「自分が主役のゲームを作りたい!」 湊あくあの夢叶いし恋愛ゲーム『あくありうむ』が泣ける

 ガチゲーマーをうならせるゲームスキルの高さと、歌やダンスの上手さを生かしたキュートで華のあるアイドル性を兼ね備えたホロライブ2期生の人気VTuber、湊あくあ。彼女が主演/プロデュースを務める恋愛アドベンチャーゲーム『あくありうむ。』が発売された。

 本作は、ひとりのVTuberに焦点を当てた初の家庭用ゲームだ。ホロライブの人気メンバーによる作品ということもあり、発売初週の『ファミ通』のゲームソフト販売本数ランキングでは、公式ショップ限定の豪華特典版「hololive Official Edition」やSwitch/P4のDL版の本数を除いた、店舗特典付きのパッケージ版「完全生産限定版 (Nintendo Switch™)」だけで約1万3000本のセールスを記録し、8位にランクイン。実際にプレイした人々の「面白い」「泣いた」という感想も口コミ的に広まっており、最近の美少女ノベルゲームでは異例のヒットとなっている。今回はそのプレイレビューをお届けしたい。

 『あくありうむ。』は、湊あくあが2021年1月に達成したYouTubeのチャンネル登録者数100万人を記念して制作されたゲーム作品。ホロライブでは100万人達成のお祝いに望みをひとつ叶えてもらえる制度があり、メンバーごとに新衣装や企業コラボなどさまざまな企画が実現している。そのひとつとして、「自分が主役のゲームをつくりたい!」という彼女の夢が実現したのが本作なのだ。

 達成から1年後の、2022年1月に豊洲PITで開催されたワンマンライブ『湊あくあ ワンマンライブ2022「あくあ色 in わんだ~☆らんど♪」』でコンシューマーゲーム化が発表され、じんが手掛けたオープニング曲「未だ、青い」が流れるOPムービーが公開されると、楽曲と見事に連動したクオリティの高い映像が話題になった。

【公式OP】『あくありうむ。』OPムービー【Vo.湊あくあ】

 ノベルゲームというジャンルの性質上、ネタバレ回避のため極力詳細は避けて書かせていただくが、まず印象的なのは、いわゆるギャルゲーの中でも”ストーリーに重きを置いたタイプ”の作品であること。本作は湊あくあ自身がプロデュース/主演を担当、シナリオ原案も自分で担当しており、謎の少女が登場する悪夢に悩まされる名門フランソワ家の御曹司テオと、彼の専属メイドとして仕えることになった、あくあとの身分差を超えた恋愛が描かれる。

 彼女といえば、以前配信中に偶然映ったNintendo Switchの待機画面からKeyの泣きゲー『Summer Pockets』を遊んでいることが話題になったこともあり、その際「全ルートクリアした」とも語っていた。そういった意味でも、もともとギャルゲーの中でも物語性を重視した作品への興味があるタイプだったのかもしれない。また、シナリオのモチーフになったのはシェイクスピアの恋愛悲劇『ロミオとジュリエット』で、過去のワンマンライブでも『シンデレラ』や『不思議の国のアリス』をモチーフにしてきた彼女らしいテーマと言えそうだ。

 ゲストとして同じホロライブの白上フブキや宝鐘マリンも、それぞれテオの姉/あくあの先輩メイドとして登場。本作は全編フルボイスなのだが、3人の演技が自然なことに加えて、会話のテンポも軽妙なため、最後までダレずに物語を楽しめる。

 また、全編にわたって3人の配信ネタもちりばめられている。リスナーにはお馴染みの数字「44.5」や湊あくあ考案のマスコット「NEKO」、オリジナル曲の歌詞、宝鐘マリンの出航&湊あくあを産みたいネタ、白上フブキの激辛&金コイキング耐久ネタなどの定番に加えて、お互いの過去のコラボ配信を連想させるものや『マインクラフト』のエンチャント本釣りなど、よく配信を見ていないと気付かないものもある。緩急ついた曲調でコミカル/シリアスの両方を盛り上げるハムによるBGMも秀逸で、賑やか&楽しい雰囲気で進んでいく日常パートを魅力的に彩っている。

 サブルートとして用意されたマリンルート、フブキルートはお笑い、お色気、メタまで何でもありのコミカルな雰囲気なのに対して、テオとあくあの恋愛を描いたメインルートは切ない恋愛物語になっていることも印象的で、そのギャップによって作品全体に魅力的な幅が生まれている。賑やかな日常があるからこそ、プレイヤーもその日々に愛着を感じて、物語の行く末を見守りたくなる。

 普段から関係性のあるメンバーが参加しているからこその息の合った会話劇も相まって、物語に深く感情移入できるようなゲーム体験が楽しめるものになっている。なかでも、チャプター2の中盤でのテオの過去の記憶に関する海辺のシーンや、物語全体のラストシーンは、筆者もプレイしながら思わず涙腺を刺激されてしまった。

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