Netflixが取り組む映像業界のハラスメントへの意識 「Netflix Studio Day」で語られた独自の仕組み作り

 近年、VFXやCGといった映像技術の飛躍的な向上によって、クオリティの高い映画が多く生まれている。

 撮影技術の革新が進んでいるのに加え、俳優による迫真の演技やアクション、緻密に練られたシナリオが相まって、多くの人の心を動かす作品ができると言えるだろう。

 そんななか、世界に通用する作品のクオリティを意欲的に追求しているのがNetflix(ネットフリックス)だ。

 最先端の技術導入はもとより、映画制作における現場の働きやすさや生産性にもこだわり、バックグラウンドに囚われない多様性のあるチームづくりにも取り組んでいる。

 去る2022年7月8日にはNetflix主催のメディアイベント「Netflix Studio Day」が都内スタジオで行われ、Netflixの作品づくりに関わるクリエイター支援の取り組みやクオリティを高めるための試みについて発表された。

Netflix作品のクオリティの底上げにむけた取り組み

Netflix プロダクション部門 日本統括 ディレクターの小沢禎二氏

 冒頭にはNetflix プロダクション部門 日本統括 ディレクターの小沢禎二氏が登壇し、「Netflix作品のクオリティの底上げにむけた取り組み」についてプレゼンを行った。

 Netflixでは、質の高いコンテンツを生み出すべく、クリエイターや制作パートナーをサポートするさまざまな取り組みを行っているという。

 そのうち、今回のイベントでは以下の3つが紹介された。

①グローバルで培ったノウハウの共有

 日本の映像業界はデジタル化が遅れていると言われる一方、Netflixではデジタル化を生かしたワークフローの導入により、撮影現場における生産性の向上や作業の効率化を図っている。

 とりわけ、長年にわたってアナログな作業がメインだったスクリプター(撮影現場で監督の隣に張り付き、撮影内容を細かく記録する役目を担う職業)の作業を、iPadと専用のソフトウェアを活用することで、撮影現場で全ての工程を終わらせられるようなトレーニングを実施しているそうだ。

 また、映像の世界観や制作過程の設計図となる「バイブル」を通じて、撮影現場のスタッフや役を演じるキャスト同士が共通理解を持つために、近年ではクリエイター向けのバイブルワークショップを導入し、作品づくりのチームワークを高める試みも行っている(バイブルの取り組みについては後述)。

②世界水準の最新技術の導入

『今際の国のアリス』

 Netflix映画『浅草キッド』で登場する昭和時代を彷彿とさせる浅草の町並みや、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』シーズン1での誰もいない渋谷の街並みなど、再現が困難な映像を作る際には、セットエクステンションという技術を用いて表現しているという。

 加えて、『今際の国のアリス』でクロヒョウが出現するシーンではCGでクリーチャー(動物)を生み出すデジタルクリーチャーを採用し、CGだけでは再現が難しい毛並みや隆々とした筋肉の動き、リアルな顔の表情などを高いクオリティで再現している。

 さらにNetflixシリーズ『全裸監督2』では、撮影現場で周りの風景を目に見える形で確認しながら撮影できるインカメラVFXを導入。この技術があることで、俳優が演技に集中しやすくなり、制作工程の効率化にもつながったという。

③働きやすい制作環境の整備

 Netflixでは、全世界190か国以上の国や地域に渡る視聴者に向け、クオリティの高い作品を届けるのを心がけている。

 そのために、キャストやスタッフが安心して働ける制作環境を整備し、作品づくりに集中できるような取り組みを行っているという。

 まず1つは、Netflix作品(独占配信する作品)の撮影に入る前の段階で、その作品に関わる全てのキャストやスタッフを対象とした「リスペクト・トレーニング」だ。

 このトレーニングを通して、キャストやスタッフ同士の尊重し合う気持ちを醸成し、現場の共通認識として浸透させるのが目的だという。

 また、インティマシーシーン(俳優が肌を露出したりキスをしたり、身体的な接触のあるシーンを指す)における俳優側の意思と、監督や演出側の意図を擦り合わせを行うインティマシー・コーディネーターを起用し、役を演じる俳優の精神的・身体的な安全を守れるような調整を図っているそうだ。

撮影現場の心をひとつにする“バイブル”の存在

Netflix コンテンツ・クリエイティブ部門 マネージャーの岡野真紀子氏

 続いて、Netflix コンテンツ・クリエイティブ部門 マネージャーの岡野真紀子氏が登壇し、「撮影現場の心をひとつにする“バイブル=設計図”」というテーマのもと、バイブルワークショップの実践について説明した。

 バイブルと言えば聖書や指針という意味を思い浮かべるが、「Netflixではバイブル=設計図と捉えている」と岡野氏は話す。

 「企画書とバイブルの違いについては、前者がプレゼン資料の側面が強いのに対し、バイブルはこれさえあれば作品制作に関わるスタッフ全員が共通認識を持って、よりダイナミックでスムーズな制作プロセスを踏襲できる設計図の役割を果たしている」

 このバイブルは、数十ページに及ぶ物語の起承転結が記された資料となっている。

 キャストやスタッフは常にバイブルに沿って作品づくりを進めていくことで、クオリティ向上のみならず、制作チーム全体の目線合わせにも寄与するわけだ。

 「作品の撮影に入る前の、初期の段階から設計図を整えておくことで、キャストやスタッフの迷いがなくなったと感じている。さらに、連続ドラマでは複数の脚本やプロデューサーが入るので、バイブルのような設計図をもとに作品制作に取り掛かることが可能になっている」

 直近、日本国内では数作品でバイブルワークショップを導入し、クリエイターのサポートにあたっているという。

 物語をつくる理由や世界観、印象や雰囲気といったトーン、登場人物の作り込みや各話のあらすじなど、作品づくりにおける多様なノウハウやエッセンスを落とし込み、クオリティの底上げに従事しているそうだ。

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