして利用していただくことで、さらに専門性が高いイベントに参加する足がかりになれたらと思います。専門領域でも、あるいは融合領域でもどんどん盛り上がってもらえれば嬉しいですね。

 僕個人としては、アカデミアの世界に電話、Web会議に次ぐ“第3のツール”として「VR」が広がればいいなと考えています。わざわざ東京や北海道のような学会会場に集まらなくても、いつだって誰だって、今すぐにでも異分野同士での学会や懇親会が開けるわけなんですね。これは正直、知見交換の革命だと思っていて。いずれはアカデミアの中で「VR」が当たり前に使われる社会を待ち望んでいます。

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