『Apple Vision Pro』を過去のテクノロジーから読み解く(ソフトウェア・ハードウェア編) 集大成と呼ぶべき基幹技術の結晶

Apple Watchから引き継いだ数々の意匠と空間オーディオの搭載

 Vision Proはホームビューの調節を行うスイッチとして「デジタルクラウン(Digital Crown)」を備える。デジタルクラウンはApple Watchの「竜頭」のパーツとして初めて採用されたインターフェースで、このほかに『AirPods Max』にも搭載されている。

 Apple Watchに搭載されているテクノロジーがこうして別の用途に活用されている事例はほかにもあり、「タップティックエンジン(Taptic Engine)」がそれだ。これは重りを動かすことで振動を発生させるエンジンで、Apple Watchが「腕を叩くような感覚」を創出しているほか、MacBookシリーズのトラックパッドやiPhoneのホームボタンの「クリック感(押した感覚)」を作るのに使われている。

 また、Vision Proは無接点給電を採用しているが、この「接点のない充電ケーブル」を初めて採用したのもApple Watchだ。おそらくVison ProもApple Watchと同じように電磁誘導方式での給電を行うものだと思われる。

 音響について見ていくと、Vision Proには空間オーディオの再生機能がある。この機能はiMacやAirPodsなどの製品ですでに実現しているが、Vision Proの空間オーディオはさらにリッチだ。サウンドをパーソナライズするだけでなく、周囲の空間を分析して音響を最適化する「オーディオレイトレーシング」機能が搭載されている。似た機能として思い浮かぶのは、HomePodの「室内検知テクノロジー」だろう。これはスピーカー本体が特殊な音を出力し、その反射を捉えることで空間を把握し、環境に応じた最適な音を出力するというものだ。

 また、昨年リリースされたiOS 16に搭載されている「パーソナライズされた空間オーディオ」も近しい。これはiPhoneのTrueDepthカメラで左右の耳の画像を撮影して、AirPodsなどの対応イヤフォンのサウンドをユーザーの耳の形に最適化する、というもの。TrueDepthカメラというハードウェアによって、ユーザーに合わせてソフトウェアを最適化する試みであり、ここにもAppleの眼差しが光る。Vision Proの発表も合わせて見ると、「ハード・ソフト両面からのアプローチによって、あらゆるユーザーに最適な音響体験を提供すること」をアップルがいかに重要視しているかがわかる。

 ここまでVision Proの発表をとおして、Appleが手掛けてきたOSや各種ソフトウェア、ハードウェアの意匠、音響のテクノロジーについて駆け足に語ってきた。Vision Proには他にもApple Siliconプロセッサや小型高解像度のOLEDディスプレイなど、ここまでAppleが手掛けてきた魅力的なテクノロジーが詰まっており、語り尽くせていない部分は多々あるが、ひとまずはここまでを、“Vision Pro第一報”の掘り下げとしたい。来年にかけて新たに明かされるVision Proの仕様も数多くあるはずなので、引き続き続報を楽しみに待ちたいと思う。

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