Nine Inch NailsやNUMBER GIRLも起用……2023年の注目ゲーム『Hi-Fi RUSH』開発陣が語る「90年~00年代ロックへの深い愛」
話題を呼んだNUMBER GIRL「INAZAWA CHAINSAW」の起用 向井秀徳がプレイしながら曲を歌ったというエピソードも
――ライセンス曲の中でも、特に日本国内で大きな話題となったのがNUMBER GIRL、それもシングルのカップリング曲だった「INAZAWA CHAINSAW」の起用でした。個人的にも衝撃的だったのですが、これはどのような背景から選ばれたのでしょうか?
ジョン:「INAZAWA CHAINSAW」は、僕が大学生のころにバンドでドラムをやっていた時に「ドラムやってるんだったらこの曲聴けよ。ヤバイよ」ってオススメされて、それで好きになってずっと聴いていたんですよね。
それで、本作のシナリオを考える上で、脱出のシーンを入れようとしていた時に、主人公のチャイだったら、きっとスマートに逃げるんじゃなくて、あの曲のドラムみたいにものすごく乱暴に、“いまにも崩れてしまいそうな感じ”で必死に逃げるだろうな、というイメージが湧いたんですよ。それで、実際に楽曲を使えないかどうか相談したところ、無事に使えることになりまして、このような形で使用させていただきました。
山口 誠(以下、山口):これ、多分“ジョンだからこそ”できたんじゃないかなと思うんですよね。日本人だと、そもそも「ナンバーガールをゲームで使おう」という発想になりづらいんじゃないかなと。ナンバーガールといえば伝説的なバンドで、どこか安易に「触れちゃいけない」感じがあるじゃないですか。そういう日本での扱いというか、ある種の先入観を持つことなく、素直にジョンがアプローチしたからこそ実現できたことなんじゃないかな、というのは思うんですよね。
小堀:でも、向井秀徳さんが会社にいらっしゃった時には、ジョンはめちゃくちゃ緊張してましたよ(笑)。
ジョン:(笑)。一番すごかったのが、ゲームが完成した時に向井さんを招待して一連の流れをお見せする機会があったんですけど、その時、向井さんがプレイしながらその場で「INAZAWA CHAINSAW」を歌っていたんですよ。
――えええ!! め、目の前でですか……?
ジョン:それはもう本当に鳥肌もの……いちファンとしても、ゲーム開発者としてもすごく鳥肌の立つ場面でしたね。
小堀:あれは忘れられないですね……。あと、実はこの曲ってステムデータが無かったので、ミックス前のデータをいただいて、それをゲーム内で極力音源に近づけながら再生するという作り方をしているんですよ。そもそも原曲の「INAZAWA CHAINSAW」はBPMがすごく揺れていて。もちろんそれが原曲の魅力ではあるので、ゲームのために調整を入れつつ、原曲と聴き比べて違和感が無いように仕上げるということをしていたんです。それを向井さんご本人に聴いていただくこと自体、半端じゃない緊張感だったんですが……最後の確認の時に「いい感じ」と言っていただけて、本当にホッとしました。
――向井さん自身、以前から『サイコブレイク』のファンだったとのことですし、まさに理想的なコラボレーションだったのかもしれませんね。ちなみに意外な選曲でいえば、一部の音楽ファンからはZwanの「Honestly」が選曲されていることに驚きの声が上がっていました。しかも、実際のゲームではものすごく重要な場面で使われていますよね。
ジョン:純粋に、リリースされた時からあの曲がずっと大好きだったんですよ。で、今回は暗いゲームは作りたくないなと思って、ノリとかテーマとかについて、とにかくポジティブなことを考えていたんですよね。それでシナリオを書いている時に、ふと、あの曲を思い出して「あのムードをゲームに取り入れたいな」「ユーザーに感じてほしいな」と思ったんですよね。
ただ、戦う時に使う曲ではないなと思ってもいたんです。でも、あの曲があるからこそ『Hi-Fi RUSH』のシナリオはできたし、絶対にどこかで使いたいと思っていたので、ああいう形で使うことにしました。あの場面で流れるアニメーションは楽曲に合わせる形で作ってもらったんですけど、実際に映像を見た時「完璧だな」と思いましたね。
――ライセンス楽曲はもちろんですが、本作はオリジナルのサウンドトラックも素晴らしい出来栄えですよね。まさに、冒頭でお話頂いた1990年代から2000年代のロックを聴いているような、爽やかでノリの良いサウンドがとても心地良かったです。個人的には特に序盤のステージにおけるコーラスの使い方が印象的で、プライマル・スクリームの『スクリーマデリカ』などに近いものを感じていました。
ジョン:ステージごとにテーマが違うので一概には言えないのですが、僕個人としては表現したいムードに対して「このアーティストが近いのでは」というのはそれぞれ最初から考えていました。たとえばBECKとかもその一つだったりしますし、今おっしゃっていただいたコーラスも、そういったムードを表現する上でこだわったポイントの一つですね。
柳 雅俊(以下、柳):コーラスの表現については開発初期のプロトタイプのころからこだわっていましたね。それこそ、まさにセカンド・サマー・オブ・ラブ的な楽曲も参照しながら、「こういうノリ良いよね」って話し合いながら作り上げていきました。
小堀:サウンドトラックを作るにあたっては、ステージごとに最初に何曲かイメージする曲のサンプルをジョンに提示してもらって、それらの曲の「こういうテイストが欲しい」というのを最初に話してもらうというのが基本のやり方でした。しかし、もう一つ特徴的なのが、ステージのテイストと一緒に折れ線グラフのような、そのステージの“盛り上がりを図で示したもの”を渡されるんですよ。
序盤はこんな感じで、ここでドーンと盛り上がって……みたいなことを示したものがあって、そこではこういうムードにしたいという、本当に設計図に近いものがあるんですね。それを参考にしながら、サンプルのテイストを取り込むことで楽曲を作っていくという流れで制作していきました。