なぜイライラ系2Dアクションは実況・配信コンテンツに選ばれやすい? 『VCC』で同接急増の『ポゴスタック』などから考える
“あるインディータイトル”が話題を集めている。
きっかけは、ゲーミングコミュニティ・VAULTROOMが主催するインフルエンサー、ストリーマーによるカスタムイベント『VAULTROOM Community Cup(通称VCC)』。2月28日の開催で種目となった『Pogostuck: Rage With Your Friends』(以下、『ポゴスタック』)の同時接続数が、配信の終了後から急増しているのだ。
『ポゴスタック』とはどのようなゲームなのだろうか。その概要と同タイトルが分類されるサブジャンルから、実況・配信文化発のトレンドの共通点を考察する。
「壺おじさん」の文脈を受け継ぐイライラゲーのセカンドウェーブ『ポゴスタック』
『ポゴスタック』は、ホッピングにまたがった原始人を操作し、ぴょんぴょんと跳ねながら、山の頂上を目指す2Dアクションだ。作品名となっている「ポゴスタック」とは、英語でホッピングを意味する「pogo stick」と、行き詰まるなどを意味する「stuck」を組み合わせた造語。名称がそのまま同タイトルのゲーム性を表している。
ゲーム界隈では近年、イライラ系2Dアクションが注目を集めている。「壺」や「壺おじさん」などの愛称で知られる『Getting Over It with Bennett Foddy』、強靭な脚力を持った男が“ぴっちぴちのギャル”に出会うため頂上を目指す『Jump King』などはその一例だ。
話題となったタイミングから『ポゴスタック』をそれらの“二番煎じ”と見なす人もいるかもしれないが、実は同タイトルは『Getting Over It with Bennett Foddy』から約1年半後、『Jump King』の約2か月前にリリースされている。言ってみれば、後者とはほぼ同期。イライラ系2Dアクションというジャンルから起こった第二波というわけだ。
開発・発売したのは、ドイツの個人ディベロッパー・Hendrik Felix Pohl。『ポゴスタック』は彼にとって、自身が手掛けて初めて世に出た作品である。対応プラットフォームはSteamのみで、価格は720円(税込)。今後はジャンルの前例と同様に、家庭用ゲーム機への移植が期待される。
なぜイライラゲーは実況・配信のコンテンツに最適なのか
決して万人受けする性質ではないながらも、定期的に界隈を賑わせているイライラ系2Dアクションたち。シンプルな操作性でプレイヤーを選ばないものの、強靭なメンタリティが必要とされるため、実質的には誰もが気軽にクリアできる類のゲームではない。しかしながら、どのタイトルも実況・配信におけるサブコンテンツとして、さらには視聴者からの人気を受けてのメインコンテンツとして、さまざまなストリーマーたちにピックアップされてきた。2BRO.の弟者や、声優の花江夏樹などはその一例だ。いったいなぜイライラ系2Dアクションは、ストリーマー・オーディエンスの心をつかむのだろうか。そこには実況・配信という場ならではの理由があると考える。
プライベートでのプレイとは違い、実況・配信には、コンテンツの送り手と受け手が一緒になって場の雰囲気を作り上げていく特徴がある。そのチャンネルのみで交わされる独自のあいさつや、サブスクライバーだけが使用できるスタンプ、明文化されていない暗黙のルールなど、同文化に親しんでいる人ならいくつも思い当たるモノ・コトがあるはずだ。それが良いコンテンツとなっていくかは、送り手だけでなく、受け手の姿勢にもかかっているといえる。つまり、両者は一蓮托生というわけだ。なかには自身の好みから外れたタイトルを実況・配信の題材に選ぶストリーマーもいる。「興味・関心のないタイトルであっても、この人の実況・配信なら最後まで観てみよう」と考えるオーディエンスの態度も同様である。
その前提に立つと、これらはストリーマーにとって、ある種の苦行であるかもしれないが、オーディエンスが喜ぶ題材であり、オーディエンスにとって、クリアを目指し奮闘する彼らを全身全霊をこめて応援するための媒介となる。「彼らが苦労するのを観たい」という視聴者心理もまた、応援の気持ちの裏返しだといえるはずだ。そうした両者の思惑は高い壁に立ち向かううち、連帯感を生み、困難を乗り越えたときには一体感となる。たとえクリアまでたどり着けなかったとしても、その過程・結果をともにわかちあえる喜びが、同ジャンルの実況・配信に価値をもたらしているのではないだろうか。
その意味において、広くはおなじ分野に分類され、おそらくは『Getting Over It with Bennett Foddy』の誕生にも影響を与えているであろう、「死にゲー」とは別の性質を持つ。同ジャンルでは、クリア済のオーディエンスが、なかなかクリアできないでいるストリーマーに対し、「クリアした」という事実によるマウンティングをおこなうことも珍しくない(意識・無意識にかかわらず)。他方、一連のタイトルでは、こうしたシーンをあまり見受けない実感がある。無論そこには、ポップなデザインや、単純な操作性による技術介入度の低さ、良い意味でのストーリー性の不足が影響している部分もあるのだろう。
そのような全体像を俯瞰すると、イライラ系2Dアクションにおけるストリーマーとオーディエンスの関係性は、いわば「協力・参加型」のような感覚に近いのかもしれない。同ジャンルを人気コンテンツたらしめる要因は、精神を破壊してくる強大な仮想敵をともに倒す仲間意識にあると言えるのではないだろうか。
トレンドと実況・配信の関係性が緊密となっている昨今、そこに存在するストリーマーとオーディエンスの連帯感・一体感は、ネクストブレイクを予測するための重要なキーワードとなるかもしれない。トレンドの発信地となりつつある実況・配信、さらにはカスタムマッチの文化から、今後も目が離せない。