圧倒的な臨場感を耳元で実現する「空間オーディオ」の世界 スマホとイヤホンだけで楽しめる最先端の音像に迫る

 ・最近よく聞く「バイノーラル録音」って?

 スピーカーとヘッドホンでは、スピーカーのほうが臨場感を感じやすい。これはスピーカーであれば音源と耳の位置が遠く、右のチャンネルの音も左の耳にやや遅れて到達するため、この微妙な差を距離感として認識できる(頭外定位)からだ。これに対し、ヘッドホンではドライバーと耳の位置が極めて近いため、左右のチャンネルの音はそれぞれの耳にしか到達せず、音が頭の中で鳴っているように感じてしまう(頭内定位)のだ。

 こうした問題を解決する方法の一つが、人間の左右の鼓膜の位置にマイクを並べて録音する「バイノーラル録音」という手法だ(厳密には体に伝わって届く音波なども考慮している)。これは主に人の頭〜肩を模したダミーヘッドマイクによって録音される。ダミーヘッドの鼓膜の位置にマイクを設置して録音を行うのだ。バイノーラル方式で録音された音はステレオ再生であっても、頭外定位の音として再現されるため、臨場感のあふれる再生が可能だ。これを利用して、最近ではASMR(環境音などで心地よさやゾワゾワするような官能を誘発する反応)音源として、個人でもバイノーラル音源を制作したり楽しんだりするようになった。

ゼンハイザージャパン「Neumann KU 100 の外面と内部をご紹介します」より

 バイノーラル録音の弱点は、実際に音を録音しなければ立体感が再現されない点にある。極端な話、頭の上を大砲の弾が飛んでいく音を再現したければ、実際にダミーヘッドの上を掠めて大砲を撃つ必要がある。対する空間オーディオでは、音源から耳まで音が伝達する際のズレまでを関数(頭部伝達関数:HRTF)を使って処理する(バイノーラルプロセッシング)。これにより、どんな音にも頭外音像定位を与えることが可能になる。バイノーラル録音は定位が後頭部付近に偏りやすいという指摘もあるのだが、バイノーラルプロセッシングであればこうした偏りも調整しやすい。

ゼンハイザージャパン「“バイノーラルのためのAMBEO” Moods.digital I Sennheiser」より

 もっとも、HRTFには個人差もあるので、最適化には何らかの事前調整が必要だ。通常、HRTFの測定には大掛かりなシステムが必要だが、空間オーディオ技術である「360 Reality Audio」対応のヘッドホンでは、スマートフォンを使って耳の形状を撮影することでHRTFの個人最適化を可能にしている。将来的にはヘッドホン・イヤホンが耳内部の測定機能を備えるなどして、自動で補正することも可能になるだろう。

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