連載「音楽機材とテクノロジー」第13回:BIGYUKI
BIGYUKIに聞く、"スパーク"する音楽の作り方 審美耳を養い、機材と向き合うことで「想像しえない場所に連れて行ってくれる」
――個人的にもYUKIさんの音色センスに毎回脱帽しています。
BIGYUKI:自分の一番の武器は音色への審美眼、というか審美耳。だから、いま使っている機材は直感に触っていて気持ちいいところへ行きやすく、なおかつ自分が想像しえない場所に連れて行ってくれるものが多いですね。
――その審美耳を養うために必要なことは何だと思いますか。
BIGYUKI:よく言われることですが「音楽を聴くこと」だと思います。本当に美味しい物を食べると、舌が肥えるのと似ているんじゃないかな。100人中99人が美味しいと思うように設計されているものよりも、100人中50人の口に合わなくても残り50人が「こんなの食べたことない」と言うような、リスキーだけどハマった時に感動するような芸術や音楽、映像を味わうことが自分にとって大事。
また音情報だけでなく、その後ろにあるカルチャーや歴史、文脈も複合的に混ざり合った音楽として体験することで理解が深まると思います。「これを読んだら分かりますよ」という、まとめだけでなく実際に触れてほしいですね。そして経験するために必要なことは、それを本当に好きになること。好きじゃないと気持ちが入りませんから。
圧縮された情報は、自分が好きなものを見つけるきっかけとして使うのがいいと思います。キュレーターの存在もきっかけにはなりえるはずですよ。僕にとっては幼馴染の友人のお洒落な兄貴がそうでした。そこから自分なりに経験を積んでいけばいい。センスがあるなと思う人が何を見ているか、そして実際に話してみる。
――では話を戻します。“自分の想像しない場所に連れて行ってくれる”現在の機材について教えてください。
BIGYUKI:最近で一番のターニングポイントはルーパーの導入ですね。2021年はニューヨークがコロナの影響で機能しておらず、ビジネスがまだ開いている東京に3回ほど帰ってきてました。バンドは連れてこれないので、これを機にピアノだけのライブをしたら「ひとりは楽しいな!」と(笑)。いままでもひとりで弾くことはありましたが、1時間以上の尺を自分で完結させるということはありませんでした。バンドメンバー内でアイデアを伝えあうタイムラグ、伝わらなかった時のフラストレーションがなく、カッコいいと思ったものを瞬発的に出せるフォーマットに面白みを感じたんです。
そこから2回目はもっと持ち味であるシンセの音色を前に出そうと、PIGTRONIX『Infinity 3 Double Looper』も取り入れ、ピアノ、ボコーダーと少しのシンセで構成しました。そして3回目はドラムマシンを導入。ビートをループさせた上でピアノを弾く人が多いですが、僕は右手でシンセなどの演奏をループさせ、左手でドラムマシンを叩くという手法でしたね。さらに、その無茶なアイデアを無理なく効率よく具現化しようと「Ableton Live」のルーパーをニューヨークのライブで使ったら、PCが古いためにトラブル続きになってしまいました……(笑)。
それで、いよいよ『RC-505』を使い始めたら自分にとてもフィットしたんですよ。さらにドラムマシンSOMA laboratory『PULSAR-23』、コントローラーとしてARTURIA『Keystep Pro』、さらにシンセベースとして『miniKORG 700FS』をMIDIループで使って音を変えつつ、『Prophet-10』でオーディオループも作れば、これでライブのプロダクションが完結できる。しかもDJみたいにBPMを保ったままで音楽を変化させることも、テンポを落として違うフィールに行くこともリアルタイムでできるなと。それを試したのが昨年末のイベント『Craft Alive』だったんです。
――なるほど。大変興味深いです。あのイベントでは、もはやプレイヤーというだけでなく、DJのようにも感じました。
BIGYUKI:いまはテクノのDJやエレクトロニカのアーティストに興味があるんです。長い尺を使って場を盛り上げる感覚ですね。そのエレメントを自分の音楽にも入れたいと思っていて、自分が好きで比較的フォロワーが少ない人にアプローチしてコラボできたらと考えています。ジャンルの壁が壊れる瞬間にエキサイティングな音やシーンが生まれるじゃないですか。ロバート・グラスパーやRHファクターが実現したように。僕はジャズみたいなライブ・インプロヴィゼーションとテクノの間にすごい可能性を感じているので、今後はそこも探っていきたいですね。