『グランツーリスモ7』山内一典氏が明かす、PSVR2で“圧倒的なクオリティ”を実現できた理由 「VRの歴史50年、レースゲームの歴史40年における目標のひとつを達成した」 

『GT7』山内一典氏が明かすPSVR2版開発秘話

 圧倒的なグラフィックと、細部に至るまでの高い再現度でレースゲームの定番タイトルとなっている「グランツーリスモ」シリーズ。最新作である『グランツーリスモ7』は、2023年2月22日の『PlayStation® VR2』(以下、PSVR2)発売当日から対応タイトルに名を連ねており、注目を浴びていた。

 注目を集めるだけにとどまらず、『PSVR2』発売後もVRモードの圧倒的なクオリティの高さからプレイヤーの間で高い評価を受けていた同作。通常のモードにおいては外側からしか見えないはずの内装や、車体のパーツ一つひとつまで丹念に、そしてリアルに再現されていたこともあり、多くのプレイヤーが衝撃を受けただろう。

 なぜ、『グランツーリスモ7』はここまでの準備が出来ていたのか? 先日おこなわれた合同インタビューで、「グランツーリスモ」シリーズのクリエイターであり、株式会社ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデントを務める山内一典氏が、その答えを明かしてくれた。(編集部)

『グランツーリスモ7』は開発当初からVR対応を予定していた

ーー今回の『グランツーリスモ7(以下、GT7)』のVR対応について、こちらはどのくらいの時期から準備していたのでしょうか?

山内一典(以下、山内):『GT7』のVR対応に関しては、開発を始めた当初からターゲットにしていました。『グランツーリスモSPORT』を『PS VR』に対応させた時は、ハードウェアとソフトの開発タイミングがバラバラだったので、限定的な対応にとどまっていました。

 ですが、今作に関しては、当初からVRネイティブのタイトルとして開発された経緯があります。『PSVR2』のスペックがわかっている状態で開発をすすめられるというのはすごく大きかったですね。あとからVRに対応させるのと、当初からVR対応を前提に開発を進めるのでは、結構大きな差があると思っています。『PS VR2』に合わせる形でゲームを作っていくわけですが、改めて他のVR対応のタイトルを体験してみると、よりそれを強く感じますね。

 『GT7』は4Kグラフィックス、フレームレート60FPSのタイトルになったわけですけれども、それも実は『PSVR2』への対応を進めていった結果、自動的にそうなったんですよ。

『グランツーリスモ7』2023年2月アップデートトレーラー

ーー4KのVRで、フレームレートをキチンと出すのは結構大変だったんでしょうか?

山内:大変ですね。フレームレートを出すためには2つの要素が必要で、1つはクオリティを落とさず、いかに軽いデータを作るのかというところ。こちらは主にアーティスト側の仕事。で、あともう1つは、いかにそれを高速にレンダリングするか。これはエンジニア側の仕事となります。それらを組み合わせて、ようやくです。僕らは最適化、あるいはオプティマイズという言葉を使いますが、カリカリにチューニングしないとVRで『グランツーリスモ』は動きませんね。

ーー『PSVR2』と『PS5』の性能をフルに発揮して作られた作品だと思うのですが、「どうしてもこれは実現が難しかった」というものはありますか?

山内:VRの面に関してはなく、わりとやり切った感じがしています。VRは、全体でみれば50年ぐらいの歴史がありますけれども、いつかVRできちんとしたレーシングゲームを作りたい、という目標は、ウンと昔からあったわけです。

 ただ、それが現実的に、コンシューマーレベルにまで降りてくるには、やはりかなりの時間がかかりました。そうしたなかで、ほぼフル対応といえるような『GT7』を作ることができたというのは、ある種目標を達成したものとして考えていいのでは、と思っています。

ーー今回の『GT7』を開発するにあたって、VRで表現したいことが数多くあったかとは思います。山内さんのなかで、とくに「これが一番やりたかったことだ」というものがあればお伺いできますでしょうか。

山内:「グランツーリスモ」シリーズは、これまでも車のクオリティに関してはオーバースペックで作ってきたところがあるんです。ただ、通常のゲームプレイではそういった細かいディティールまでは見えないわけですよね。それをいつかキチンと見せたいと思っていたので、「VRショールーム」でエクステリア(外観)を舐め回すように見ることができたりとか、あるいは車の中に入ってインテリア(内装)をじっくり鑑賞できるようにするというのは、やはりやりたかったことの一つとしてプライオリティは高かったですね。

 実際にシートに座って、インテリア越しに外を見ながらドライブをする、というのをVRで再現するというのは、言ってみればVRの歴史50年、レースゲームの歴史40年というなかで、究極の目標のひとつではありました。ですから、それが実現できたというのは、目標を達成したと言えるのではないでしょうか。

ーー「VRショールーム」をはじめ、そうした臨場感を味わう上で、初心者でも歴代「GT」シリーズのファンでも、これをプレイすれば魅力を120%味わえるよ、というようなおすすめのモードやコース、車種などがあれば教えてください。

山内:先ほど申し上げた「VRショールーム」はもちろんですが、「スプリットスクリーン(2人プレイ)」以外でいえば、全てVRに対応しているので「レース」「タイムトライアル」もありますし、どれか一つが、ということはなく全て楽しんでいただけると思います。

 しいて言うなれば、「ミュージックラリー」なんかは、あまりハードなレースではありませんし、音楽を聴きながらドライブしてる気分が味わえますよ。かつ、このモードに関してはマップの情報やラップタイムなどは見えていなくてもいいじゃないですか。なので、情報表示を全て消した状態でプレイすることもできますから、こちらは没入感が一番高まるモードだと思いますし、そういう遊び方も楽しいと思いますよ。

ーー映像はもちろんですが、音に関してはVR用になにか調整を加えたとか、収録の方法を変えたとか、そういうことはあったのでしょうか?

山内:VR対応に向けてなにか特別なことをした、ということは無いですね。というのも、もともと『GT7』はサウンドにかなりこだわっていたんです。コースの空間上にさまざまな音源を配置するとか、あるいはレイトレーシングの技術を使って、音の反射、車から放射された音がコース上のどこからどう反射してくるのか、みたいなことも計算していました。

 それから、エンジンから室内での伝達、排気管から室内への伝達、音の共振などなど……僕らはこれを「インパルス・レスポンス」と呼んでいますが、そういった計算や設計を真面目にやってきていたんですよ。

 結果的にVRと組み合わさったことで、空間のなかで首を振ったりとかってことが自由にできるようになって、今まで作っていた「3Dのオーディオ」というものが素直に体験できるようになった、そういうことですね。

ーー先ほどのショールームの話とも繋がります。これまで作り込んでいたものが、VRによって完全に活かされた形なんですね。

山内:そうですね。これまで作り込んできてはいたものの、見せる方法がなかった部分が、VRによって見ることができるようになった、感じることができるようになったと。車の内装であったり、ディティールなんかも全部そうですね。

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