Weverse DMの開始でHYBEが優勢に 新発表から考える“韓国ファンコミュニティプラットフォームの現状”
4月24日、日本で初となるWEVERSE JAPANによるプレス向けセミナーが開催され、新機能となる「Weverse DM」のローンチと、日本のアーティストとして初めてAKB48が新機能へ参加することが発表された。また、結果的にはカカオエンターテイメントの成功に終わったSMエンターテイメントの経営権紛争後の協議結果、SM所属のアーティストのファンクラブシステムだったKWANGYA CLUBがWeverseに移行されること、SM所属アーティストのWeverse参加も発表されている。
これまでのWeverseと新発表の内容
「Weverse(ウィバース)」は、BTSやSEVENTEENなどが所属するHYBEの運営するグローバルファンダムライフプラットフォームのことである。「Official for All Fans 全世界のファンとアーティストが共にするグローバルファンダムプラットフォーム、Weverse」というヴィジョンのもと、参加アーティストごとにコミュニティが存在し、コミュニティに登録すればTwitterのようにアーティストが投稿した写真・動画・コメントなどを見てそれに直接反応を返すことが出来る。ファン同士でコメントでコミュニケーションする事も可能だがアーティスト本人が直接ファンにリプライを返すこともあり、拡散機能などはなく、基本的にはファンとアーティストのみが存在するSNSのようなプラットフォームとなっている。2020年にWeverseウェブが正式にオープンし、同年7月にはモバイルアプリの累積ダウンロード数が1000万件を突破した。
2021年1月27日にはWeverseの運営会社であるWeverse Companyが2000億ウォンを投資することでNAVERのV LIVE事業部を譲り受け、NAVERも4110億を投資してWeverse Companyの株式49%を取得した。(現在は66%/34%の比率)韓国内で初めてファンコミュニティに向けて「芸能人による生配信」に特化したライブストリーミングのプラットフォームとして広く定着していたV LIVEを吸収することで、2022年7月18日にはライブストリーミング機能Weverse Liveを搭載しUX、UIを改善したWeverse 2.0を披露した。
ファンコミュニティとは別に、日本で言うところの「有料公式ファンクラブ」である有料メンバーシップ制度も紐づけられており、メンバーシップ限定コンテンツもWeverse内で閲覧することが出来る。韓国では1年に1回、あるいは数年に1回の決まった期間しか加入することが出来ないことが多い「公式ファンクラブ制度」が、どこの国からでもいつでも常時加入出来るようになり、さらには公式グッズショップであるWeverse Shopとも紐づけられている。2020年2月当時、BigHitエンターテインメントの事業説明会で「Weverseを単純なファンクラブ、コミュニティではなくファンクラブ管理、オン・オフラインイベントの前売りおよびオン/・オフライングッズ販売、アーティストとファンとの疎通などのための総合プラットフォームに拡張する」という計画が発表された通り、ファン活動に必須である「コンテンツ鑑賞」「アーティストとのコミュニケーション」「ファンダム間のコミュニケーション」「コンサート・コンテンツ・グッズ購入」がWeverseの中で完結できるようになっている。また、グローバルファンクラブプラットフォームを標榜するとおり、コメントやコンテンツに関して15か国語に自動翻訳対応している点もユーザー拡大に大きく貢献している部分だろう。
5月に行われた株主向けのカンファレンスコールでは、今後の展開としてSMやアメリカのアーティストの参加予定・Weverse DMの開始(5月)・ファンがデザインしたグッズの売買システム、Weverse byFansの開始(6月)・新しいサブスクリプションシステムであるMembership+の開始(2023年第3四半期)などの計画が発表された。
ファンアート(ファンによるアーティストの二次創作絵)に特化した公式のサービスといえば、SMエンターテイメントは2016年からファンアートに特化したSNSサービスであるFANBOOKを運営している。また、byFansのようなファンによるデザイングッズ販売のシステムとしては、既に2019年からFANEIAというサービスが先行して存在していた。MAMAMOO・ONEUS・ATEEZといったアーティストのファンアートグッズの販売が可能で、売上はアーティストに何割か還元されるというシステムだったが、2022年でサービスは終了したようだ。二次創作を好むようなファンダムベースも巨大なHYBEにとっては、キャラクター化のIPビジネスと合わせていつかは手を入れたい分野だったのだろう。
上記の発表の中で最もファンダムの反響が大きかったのは、Membership+だろう。既存のWeverseのシステムに加えて、月額料金を支払うことで下記のようなメンバーシップ特典が使えるようになるサービスだという。
・広告なし→現在Weverse上では広告は流れないが今後広告を導入する予定で、その際に有料ユーザーは広告を除去可能
・アーティストへファンレターを送る機能
・アーティストによる直筆文字の投稿を閲覧できる
・Weverse Liveは現在も配信終了後にしばらく経ってからアーカイブを見ることが出来るが、そちらへの早期アクセス権
・Weverse Liveでのリアルタイムでの字幕
→既存のサービスでは配信終了後にしばらくすると無料で字幕がついているが、有料オプションとしてリアルタイムでの字幕表示も可能になる
・Weverse DM
→TwitterのDMのように、アーティストとの1対1でのブラインド(のような感覚)でのメッセージのやり取りが出来るシステム。15カ国語自動翻訳対応。
この中で最も大きな変更は、新しく始まるWeverse DMだろう。アーティストの実際のメッセージ配信自体は個別ではなく1対多数だが、タイムラインにはアーティストと自分のメッセージ内容だけが表示記録されるため、ファンにとってはLINEのように「1対1」での画像・音声・動画などを含むメッセージ感覚が味わえるというサービスだ。アーティストからのリアルタイムでのやりとりが実際に成り立つかどうかは、運次第と言えるが、既存のWeverse投稿とは異なりグループ単位ではなくメンバー個人の運用になるため、より親密な雰囲気の「推し活」が楽しめそうだ。他のグループメンバーからも投稿内容は見えないためにメンバー同士のやりとりやアーティストとファンのやり取りを見ることはできないが、それ故により「自分のファン」だけを意識したような投稿も増えるかもしれない。その「閉鎖性」によるハラスメントを心配するファンの声もあるが、実際にはやり取りは監視されており、問題のある投稿はAIによってアーティスト側に表示される前にあらかじめ除去されるという。
(参考:https://m.sportsw.kr/news/newsview.php?ncode=1065582968658877)
単独のサービスとしては、すでに5月2日からPENTAGON・TNX・CLASS:y・AKB48のメンバーが運用開始している。
SMエンターテイメントの経営権騒動の後にSMアーティストのWeverseへの参加が注目されたのは、SMのアーティストは既にこのシステムとほぼ同じような有料メッセージサービス「bubble」を利用しているということもあるだろう。bubbleはSMエンターテイメントとJYPエンターテイメントによる合同経営会社Dear Uが2020年から運営している個別メッセージサービスで、NCTやaespa、TWICEやStray Kids、NiziUといったSM・JYP所属の人気アーティストなどが使用している。IVEやMONSTA X、THE BOYZ、MAMAMOOなども加入しており、アイドル個人とファンの有料コミュニケーションサービスとしては、すでにKPOPファンの間ではお馴染みとなっている。アーティストだけでなく俳優やスポーツ選手、YouTuberなど、多様なジャンルの有名人が参加しているのも特徴と言えるだろう。