近距離無線通信に革命を起こした規格「Bluetooth」を改めて解説(後編)

 テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。  本連載はこうした用語の解説記事だ。第15回は前回に引き続いて「Bluetooth」について。多くの人にとって無線イヤホンの接続技術として愛用されているであろうBluetoothだが、遅延や音質などの面での制約もある。高音質化へのニーズが高まるにつれてBluetoothがどのように対応してきたのか、その歴史について紹介しよう。

Bluetoothオーディオはコーデックが左右する

 前回紹介したように、Bluetoothでは機器の使用目的に合わせて「プロファイル」を利用している。オーディオ関係のデバイスについては、「A2DP」(Advanced Audio Distribution Profile)と「AVRCP」(Audio/Video Remote Control Profile)が使われる。前者がオーディオ機器など、ステレオ品質のオーディオデータを送信するためのプロファイル、後者はオーディオ/映像デバイスのリモコン用プロファイルで、重要なのはA2DPのほうだ。

 A2DPプロファイルはオーディオデータ転送用のプロファイルだが、オーディオ機器(SRC:ソース)とヘッドフォンやスピーカー(SNK:シンク)の接続や、データのカプセル化のみを規定しており、実際に転送するデータ自体の中身については、互換性のために実装必須とされているSBC(Sub Band Codec)を除いて規定がない。

 Bluetoothは転送速度が遅いため、非圧縮、あるいは圧縮率の低いデータを扱うのは限界がある。そこでデータの圧縮が必須になるのだが、このときに使われる圧縮方式などを規定しているのが「コーデック」だ。A2DPでは必須コーデックとして「SBC」(Sub Band Codec)が規定されている。

 SBCは、量子化ビット数16bit、サンプリング周波数48kHzまで対応したコーデックだ。スペック上、音質そのものはそこまで悪くないのだが、音声データをSBCコーデックで圧縮するぶんの時間が遅延となってしまう。遅延は約200ミリ秒あり、ゲームや動画など、画面とのシンクロが重要な場合にはあまり向いていない。また、いわゆるハイレゾ音源にも非対応だ。

 より高音質、あるいは低遅延の機器を作るべく、メーカーはSBC以外のコーデックを採用している。代替コーデックの中で代表的なもののひとつが、アップルがiPhoneおよびAirPodsなどで採用している「AAC」コーデックだ(Androidも8.0以降で対応)。AACは遅延が120ミリ秒前後と、SBCよりは少なく、同程度の音質を、SBCより低いビットレートで実現できるとされている。なお、Apple MusicではAACが標準コーデックとなっているので、転送時に再圧縮の必要がないのでは?と期待してしまうが、実際には一度PCMに変換されてからAACに再変換されるため、無変換で転送されるわけではない。

 一方、Android 4.x以上では、米Qualcomm社が開発した「aptX」コーデックが標準となっている。遅延が100ミリ秒程度と、SBCやAACに比べて低遅延で、音質は同等以上とされている(量子化ビット数/サンプリング周波数自体は16bit/48kHzで、SBCやAACと変わらない)。

 aptXにはいくつかの派生コーデックも登場している。aptXの遅延をさらに小さくしたのが「aptX LL」だ。音質はaptXと同等程度で、遅延は40ミリ秒程度と、非常に小さくなっており、ゲームなどでも実用的に利用できる。また遅延こそ130ミリ秒程度と大きいが、24bit/48kHzに対応した「aptX HD」があり、こちらはハイレゾ対応が可能なものとなっている。さらに最新の「aptX Adaptive」では、転送レートを可変させることで低遅延と接続の安定性を両立させており、24bit/96kHzと、ハイレゾ級の高音質も望めるバランスのいいコーデックとなっている。ただしいずれも対応スマートフォン自体はあるが、Android全体で対応している機種は限られている。

 OS標準のコーデックに頼らず、自社開発のコーデックを搭載する例もある。代表的なものが、ソニーが開発した「LDAC」だ。LDACは遅延がSBC以上に大きいものの、24bit/96kHzに対応しており、SBCの約3倍というビットレートを設定でき、ハイレゾ音源も高音質で再生できる。主に同社のスマートフォンやワイヤレスイヤホンが対応しており、ワイヤレスで高音質を楽しみたいユーザーに人気がある。

 このほかにSamsungの「SSC」(Samsung Scalable Codec)、ファーウェイの「HWA」(High-Res Wireless Audio)、Hiby Musicの「UAT」(Ultra Audio Transmission)など、ハイレゾ対応のコーデックもあるが、いずれもほぼ自社製品専用となっている。

 高音質なコーデックは魅力的だが、実際に利用できるかどうかは使用するスマートフォンやワイヤレスイヤホンがサポートするコーデックの種類に左右される。たとえばiPhoneはSBCとAACにしか対応しないため、aptXやLDAC対応のイヤフォンを接続しても、SBCでの接続となってしまう(双方に共通のコーデックがない場合は必ずSBCが使われる)。ハイレゾ対応のコーデックにこだわる場合、特に自分のスマートフォンがそのコーデックに対応しているかどうかはしっかり確認しておきたい。残念ながらメーカーのスペック表でもオーディオコーデックまで記載されていることは少ないので、ウェブなどで情報を集めよう。全体的な傾向としては、LDACについては比較的対応製品が多いほか、最新のSnapdragon SoC搭載モデル(ハイエンド)であればaptX Adaptiveに対応しているものが多いようだ。

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