AI×エンタメの“現在地と未来”
「データ分布の外側」にある音楽へたどり着くためにーーQosmo徳井直生&アンドリュー・ファイフに聞く“AI×音楽研究の現在地”
作曲がより身近なものとなり「音楽が付いていなかったものにも音楽が付いていく」
――「Neutone」はミュージシャンの制作を補助するようなプラグインとして生み出されています。一方で、AIに仕事を奪われてしまうのではないか、という懸念の声もあると思います。
徳井:写真撮影ひとつとっても、昭和初期と比較すると現代では飛躍的に簡単に、誰もが簡単に写真を撮影することができるようになりました。その一方で、プロのカメラマンが機材をしっかりセットして、時間をかけて撮るというのは変わっていないですよね。そうしたことと同様に、音楽制作のスタジオに籠って時間をかけて全身全霊をかけてクリエイティビティを発揮するような面は残しつつ、カジュアルな形で音楽を作るメディアも増えていくのかな、と。
だから僕らが思っている、作曲をすることや、何かを表現することの幅が広がる気がしますね。手軽な音楽表現やアートがAIを基盤にして登場し、「表現」の定義が変わるんじゃないかと、現状の動向を見ています。
――「表現」の多様化、もしくは再解釈ですね。興味深いです。
徳井:だから僕は、既存のミュージシャンが置き換えられるとは思ってないんですよ。ただ音楽の置かれる場所や頻度が増えるというだけで。プラスの面で考えれば画像生成AIが登場したことによって、本の各ページに挿絵が付けられるようになったのと同様に、今まで音楽が付いていなかったものにも音楽が付いていくようなことも起こりうるはずです。スマホの写真のように、必ずしも全ての曲が傑作である必要はない。
――では最後に「Neutone」やQosmoに関して、今後はどのように展開されていくのかを聞かせてください。
徳井:「Neutone」は使用できるAIモデルの数がまだ少ないので、そのバラエティを増やすのと同時に、それぞれのクオリティも上げていきたいですね。まだ研究者向けの色が濃い技術なので、もっとミュージシャンが手軽かつ簡単に使えるものを開発するのが課題だと考えています。あとは、BIGYUKIさんのようなプレイヤーともっとコラボレーションして、既存の音楽を再生産するだけでなく、新しい音楽を作るのにも役立つものであるということを知ってもらいたいです。
アンドリュー:開発の視点からでいうと、MIDI向けのモデルを整備していくことですね。それから、研究者たちによるAIモデルのコンペティションもやってみたい。それによって界隈が盛り上がっていったら面白いなと思っていますよ。
徳井:Qosmoの社長としては、きちんとマネタイズしていくことも目標ですね。ただ、最終的な目標は聴いたことのない新しい音を作っていくことです。自分がそうなりたいというのも個人的にあるんですけど(笑)、ここから新たなエイフェックス・ツインみたいな存在が生まれたら面白いでしょうね。