地域や次元、そして事務所すらも さまざまな"壁"を飛び越えた2022年・にじさんじタレントらの名配信・名シーン(前編)
にじさんじに所属するメンバーを、みなさんはどうみているだろうか?
老若男女問わずに元気とパッションを与え続けるアイドル? 瞬間的な閃きとノリの良さでボケとツッコミを重ねてその場をかっさらってしまうお笑い芸人? ゲームプレイなどを通じてエンタメを届けるストリーマー?
おおよそそのどれか一つではない、アイドルでありお笑い芸人でありストリーマー、なんでもこなしてみせる「バーチャルタレント」だ。筆者はおおよそ彼らをそのように捉えている。自分自身の感性などを誠実に伝えてファンを導いていける資質は共通しており、そのためにはバーチャルもリアルも関係なく、生身を通して表現しようとする。普段の配信はそこにリアリティを付け加え、ある種の重みとなって届く。
そんな「にじさんじらしさ」溢れる配信をひとつだけ選ぶなら、ROF-MAOの「ろふまお農業」だろう。活動開始から3Dボディ・スタジオを使った収録をしつづけ、というか初回から「無人島で収録」でスタートしたように、外ロケも彼らには当たり前。
「リアルとバーチャルなんて関係ない」と言わんばかりの越境性・バイタリティ溢れる活動は、ぽんぽこ&ピーナッツくんやおめがシスターズなどの系譜にありながら、2017年からだろうが2021年からだろうが関係なく、「そこまでやります?」と思わせるほどの思い切りの良さで注目を集めることになった。
そしてスタートしたのが「農業」。ネットで活躍するバーチャルな存在が実際の農業をし始めるというのはシュールであり斜め上すぎるが、ここまでくると「ROF-MAOだし、まぁやるよね」という謎の納得感すら出てきてしまう。
サムネイルにある「気長だぞ~~この企画」は冗談のようでいて、本音であり事実だ。気長にじっくりと継続する、毎日のように手入れをする手間もある。これは都会生まれ・育ちの方には伝わらないかもしれないが、想像の数倍は過酷になる。それは本人たちだけでなく、ROF-MAOスタッフらも同様。剣持刀也が思わず口にした「VTuberってこんなんだっけ?」という自問も至極当然だ。
バーチャルな存在は汗や涙を流すという表現はほとんどなく、リスナーやファンは彼らが流す血・汗・涙を見たがる。安心してほしいが、その欲望はVTuberだけでなく多くのエンタメシーンで見られる傾向である。そのギャップ、神秘性と身体性のバランス・塩梅がこのシーンを面白くさせているのだ。
最後に、冒頭で書き忘れていたが、大きな転換点として忘れてはいけないのは、12月5日に発表されたANYCOLORとカバーによる「誹謗中傷行為等の根絶に向けた」共同声明を発表したことにある。
00年代をひとつの起点としたとき、当時のインターネットカルチャーには、インターネット掲示板を中心として、相手に向けて度が過ぎるほどの誹謗・中傷の言葉をぶつけることが「当たり前」という風潮があった。30歳~40歳代前後のネットフリークな方々ならその感覚を覚えてるはずだ。
2010年代に入るとSNS上にもそういった声は溢れ、一般人同士だけでなく一介のタレントにも当然刃が向かうことになった。ヘタを打てばすぐに批判の声がとび、いつも通りのことをしても嫉妬と非難の声が飛んでくる。「一億総監視社会」とはだれが言ったか、まさにそういった窮屈さがインターネットを中心に広がり、交友関係にまで浸透した時代でもあった。
そして2022年。シーンを代表するタレント事務所同士が「権利侵害や誹謗中傷などの助長行為を一切行なってはならない」という断固たる主張を掲げ、共に手を取り合ったのだ。インターネットカルチャーの趨勢をみつづけてきた者であるならば、これは「時代の変化」だとハッキリと感じ取れるだろう。VTuber/バーチャルタレントというネットシーンの最先端を往く場所でこういった判断がなされること、それ自体がすでに大きなインパクトなのだ。
この転換は、2023年以降に大きな余波を生みだすだろう。リアル(現実)もバーチャル(仮想)も些細な違いでしかなく、本人の心へ凄まじい爆発音とともに響く時代となった。いよいよ壁はなくなる、いや壁など無かったと気づく時代になるはずだ。
Nornis 町田ちま・戌亥とこ・朝日南アカネ × 亀田誠治に聞く『Transparent Blue』制作秘話 「VTuberだからこそ引き立つ人間性、歌の個性がある」
バーチャルライバーグループ「にじさんじ」の所属ライバー、町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネによるユニット・Nornis(ノルニス)…